(株)アトリエアク  千葉 純子



プロフィール (ちば じゅんこ)
平成7年3月  北海道大学工学部卒業
平成9年3月  大学院工学研究科修士課程修了
平成9年4月  (株)アトリエアク入社


  この原稿を依頼されたとき、『社会で活躍する卒業生からのメッセージ』ということでしたが、とんでもない、というのが本音です(友人や先輩の中には、実際に素晴らしい活躍をしている方も多くいます)。しかし社会に出て早3年、慌ただしく過ぎた時間の中で漠然と感じたことなど『社会で悪戦苦闘する卒業生』のメッセージとして伝えてみようと、休日出勤のパソコンに向かっています。
  前例に倣い自己紹介から始めます。北海道(小樽)に生まれ、札幌に育ち、札幌南高校を卒業した後、平成3年北大理T系に入学しました。経済的条件から「地元の国公立」以外はほとんど選択の余地はありませんでしたが、それでも「自ら選んで北大へ行く」という気持ちが強かったように記憶しています。そして工学部建築工学科へ移行し、大学院工学研究科建築工学専攻を平成9年に修了後、現在札幌の設計事務所(アトリエアク)にて活動しています。
  生まれ育った場所で大半の時間を過ごし、そして仕事をしている訳ですが、現在の自分の価値観、アイデンティティーの形成にはその場所が大きな影を落としていると強く感じています。場所とともに、友人、恩師など北大で出会った多くの人々、そこでともに過ごした時間が自分の中に静かに積み重ねられているような気がします、とりわけ全国から集まった(北海道になにがしかの思いを抱いてきたであろう)仲間たちとの出会いは何にも代え難いものです。
  私は建築という仕事を通して、また現在住んでいる北海道という場所を通して社会に関わっています。大学という一種の純粋培養器から外に飛び出してみると、当然ながら様々な人間、混沌とした状況などが大きな口を開いて待ちかまえています。しかし、考え方の原点となっているものの多くは、北大で過ごした時間の中で種がまかれたものです。今すぐには役に立たなくても、いつの日か大きな糧として実感できると確信しています。その一方で、大学で専攻し、そして現在の職業である建築は、単に「おもしろい」、学生が熱中するだけの対象から、社会との接点として、自分の職業として、手に余るほどの多面的な意味を持ち始めています。実社会の中での営みは、学生時代には想像もつかなかった複雑さの中にあるようです。
  (どんな仕事もそうであるように)建築もまた非常に困難な仕事です。日々悪戦苦闘し、3年たった今も自分自身がおぼつかない状態です。時間との戦い、自分との戦い、睡魔との戦い、挙げていけばきりがありません。ルーチンワークと締め切りに追われ、深く思考することもおざなりになり、建築に対するモチベーションもかすんできたりします。なぜ自分はここにいて、この仕事をしているのか?と自問する毎日です。「おもしろい」という感覚を保ち続けるには気力と体力が必要なのだと最近感じています。また日常の中で、自分の感じた違和感とどのように折り合いをつけていくか、自分の何を信頼するのか。ただ立っていることすら危うい厳しい現実の中で、ふらつきながらも歩いていくために、いろいろな矛盾と戦っていかなければなりません。他人から見ると何でもない、ごく些細なことかもしれませんが。
  現在そのような小さな戦いの場は、ホームグラウンドであり、故郷である北海道です。他の都府県には申し訳有りませんが、私にとってここは世界の中でも特別な場所であり、ここに生まれ育ち、学んだことをとても幸運に、そして誇りに思います。これまでのように住み続けたいと願いながら、一方ではいつかは越えなければならない山のような存在でもあります。この場所を深く理解するためには、居心地の良さに甘えるばかりではなく、外から見ることも必要なのだと強く感じています。
  ともに学んだ仲間たちの多くは日本各地に散らばっていますが、何らかの形で北海道に関わり続けてほしいし、それがいつか、北海道を動かす原動力になればと願っています。


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