安全マメ知識 まめ

 タイムマシンに乗って未来を予見できれば,災害も疾病も回避できそうに思える。しかし,タイムマシンは因果律を結果から原因を見ることを可能としても,因果律そのものを変えるものではない。原因があって結果があるとする因果律を認め,そして結果を回避したいならば,その原因を取り除く必要がある。災害および疾病を偶然とするのではなく科学的因果律と認識するなら,安全を確保するには,その要因を取り除くか,またはその要因に迷い込まない対策を立てることが安全管理の基本となる。しかしながら,時間が過去から未来へ一方的に流れる現実の世界においては,ある状況または事象が,将来,重大な災害および疾病を誘発する要因であると,その時点で判断することは必ずしも容易ではない。逆に,人間はその時その時の利益追求に追われ中長期的因果律を無視しがちである。この悪癖を考慮しながら安全対策を確立するために,先人は過去の災害・事故の要因・原因を分析し,どのような場合に,何が原因で事故が生じたかを明らかにし,それを回避する対策を立てることによって,事故を未然に防ぐことができる事を我々に教えてきた。
  近代社会においては,安全の確保において,災害・事故をそれぞれの専門的科学的観点からその原因と要因を分析し,事故を回避する要因の除去,要因に至らない対策を種々の観点から科学的経験的に取りまとめ明文化したのが「消防法」「高圧ガス保安法」「毒物および劇物取締法」「有機溶剤中毒予防規則」「特定化学物質等障害予防規則」「DNA実験安全管理規程」「放射性同位元素等管理規程」「病原性微生物等安全管理規程」等であろう。

これらの法令・規則・規程は個人の経験をベースに科学的に体系化されたものではなく,様々な社会活動の場で多くの人々が遭遇した経験をもとにして作られているため,安全と衛生に関する多くの遵守事項は個人にとっては単なる形式的知識に近く,実体験に基づく経験則ではない。このことが安全衛生管理教育上の最大の課題となっている。形式的知識はすぐ忘れることから大学教育の中に安全確保のための模擬体験が是非とも必要であるとする根拠となっている。一方,安全と衛生を確保するための組織的取組みを規定した法律が「労働安全衛生法」である。これは,先の個別法が特定応用分野の防災個別法であるのに対して,個人および組織が安全衛生活動を維持するための組織的活動規程である。すなわち,先の個別法を各職場,個人が遵守しているかどうかをチェックし,維持させるための管理体制規程である。いずれにしても,これらの規則・規程は安全衛生管理において事実の確認・判断・処理・記述のすべてを人間が行うことを前提としているが,膨大な化学薬品の管理,在庫管理,購入・廃棄管理,処理・利用管理等の安全衛生管理は作業する人間にとって必ずしも容易ではない。人間の記憶の不確かさ,記述の不正確さは避けられないとすれば,コンピュータによる薬品管理システムは人間の記憶の不確かさ,記載の不正確さを補うための安全衛生管理システムといえる。その利用においては,使いにくい,実情にそぐわないなどの苦情もあるが,薬品利用の安全管理の観点から,その利用を避けるべきではない。

札幌キャンパス安全衛生委員会委員長
岸浪 建史(理事・副学長

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