薬学研究科附属薬用植物園
前助手
吉田 尚利
薬用植物学は、薬学教育における基礎科目の一つに位置付けられており、天然薬物の基礎知識の修得に必須のものである。天然物の学習、研究において、植物に関する形態学・分類学・生理学(特に成分)及び資源についての知識が必要であることから、昭和31年5月より教育・研究の補助施設として薬用植物見本園、標本園と名称を変えつつ、地理的環境条件に適応した標本の蒐集に努め、昭和51年に法制化され、※薬学部附属薬用植物園として現在に至っている。総面積は約6,300uと小さいが、標本園、栽培園、試験園、樹木園、温室植物に区分され、約1,200種の国内外の薬用及び有用植物遺伝子を保持し、各種の試験栽培等を実施している。
北海道は歴史的に見ても薬用植物の栽培に意欲的で、今から250年前の松前藩時代に、オタネニンジン、オウレン等が試作され、以後亜寒帯気候に適した薬草生産が盛んとなり、全国生産量の約30%の出荷をみた。日本ハッカ等は、国際市場の75%を占めた時代もあった。薬用植物園としても、寒冷地薬用植物開発が地域社会に貢献するとともに、安定した医薬原料植物の生産を目的とした研究を担ってきた。昭和34年には、ヨーロッパアルプス地方で産出されるゲンチアナ・ルテア(苦味健胃薬・リンドウ科)の試作を開始し、昭和39年に国内で初めて開花・結実をみた。得られた種子より更なる試験を行い、輸入ゲンチアナ根と遜色のない良質な生薬生産を可能とした。次に漢民族の伝承薬の下薬(現在の治療薬)に記載されるダイオウ(タデ科)の試験栽培を試みた。中国が基本的に生きた植物の国外移出を禁止されていた頃で、農学部附属植物園が保存していた標本をもとに、種苗の増殖、圃場管理などの研究と生薬としての加工、調整法も確立し、ダイオウ生産が北海道に最適であることを立証した。またダイオウは自花不和合の性質が強く種子増殖に問題があることから、ダイオウの茎頂点培養を試み、種苗増殖法を確立した。これらの研究の結果は十勝地方のダイオウ生産の基礎ともなった。世界中には、30万種以上の高等植物があり、伝承薬として治療に用いられるものも多い。わが国も北海道から沖縄まで南北に長く、気候・風土も異なる上から、800〜1000種程の薬草が知られている。その中で北海道では200種ほどが自生している。薬用植物を世界的に見た場合、開発による伐採、医薬品原料目当ての乱獲により、絶滅する種も少なくない。道内においてもセンブリ、キキョウなどの野生は、今日見ることができなくなった。伝承薬の基原植物を保護すると共に、より有効な利用を考えるときに、薬用植物遺伝子を管理・保管することが大切である。
近年、薬用植物の成分、薬理作用の研究が盛んになり、多くの情報が得られるようになったが、一方では薬用植物の材料などに愛着を持った研究者が少なくなってきたように思う。薬用植物は大変興味深く、一生かかってもたった一つの薬用植物さえ理解しつくせないものと感じている。
科学の各分野が急速に発達するに伴い、それぞれの分野で研究者は相互に助け合い、研究することは、一層必要な時代となっている。また一般の人達に、科学情報を理解できる言葉で専門領域の成果を話す場所でもあり、市民にも広く利用される施設であるべきと考える。
※薬学部附属薬用植物園は平成12年4月1日より、薬学研究科附属薬用植物園となりました。
※吉田尚利さんは平成12年3月31日付けで停年退官されました。
ゲンチアナ・ルテア(リンドウ科)
系統保存区 96.6.29
ゲンチアナ・ルテア L
系統保存 18年生根 96.10.26採集
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