解説:先端医療


ポジトロン断層法
(PET)


玉木 長良


体内の機能を映像で表示する機能画像診断法がこの数年大きくクローズアップされています。ここに紹介するポジトロン断層法(P E T =ペット)は、その中でも最もホットな機能画像診断法として注目されています。
図1 体内に分布したポジトロン
が消滅する際に出す180 度方
向の消滅光子を対向する検出
器で計測。
 核医学検査とは、ごく微量の放射性同位元素(ラジオアイソトープ)で標識された化合物を体内に投与し、その分布を対外的に計測する方法をさします。最近は計測機器が進歩し、C T やM R I と同様に断層像で表示するのも一般化しました。その中でもP E T はポジトロン(陽電子)を放出するアイソトープの体内分布を測定するものです。
 ポジトロンは消滅する際に180度方向の消滅光子を出すため、これを対向する検出器で計測します(図1)。従って通常の核医学検査に比べて感度が極めて高く、空間解像力も高いという特徴を持ちます。また定量性も優れており、種々の機能情報を量的に表示することも可能です。このような物理的特性に加えて、11 C 、13 N 、15 O などの生体構成元素を用いた生理的・生化学的な画像が得られるという化学的特徴があります。

 
●PET で用いられる主な放射性医薬品●
血 流 13N- アンモニア
82Rb (ルビジウム)
150- 水
血液プール1 5 0 - 一酸化炭素
糖 代 謝18F- フルオロデオキシグルコース(FDG )
脂肪酸代謝1 1 C - パルミチン酸
酸 素 代 謝11C- 酢酸、150- 酸素
低 酸 素18F- フルオロミソニダゾール
アミノ酸代謝
(蛋白合成)
11C- フェニールアラニン
11C- ロイシン、11C- メチオニン
心筋交感神経機能 11C- ハイドロキシエフェドリン
18F- メタラミノール
心筋受容体機能 11C- メチルQNB (ムスカリン受容体)
11C- プラゾシン(α受容体)
11C- CGP12177 (β受容体)
11C- PK11195 (ベンゾジアゼピン受容体)
脳受容体機能 11C- メチルスピペロン(ドーパミン受容体)
11C- ラクロプライド(ドーパミン受容体)
18F- フルオロドーパ(ドーパミン伝達物質)
11C- カルフェンタニール(オビエト受容体)
 現在、表に掲げるような種々の標識化合物が利用され、脳・心筋局所の血流量の定量的測定やエネルギー代謝画像や受容体機能評価などが行われています。また悪性腫瘍のエネルギー代謝の程度から、その悪性度の評価や治療効果判定を行っています。そして、その高い定量性を利用し、適切な数学的モデルを用いることによって、局所の血流量や種々のエネルギー代謝率、さらには受容体の結合能や密度などを計測できます。このように、ヒトの生体内の生理的・生化学的情報が解析できる点で、画期的な画像診断法と言えます。
 臨床の場で最も多用されているP E T検査は18 F ‐フルオロデオキシグルコース(F D G )を用いたブドウ糖代謝の解析です。特に悪性腫瘍ではF D G の高い集積があるため、癌の鑑別診断、その進展度、さらには治療効果判定など幅広く利用されています。
図2 悪性リンパ種のFDG の分布像
(前額面断層像)。
 図2に悪性リンパ種の患者さんの全身のF D G の分布像を前額面断層像として示します。糖の利用の多い脳と心筋への生理的集積の他に、首の部分や腹部のリンパ節に集積が見られ、悪性リンパ種が全身に広がっている様子がよくわかります。
 このように悪性腫瘍の診断・評価に北大のP E T 装置は最も頻繁に利用されており、今後その需要も増大する一方です。
図3 心筋梗塞例の安静時血流量(左上)、
運動負荷時血流量(右上)、およびブドウ糖
代謝(下)の分布像。
 また心筋では虚血性心疾患を中心に血流や代謝の評価が行われています。図3に心筋梗塞例の安静時血流量、運動負荷時血流量、およびブドウ糖の代謝の分布像を示します。安静時に前壁に小さな血流低下が見られますが、運動負荷をすると血流低下が著明となります。同部位にブドウ糖代謝が極めて高く、血流の低下と共に脂肪酸からブドウ糖にエネルギー代謝のスイッチした、虚血心筋であることが確認できます。このような心筋は治療により高率で機能が回復することが期待されます。このように心筋の血流の異常と共に、エネルギー代謝の異常から虚血の重症度の判定、さらには治療の適用を決めていくことが可能です。
図4 アルツハイマー病の血流量、酸素
消費量、ブドウ糖消費量の機能画像。
 脳神経領域では最も多彩な機能解析が行われています。先の表に示したように、脳の血流や代謝に加えて種々の神経伝達機能や受容体機能が解析できるのが最も大きな特徴です。図4にアルツハイマー病の一断面の血流量、酸素消費量、ブドウ糖消費量の機能画像を示します。頭頂葉や側頭葉を中心とした大脳の連合野と呼ばれている部分での異常が顕著です。また病気の進行に伴って前頭葉の血流、代謝も低下してきます。このように虚血性疾患や痴呆性疾患などのさまざまな変性疾患の病態を分子レベルの機能画像で解析できます。今後ドーパミン、ベンゾジアゼピンなどの種々の神経受容体機能などを画像化する予定でおり、臨床や研究面での進歩が期待されます。
 このような研究を進めていくため、幅広いチームワークの構築を作っています。各専門領域の臨床の専門家はもちろん、画像診断の専門家、薬剤の合成の面で薬剤部や薬学部、さらには機器の開発やトレーサの体内分布をモデル解析する数学、物理の専門家など、様々な分野の専門家を交えた協力体制が必要です。幸い、北海道大学では病院や医学部の多くの先生方をはじめ、薬学部や工学部の研究者の協力を得ており、新しい機能画像診断法を用いた各方面の教育、研究面で大きな成果の得られることを楽しみにしています。
医学部附属病院