Academia Populi

●研究紹介


洋が
吸収する
二酸化炭素


角 皆 静 男

 昨年の京都会議で、世界先進各国は、初めて二酸化炭素の放出量削減を決めましたが、これで安心できるでしょうか。私どもの研究からこの点を考えてみます。

1.今年の夏の高温と地球の温暖化
 今年は、たいへん暑い夏でしたが、ついに360ppmを越えた大気の二酸化炭素による地球温暖化のせいだったのでしょうか。これが、二酸化炭素による直接的温室効果でなかったことは確かです。ただ、その効果が玉突きの玉のように複雑な地球系の中で増幅され、間接的に暖めた可能性は否定できません。それは、過去の地球での出来事から言えます。

2.過去の地球で起こったこと
 ここ百万年の地球では、氷期と間氷期が周期的に激しく繰り返され、ヨーロッパでは、平均気温で6〜10度変動しました。これは東京と北海道の気温差に相当します。この時、二酸化炭素も同様に変動し、氷期に180ppm、間氷期に280ppmでした。ですから、二酸化炭素が関係していたことは確かですが、その直接的温室効果だけでは、この気温変動にはなりません。また、その引き金は、ミランコヴィッチ周期といわれる地球の軌道要素が十万年、四万年、二万年の周期で変動し、日射の季節変化緯度変化が変わることでした。それを地球システムが気候変動に拡大しました。さらに、これ以外に、短周期の変動もあります。

3.気候変化に関する政府間パネル
 国連傘下の政府間機関は、気候変化に関する政府間パネルをつくり、科学者に地球の将来を予測させました。その報告書には、このまま放っておくと、21世紀末には、大気中二酸化炭素は700ppmに近づき、その直接的効果だけで、平均気温は2度(札幌が盛岡になる)、海面は50p近く上昇するとあります。しかし、地球システムが変わることで変わる効果は考慮せず、今まで通りの海を前提にしています。私どもとは、その「今の海」の認識も違っています。

4.海洋が吸収する二酸化炭素量
 この報告書では、人間活動による年間放出量、71億トンの炭素のうち、モデル計算で得た海洋の吸収量の20億トンを信頼し、大気に残る32億トンを除いた残りの19億トンを陸の生態系に入るものとしました。海洋の吸収量の実測値はありませんが、大気と海洋間の濃度差(分圧差)に交換の速さを掛けて交換量を出し、世界の海について足し合わせ、この程度の値になるという報告はあります。しかし、このやり方で正確な値を得ることは不可能です。私どもは、変化量が微弱で正確な測定は必要ですが、西部北太平洋で、この18年間の海水中全炭酸の増加量を実測し、この海では、全世界の海洋面積あたり年間36億トンの吸収になると報告しました。太平洋が二酸化炭素を吸収しやすい海であるにしても、世界の海の半分以上を占める太平洋を欧米の研究者が軽視したことが、認識にずれを生じさせた原因と考えています。

5.二酸化炭素吸収力の大きい太平洋水
 深層水は、北大西洋で潜り込み、南下し、南極海から北上し、北太平洋で浮上するのは二千年後です。南極海では、一部が浮上し、酸素を補給し、二酸化炭素を放出し、冬のため、リン酸や硝酸などは生物による光合成に使われずに、また潜ります。太平洋で浮上すると、リン酸や硝酸は完全に使われますので、二酸化炭素は南極海で放出した分だけ余分に溶け込めます。また、海底などで溶けた炭酸塩の分だけ二酸化炭素を溶かしやすくしています。さらに、この水が潜り込んでから大気中濃度が増加した分だけ溶けやすくなります。これらは合計、年間10億トンになります。つまり、太平洋水は、大西洋水よりそれだけ余分に吸収できます。この大きな吸収能力と、実際にその吸収を起こす次の四過程をモデル計算者達が、見落としたり、過小評価しているというのが私どもの主張です。

6.二酸化炭素の吸収過程
 その4過程としては、第1に南極海や北太平洋でできる中層水があります。中層水は、水深1,000m程度までで、量は深層水の10分の1程度ですが、寿命が10分の1以下なので、ここに入る二酸化炭素は深層水以上に大きいことになります。第2に、私が名付けた大陸棚ポンプです。
これは大陸棚で冷やされて底に沈んだ水が10億トン程度の炭素を大気から吸収して外洋に送り出しています。モデル計算ではこれを無視しています。第3は、気体交換に果たす荒天とその時に巻き込まれる泡の効果の過小評価です。さらに、泡の効果により二酸化炭素の交換速度は、難溶性の気体より大きくなります。第4に、溶存ケイ酸の役割です。海洋の生物が有機物をつくると、大気の二酸化炭素を吸収しますが、炭酸塩の殻をつくると、逆に放出します。この量比は、溶存ケイ酸の多い西部北太平洋や南極海では大きく、東部太平洋や大西洋で小さいのです。欧米の研究者は、主に溶存ケイ酸の少ない海で研究しています。

7.変化する海洋
 海洋の吸収量がどう変わるかによって大気中の二酸化炭素濃度はたちまち変化します。現在や過去の地球での出来事をもとに、その仕組みを解く必要がありますが、現状はこの程度で、まだまだ研究不足です。したがって、冒頭の放出量の削減は、しないよりはした方がよいでしょうが、したからといって、今後何が起こるかわからないとしかいえません。



際社会の
合意形成に向けた
国際報道の課題

  高 井 潔 司

  私は読売新聞社で27年間、新聞記者生活を送り、平成11年4月から、北大で、国際コミュニケーション研究と中国語教育を担当しています。新聞記者時代、テヘラン、上海、北京支局特派員を務め、長く国際報道に携わってきました。平成12年度から大学院「国際広報メディア」研究科がスタートする予定で、新研究科は国際機関の広報マンや国際ジャーナリストなどの養成を目指します。当然、実務についての研究、教育、訓練が施されます。そこで海外特派員の実務経験のある私が招かれたというわけです。
本と中国の新聞研究者で組織する
日中コミュニケーション研究会のホームページ

 新研究科の「国際広報メディア学」という学問は、これから切り開いていく新しい分野です。目下、「地球規模における多様社会に対応するために、社会を新しい角度から研究し、実践的な提言を行う」と、位置付けています。情報化と世界の一体化(グローバリゼーション)が進む一方で、地域紛争のまん延、大量破壊兵器の拡散が進行し、様々な分野で、国際社会の協調した取り組みすなわち合意の形成が望まれています。この合意をどのように実現していったらよいのか、その構造とメカニズムを、言語や文化、社会の各方面から研究する学問と言えます。
 私の研究は、過去の新聞記者の経験を生かしながら、新研究科の目的、方針に沿って、国際報道のあり方を探求しています。合意形成に向けて、国際報道の役割が大きいと期待されているからです。
 現在、世界では、パソコン、インターネット、衛星放送が普及し、同時に、大量の情報がやり取りできるようになりました。ハードの面では、国際社会の合意を目指す国際ジャーナリズムが実現する条件は整備されつつあるといえるでしょう。しかし、現実には、様々な紛争、対立、摩擦が発生しており、国際報道がそれに油を注いでいる側面があります。
 例えば、イスラム報道や日米貿易摩擦報道、日中間の「歴史」問題報道、ユーゴスラビア紛争の報道など過去の国際報道を取り上げてみますと、報道を通して一つの価値観が強調され、異った文化によって構成される多様な世界に対する配慮にかけ、問題を複雑化させ、紛糾させてきました。
 私は記者時代、中国問題担当だったので、日中両国の報道を素材にして、国際ジャーナリズム研究を進めています。両国は、友好ブームに沸く中、1972年、国交正常化を果たしました。以来、人、物、金の往来は飛躍的に増えたにもかかわらず、最近では世論調査を見ましても、相手の国に対する親近感や関心が薄れ、関係発展に影を落としています。この現象に、両国の報道がどのような作用を及ぼしているのか、両国のマスコミ制度、実際の報道比較を通じて分析します。
 幸い、インターネットの普及で、現在、研究室から中国の主要な新聞社のホームページにアクセスし、中国の新聞、雑誌をかなり過去にさかのぼって読むことができ、自在に分析が可能です。
 また、中国の新聞研究者と共同でホームページやメーリングリストとを立ち上げ、情報や研究の交換も行っています。
 現在の時点で言えることは、両国の報道とも、相手の国の国情や歴史に配慮が足りず、新奇性や衝撃性に重視した事件中心の断片的な報道で、誤解を拡大している傾向があります。また中国の報道改革の遅れが、報道の偏りを生み出し、これに対する日本のメディアの不信が根強く、相互理解を阻む壁をを厚くしています。
 こうした分析を通して、国際ジャーナリズムのあり方を検討し、社会的な提言や人材の養成を行うことが当面の課題です。