解  説

教えない授業

〜教室は教育革命の最前線〜

阿部 和厚


 学生のひとりが後ろからヴァイオリンを弾いて登場、音楽をバックに発表。ワイワイと数人が中央に駆けより、そしてサーッと引いた中央に泣く女の子、何事かと教室がシーンとなる。ジングルベルを歌って登場した女学生が転んでケガをするところから、ほんとによくできた演劇。学生の席の間を歩きながら大声で独白。すごい迫力。
「ことばと医学と文化」でのグループ作業
 わたくしたちの授業では、学生がしばしば寸劇、ときには30分にもおよぶ演劇をだします。教室の前いっぱいをつかってダイナミックに、笑いあり、感動あり。とにかく面白い。こんな学生をみてハートがキューンとくるのはわたくしだけだろうか。
 学生が主体的につくっていく授業。寸劇、演劇はこのような授業の発表形式のひとつです。学生がはじめました。授業の半分は、討論。学生は活発で積極的で、生き生きとした授業です。現代の学生は授業では消極的で発言もしないというのはあたっていません。
 学生が主体的に参加する授業は、いまの大学に求められる授業のひとつです。ここでは、教師は知識を教えません。学生は、与えられたテーマ、あるいは、自分たちでみつけたテーマをグループで勉強し、社会や現場にでて調査し、研究し、そしてクラスで発表します。主役は学生。教師は、野球のコーチのようなもの。授業の設計、授業の手ほどき。
 寸劇だけみますと、小学校の学芸会のようです。しかし、内容は大学。発表のレジメでは、かなりの数の文献を読んで勉強したことがわかり、質問には専門の先生も顔負けの立派な答が返ります。いやいやどうして、さすが大学生。立派さに感激します。
 授業に寸劇があらわれると、つぎからのグループ発表では、負けじと寸劇がエスカレートします。こりに凝った劇もでてきます。そして劇にあきた頃には、別のタイプの発表がでます。また、学生は行動的です。ノーベル賞学者に会いに外国まででかけたり、外国の有名な学者に手紙を書いてクラスへのメッセージをもらったり、数百人のアンケートをまとめたり、本州の大学まで調査にでかけたり、巾広い形の学習となります。

動機づけ教育によく、知識中心でも
グループに分かれて「医学研究方法を科学する」

 医学部にはいったばかりの「医学概論」では、学生はさまざまな医療をめぐる課題を社会にでて調査し、発表します。何を学ばなければならないかが具体的になり、やる気がでます。「医学史」では、医学の歴史上の人物をしらべ、現在までの影響を病院などで見聞して発表し、最後には、学生たちが社会で活躍する20年後を予測するシンポジウムをします。医学を学ぶ歴史観を身につけるのです。「組織学模擬研究・学会発表」では、わたしたちの体の仕組みを顕微鏡で観察する20回ほどの実習につづき、教師が研究に用いた標本のセットから所見を読みとり、グループ発表をします。「医学研究方法を科学する」では、さまざまな研究方法をしらべ、それをホームページに組み込んでいきます。知識みつけの作業です。全学部の学生向けには「ことばと医学と文化」というコミュニケーションを学ぶ20人クラスの授業をもっています。自然からさまざまな課題を学ぶという演習林、牧場、練習船・臨海実験所での1週間とまりこみ授業も担当しています。
 このような授業法は、平成5年にはじめ、いまでは北大の多くの科目に取り入れられています。学生が授業を行って教師が補足するものは、専門科目でも数多く展開されています。教師中心の一方的知識伝授授業とは根本的に異なり、わたしたちは学生参加型授業と呼んでいます。こんな授業法は、いま、工学教育での世界基準を身につけた技術者養成で注目される学生のさまざまな資質の開発、創造性の開発にも有効な授業法です。

一方的授業よりはるかに内容豊かな効果

 いま、社会は急速に変化しています。学生が卒業して社会で活躍するころには、大学で注ぎこまれた知識は役に立たなくなっているかもしれません。自ら課題をさぐり、課題をみつけ、解決していく能力を育てることが重視されるのは、そのためです。大学は、授業をつうじて、自分で学ぶこと、仲間とともに作業でき、これから自分を高め、広げられることを学び、そして自分を見つけていく場を提供します。社会でどんな新たな現実にであっても、適切に対応していける力。こんな力が身につくような授業を目指しています。
 学生参加型授業は、学生が互いに影響しあうことから、討論力、コミュニケーション力、リーダーシップ、チームワーク、責任感、社会性、能動的行動力、創造性、知識発見、自己発見、自己能力開発など、実にさまざまな教育効果を生みます。教師が教えなくても、学生は、知識をみつけ、発展させていけます。また、社会にでて学ぶことで、将来の社会的役割を自覚し、卒後の職業像を具体的にイメージでき、学習する意欲を明確にします。
わたくしは、北大の教育改革に10年以上、具体的に関わってきました。授業改善は、教育改革の一環であり、研究の対象です。学生を目の前にしての授業改善は、教育改革戦略の中心であり、授業がかわってはじめて、大学の教育がかわります。
 教育革命の最前線は教室です。