解  説

変額保険被害

規制緩和


瀬川 信久



変額保険の被害

 多数の変額保険の加入者が、損失を受けたとして生命保険会社や銀行を訴えました。まだ、多くの訴訟が続いています。その被害は、事件によっては
五億円を超えます。生命保険に入っただけで、どうしてこんな途方もない被害を受けたのでしょうか。この問題を素材に、規制緩和ということを考えてみましょう。

勧誘した保険会社の説明義務

 変額保険で莫大な被害が生じた原因は2つあります。
 1つは、「保険」はもともと危険に備えるものであるはずなのに、変額保険はリスクの高い商品だったことです。
 普通の生命保険は、定額保険といって、契約者が受け取る保険金の額は最初の契約で決まっています。実際の保険金は、契約者が払う保険料を「一般勘定」に入れて運用した収益から払われますが、その収益が少なくても、生命保険会社は自分の負担で、契約で決めた保険金額を払わなければなりません。他方で、この「一般勘定」の資金は、株などリスクの高いもので運用することは一定の限度に制限されています(金融庁の許可が必要です)。また、責任準備金の積み立てが強制されます。
●保険加入者からの保険料の運用図
 以上に対し、変額保険では、払った保険料の一部のみ「一般勘定」に入れ、残りは「特別勘定」として別に管理し、外国の株式・債券などにも投資します。責任準備金の積み立ても強制されません。この結果、定額保険と比べると、加入者は高い収益が期待できます。しかし、その反面、バブルの崩壊で株価や為替が下がったときに大きな損失を受けたのです。
 変額保険は、一般大衆から集めたお金を株や為替で運用し、その運用益を保険金の形で一般大衆に還元する点で、証券投資信託に似ています。変額保険でも死亡保険金には最低保障がありますが、少額です。死亡しないで満期になったときに払われる満期保険金や、中途解約したときの解約返戻金には最低保障がなく、運用実績で変動します。ですから、保険期間が10年とか20年の変額保険は証券投資信託の性格が強いのです。しかし、証券投資信託は証券会社が扱うのに対し、変額保険は、保険会社が「保険」商品として販売しました。しかも、上のようなリスクを十分説明しなかったのです。
 この第1の問題点に対しては、今年5月に制定された「金融商品販売法」が、一応の手当をしました。この法律は、保険商品のほかに、株や社債、抵当証券、金融派生商品(デリバティブ)など、広く金融商品について、「元本割れのリスクがある」ことなどを説明していなかったらそれだけで証券会社や保険会社の責任を認めます。これによって、業者は商品のリスクをきちんと説明しなければならなくなるので、変額保険の問題の一つは解決されます。

信用取引の制限

 変額保険被害のもう1つの原因は、お金を借りて加入する信用取引が規制されていなかったこと、そのために、所得や資産の少ない人も、お金を借りて高額の契約を結んだことです。バブルの時期には、地価上昇のために土地の相続税が重くなりました。そこで、土地所有者は、銀行から数億円という金を借りて保険料を一括払いし、変額保険に加入しました。この数億円の債務のために土地を抵当に入れると土地の評価額が下がり相続税が少なくなるからです。ところが、バブルがはじけて株価などが下落し、受け取る保険金が激減しました。抵当に入れた土地の価格も下落しました。しかし、銀行からの数億円の借金はそのままで、高い金利を払い続けなければなりません。借金までして保険に加入したために大変な被害になったのです。
 アメリカでは、日本より10年早く1976年から変額保険を販売しています。しかし、変額保険の被害はありません。それは、変額保険の信用取引を厳しく規制しているからです。
 まず、変額保険では加入者が投資のリスクを負担することを理由に、連邦証券取引法を適用しています。生命保険会社からの繰り返しの要望にも拘わらず、この規制を外していません。そして、連邦証券取引法が適用されると、証券会社・生命保険会社だけでなく銀行も、取引額の50%以上の信用を与えることが禁止されます。変額保険の加入者は、例えば、300万円準備して600万円までしか加入できません。ですから、日本のような途方もない被害は起こらないのです。
 変額保険の信用取引については、わが国では今でも何の規制もありません。

規制の厳しいアメリカ、緩い日本

 アメリカでは、変額保険だけでなく、ワラントや一般の株の取引についても厳しい規制があります。適合性原則といって、投資者の資産や所得に合わない取引をさせると、証券会社や保険会社は責任を負います。
 いま、規制緩和といえばアメリカがモデルです。しかし、通信・航空・金融などで新規参入に対する障壁を撤廃した点ではそのとおりですが、消費者保護、投資者保護のためには、昔から厳しい規制があります。また、行政の介入がアメリカでは弱く日本で多いとよくいわれますが、これも正確ではありません。例えば、アメリカでは、株などの証券取引を監視する証券取引委員会(SEC)が、3000人の職員を擁し強力な立入検査権限を持つのに対し、日本の証券取引等監視委員会は職員わずか240名で検査権限は貧弱です。両国が違うのは、行政介入の量よりも規制の仕方です。わが国の行政は、業者に対する許認可と事前の指導が主です。これに対し、アメリカの行政では、行為規制と、規制に違反したときの事後的な処分が多いのです。
 市場化に伴う規制の変化は、規制緩和という量の問題ではなくて、規制の組み換えという質の問題として考える必要があります。