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東 前副学長,片山名誉教授に北海道科学技術賞

 このたび,本学前副学長 東 市郎氏(現函館高専校長,名誉教授,前免疫科学研究所教授)並びに片山明石氏(名誉教授,元工学部教授)の両氏が北海道科学技術賞を受賞されました。
 この賞は,道民生活の向上のために科学技術の研究,実践活動により,地域産業の振興に貢献した業績をたたえ,道民の科学技術の振興意識を高揚するために贈られるものです。
 両氏が長年にわたって優れた業績をあげてこられたことに対し,表彰がなされたものです。
 受章にあたっての感想,功績等を紹介します。

(総務部総務課)


東 市郎氏 東   市 郎 氏
 この度栄えある北海道科学技術賞を戴きました。ご推薦を戴きました北海道科学産業技術振興事業団の副理事長,中川修氏,審査委員会の方々,堀達也知事をはじめ,道関係者の方々に御礼申し上げます。
 私の研究は昭和35年,九州大学大学院医学研究科大学院生として故山村雄一(当時九州大学医学部教授)の許でスタートした結核菌菌体成分の生物学と免疫学的活性に関する研究に由来しております。以来私は,40年間にわたり結核菌菌体成分の生化学から免疫アジュバント活性(免疫強化活性)の研究へ,さらに,免疫強化活性を有する天然物や合成化合物について検討して参りました。これら免疫強化活性を有する物質を用いるがんの免疫治療法の開発や感染症の予防と治療への応用の可能性についても一部明らかにすることが出来ました。このように私は基礎研究の成果を臨床応用することに深い関心をもって研究をすすめて参りましたが,その目的の一部は果たせたと考えております。
 これらの研究を通して当時興隆期にあった新しい研究分野である「免疫薬理学」に直接関与することが出来たのもうれしいことでした。そして,恩師山村先生と30年前に語り合った結核菌研究の将来について,その一部でも実現できたと思え,私にとって誠に感慨深いことでした。
 私は本年3月北大を停年退職致しましたが,この受賞を契機にさらにこの分野の研究の推進に努力すると共に地域の科学技術の振興にも微力をつくしたいと考えております。

略 歴 等
生年月日 昭和10年12月1日
出  身  地 石川県輪島市
昭和33年3月 富山大学薬学部卒業
昭和35年3月 九州大学大学院薬学研究科修士課程修了
昭和37年10月 九州大学大学院医学研究科博士課程退学
昭和37年11月 大阪大学医学部助手(内科学第三講座)
昭和43年9月 パリ大学理学部に留学(─昭和44年9月)昭和47年4月 アメリカ合衆国国立衛生研究所(NIH)のVisiting scientist(─昭和48年4月)
昭和54年1月 北海道大学免疫科学研究所教授(化学部門)
昭和63年4月 北海道大学免疫科学研究所長
平成6年4月 北海道大学触媒化学研究センター長
平成9年4月 北海道大学副学長
昭和45年7月 第一回日本結核病学会賞(今村賞)
平成9年3月 触媒学会特別功労賞
平成10年9月 秋山財団賞

功 績 等
 同氏は,永年にわたり,細菌菌体成分をはじめとする種々の免疫強化剤(免疫アジュバント)の開発に関する研究を行なうと共に,生体防御機構強化への応用のための基礎的研究を行い,次のような成果をあげられました。
 従来より結核菌が免疫強化を有することが知られていたが,同氏は結核菌菌体成分のうち,細胞壁骨格(CWS)が主たる免疫強化活性因子であることを明らかにすると共に,CWSの化学構造を同定しました。さらに,CWS構造のうちペプチドグリカン部分が免疫強化活性を担っていることも明らかにし,その免疫強化活性の詳細について検討しました。
 さらに,がん免疫療法の実験モデルを確立すると共に,ウシ型結核菌BCG株から精製したCWS画分(BCG-CWS)のがん免疫療法剤としての有効性を実験的および臨床治験により明らかにしました。さらに動物実験によりその活性は,1)がんの退縮,2)担がん患者の低下した免疫能の回復,3)発癌阻止や転移の予防などに基づくことを示しました。また,BCG-CWSを用いるヒト癌免疫療法を実施し,肺癌(未分化癌),末期胃がん,急性非リンパ性白血病,癌性胸水症例などに有効なことを見出しました。
 BCG-CWSの研究成果を基礎に,BCG-CWSのペプチドグリカンの部分構造(ムラミルジペプチドMDP)の誘導体約700種を化学合成し,その誘導体の一種であるMDP-Lys(L18)(ロムルチド)を臨床応用可能な候補化合物として選択しました。ロムルチドはマウス,ラット,モルモットの実験モデルで細菌,真菌,ウイルス感染に対し,防御活性を示しますが,CSF,IL-1,IL-6,インターフェロン,TNFなど,多彩なサイトカインの誘発剤として注目されています。さらにロムルチドの白血球,血小板増多作用をマウス,モルモットなどの実験モデルで明らかにしました。現在ロムルチドは,放射線療法を受けた担がん患者の減少した白血球数,血小板数の回復及びその機能の活性化に有効な薬剤として広く臨床応用されており,これは化学合成されたサイトカイン誘発剤として臨床応用された世界最初の薬剤であります。さらにこれら合成免疫強化剤を用いて,粘膜免疫強化の可能性についても新しい展開を示しました。
 BCG-CWSによるヒト癌免疫療法の治験の際に,BCG-CWSがヒト癌の血行性転移を抑制することが見出されました。その成果をもとに,マウス高転移モデルを用いてPropionibacterium acnes-CWS,トレハロースジマイコレート(TDM),キチン誘導体,lipid A誘導体,MDP誘導体などの免疫強化剤が癌転移活性阻止活性を有することを明らかにしました。
 ウイルスワクチンの開発は,生ワクチンの開発可能なもの以外は,リコンビナントワクチンや合成ペプチドワクチンに向けられている。しかし,これらリコンビナントワクチンや合成ペプチドワクチンの免疫原性は一般的に弱く,有効な免疫強化剤の併用が求められています。同氏はBCG-CWS,TDM,ロムルチドなど,すでに強い免疫強化活性の明らかにされた免疫強化剤を用いて,リコンビナントワクチンなどのワクチン効果の強化が可能なことを明らかにしました。
 上記研究を通して「免疫強化剤(免疫アジュバント)の開発とそれを用いる疾病の予防と治療」に関する新しい研究分野を開拓し,「免疫アジュバント学」というべき新しい学問分野を確立しました。さらにBCG-CWSの臨床応用を通して癌の新しい免疫治療法も確立されようとしています。
 上記のように同氏の研究は,生化学,免疫学,基礎・臨床医学にまたがる極めて独創的な学術的研究で,免疫薬理学分野におけるそのすぐれた業績は国際的に高い評価を受けています。

(免疫科学研究所)


片山明石氏 片 山 明 石 氏
 私の生まれ故郷の北海道から,このような栄ある賞を頂くことになりましたのは,誠に光栄でありますが,全く思いもかけない事でありますので,私の大いなる驚きであります。
 ご推薦いただいた福迫尚一郎工学研究科長,審査委員の方々,堀達也知事はじめ道関係者の方々に御礼申し上げます。
 1964年1月,寝屋川の放射線高分子研究協会畑田元義さんが,サイラトロンを引っかついで,北大へかけつけてくれました。珍しく雪が少い冬でしたが,彼が来た翌日から,1メートル,2メートル,見る見る雪が積もったのをよく覚えております。
 山崎初男さんは,4MeVリニアックの単パルス化,私は試料α−メチルスチレンの徹底的脱水,準備万端整いました。血眼になり吸収をさがしました。ねらいはリビングポリマーの吸収帯です。私の目には,はっきりと吸収が見えるのに,どのメーターも吸収を示しません。古い古いガルバノメーターが,確実にそれを示しました。
 α−メチルスチレン陰イオンラジカル重合反応中間体発見の瞬間です。ヤッタ,ヤッタ,ヤッタ,ヤッタ。手を取り合って実験室中を踊り狂いました。よ〜し,飲みに行こう。
 あれから38年間,時間分解能も,ミリ,マイクロ,ナノ,ストロブスコープピコ秒と上りました。
 その後協力してくれる学生諸君も集まり始めました。理学部化学科からM1の小笠原正明君,出来たばかりの化学第二学科から4年目の相川雅之君,次いで,ヒットルフ法で卒論をまとめた牛丸貞夫君,旧触媒研,理学部と渡り歩いて研究を進めました。
 工学部に呼ばれた当時,片山42才,ガラーンとした何も無い実験室,澤村貞史君,田中正子さん,住吉 孝君,誰一人放射線化学の何たるかも知らず大学院生,学生を加えて悪戦苦闘,誰よりも学生諸君が最も苦労致しました。田中さんが去りし後に藤吉亮子さん,現在アルゴンヌのポン友,Dr.チャック・ジョナーのもとへ出かけて不在ですが,私の親友工業装置教授故遠藤一夫さんの愛弟子,高橋憲司君も加わり,今ではPulse Radiolysisの学生実験を行う程です。放射線化学のベテラン揃い。成長致しました。
 この研究を進めるに当たって,技官の方々,谷田弘明,島海郁夫,村井郁夫,北市雅敏,佐藤孝一,等歴代の技官の皆様の献身的協力を得る事が出来ましたのは,パルスラジオリシスにとって,何にも代え難い贈物です。彼等の存在は不可欠でした。朝早くから真空ポンプをまわし,ようやく昼頃実験可能になります。鼻水をすすりすすり,ピット内を走り回り,昇り降り致しました。
 畑田さん,山崎さんは私の戦友であります。私達には,何は無くとも情熱だけは有りました。有難う戦友。
 最後に,「放射線化学の歴史と未来」中に,故相馬純吉教授が残された文を引用させて頂きます。“片山氏が在籍した堀内研究室の主流は触媒研究であり,この分野では日本の中心である。それにもかかわらず,研究の主流から全く関係のない放射線化学の研究を同氏にゆるされた堀内教授の度量,おゝらかさがなければ,日本最初のこの研究は行なわれなかったであろう。”
 恩師,故堀内寿郎先生,有難うございます。

略 歴 等
生年月日 昭和6年7月10日
出  身  地 北海道
昭和26年3月 北海道第三師範学校予科修了
昭和30年3月 北海道大学理学部化学科卒業
昭和32年3月 北海道大学大学院理学研究科修士課程化学専攻修了
昭和32年12月 北海道大学理学部化学科助手
昭和38年6月 デラウエア大学博士課程修了(Ph. D. )
昭和41年7月 北海道大学理学部化学科助教授
昭和47年2月 北海道大学工学部原子工学科助教授
昭和47年10月 北海道大学工学部原子工学科教授
平成7年4月 北海道大学名誉教授
平成7年4月 北海学園大学講師(非常勤)

功 績 等
 片山明石氏は,一貫して光及び放射線の物理化学的作用の解明に取り組まれ,特にその中でも放射線化学反応の中間体に関する速度論的研究の分野で,先端的かつ独創的な研究を行い,この分野の発展に多大な貢献をなしてきました。
 物質中の原子や分子に大きなエネルギーを与えて,その原子や分子を励起・イオン化するにはいくつかの手法がありますが,その中でも放射線を用いる方法は,物質の種類や状態に依存しないため,優れた手法であります。
 放射線照射により誘起される反応を利用して,例えば電線被覆ポリエチレンの強化処理,プラスチックの発泡体の製造,塗料の硬化,医療器具の滅菌等の工業プロセスに応用されるに至っています。
 しかしながら,一般に,放射線が誘起する化学反応過程には,多くの化学種が参与するため反応が複雑であり,有意な反応過程を引き出すには,どのように反応が進行するかを明らかにすることが重要となります。しかもこの化学反応は,放射線照射直後から非常に速い速度で進行するため,とても短い寿命のイオンやラジカルなどを高い時間分解能で測定する手段が必要です。
 昭和39年,片山氏は放射線イオン重合反応機構を研究するため,北海道大学にて,加速器からの電子線パルスを用いた我が国で最初のパルス放射線分解装置を独自に開発しました。これは,世界で最初のパルス放射線分解法の高分子重合反応への適用でありました。
 その後,伝導度パルス放射線分解装置,ナノ秒の時間分解能を有する装置の開発,さらに現在世界最高の時間分解能を有するストロボスコープ法ピコ秒パルス放射線分解装置の開発を行い,測定の時間分解能を6桁も上げることに成功しています。氏の優れた研究は,放射線誘起高速化学反応測定の分野において,北海道を世界の中のメッカの一つとして広くアピールしました。
 片山氏の研究活動は,故堀内寿郎氏の研究室で行ったクロロホルムの光分解にその端を発し,昭和33年から米国ジョージア工科大学で,昭和35年には米国デラウエア大学でTrumbore教授と共に放射線化学の研究を開始しました。これらの成果を基にして,昭和38年デラウエア大学よりPh. D. の学位を授与され,また,米国の科学者協会であるΣXi(シグマザイ)の正会員にも迎えられています。
 片山氏は昭和32年以降の北海道大学在職中,長年多くの講義,演習,実験を担当するとともに,学部学生及び大学院学生の研究指導にあたり,優秀な技術者と研究者の育成に努力されてきました。
 また,多くの学会の委員及び理事などを務めるとともに,海外との研究交流,特に米国アルゴンヌ国立研究所やドイツのハーン・マイトナー研究所,ポーランドのウッジ工科大学,中国瀋陽工科大学などとの研究交流を通じて,国際的な研究協力の推進にも努められてきました。
 以上,片山氏は,教育及び学術研究を通して,優秀な技術者,研究者を北海道大学から輩出し,北海道の産業界,地域社会に対する多大な貢献を行いました。さらに,国際的な視野による研究を行い,広く科学技術の発展に努め,国際的な科学技術振興にも貢献されてきました。

(大学院工学研究科)


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