Academia Populi

●研究紹介


 
習に困難のある



子どもたち


室 橋 春 光

北の学者たち
室 橋 春 光
むろはし はるみつ
教育学研究科助教授
専門は教育臨床学

 学習障害という、認知機能の発達に偏りを示す障害があります。中枢神経系の機能障害によると推定されていますが、まだ詳細な解明はなされていません。
 彼らは字を読むことが著しく苦手だったり、算数の問題を解くことが著しく苦手だったり、字を書くことが著しく苦手だったりしますが、そのほかのことについては、ふつうにこなすことができるとされています。彼らは時折、周囲に適応しない行動を示すこともあるために、偏見にさらされることも少なくありません。けれども、彼らは、常識にとらわれないものの観かたをもっているといえます。
 このような子どもたちは、なぜ字がうまく読めず、あるいは算数が出来ず、あるいは字がうまく書けないのか、そしてまた、いかに常識にとらわれない観かたをするのか。彼らがそのことで不必要に悩むことなく過ごしてゆくためには、彼らはどうしたらよいか、また社会はどうしたらよいのか。一つは彼らの認知機能の特性を探ることであり、もう一つは社会からの働きかけかたを探ることです。これらはいずれも、「教育」の働きを解明することにつながります。
 現在、彼らの認知機能の特性を探るために、様々な研究が進められています。私たちが字を読むためには、視覚的に処理される文字情報に、脳内に蓄えられている音韻情報を結びつける必要があると考えられています。読字障害では、音韻情報の処理にうまくゆかない面があるとする説があります。また私たちは、実行中の仕事に必要な情報処理を管理するための、作業記憶と呼ばれるシステムをもっていると考えられています。学習障害などでは、この作業記憶の働きにうまくゆかない面があるとする説もあります。
図1 左側の眼球の動き(文章を読むことが苦手)
図2 同上(文章を読むことが苦手でない)

 私は、彼らが文章を読んだり絵を見たりしているときの、脳の働きかたの解明を進めています。認知機能は、行動からは必ずしも捉えることのできない脳の働きです。そのため、脳波や眼球運動などを測定して分析を進めています。たとえば、これまでの研究からは、彼らの認知処理のまずさが刺激の特性によって異なることが伺われます。図は、文章を読むことが著しく苦手な14歳の男性(図1)と、苦手でない17歳の男性(図2)の、文章黙読課題に対する左側の眼球の動きを示しています。図中の数字は停留点の順序を表しており、最初から20個分を示しています。文章は句読点なしのひらがなのみで書かれており、ひらがなを単語に構成しながら読み進めてゆく必要があります。文章を読むことが著しく苦手な14歳男性の眼球の動きは、一進一退を繰り返しています。しかし、同時に行った絵の中から特定のものを探す課題では、眼球は適切に動いて目標物を探していました。
 適応困難な状態を示す子どもたちにおいては、環境との相互作用が、早期から適切に進行してこなかった可能性があります。その相互作用のありかたを紐解き、一人ひとりの子どもがより適切にかかわってゆけるように、生活環境や学習環境を調整する必要があります。彼らの適応の困難さが環境の調整によって改善されること、それを我々は目指しています。彼らの存在が、科学や社会の発展に少なからぬ影響を与えてきたことは、歴史の教えるところです。アインシュタインなどのいわゆる有名人だけでなく、人知れず自分の才能を磨きあげてきた人もいることでしょう。彼らが自分にあった道を選択し歩んでゆける社会を、私たちは作り上げてゆく必要があります。




 
ホーツク海氷


のなぞを追って

若 土 正 曉

北の学者たち
若 土 正 曉
わかつち まさあき
低温科学研究所教授
専門は海洋物理学
 我々にとって、今や身近な存在になった「流氷」(学問的には海氷の方が一般的だが、ここではなじみ深い流氷を使うことにしよう)について述べてみたい。身近になったといっても、流氷について分からないことはまだまだいっぱいある。例えば、何故オホーツク海は冬になると凍るのか、こんなに低緯度に位置しているのに。流氷の厚みはどの位なのか。流氷原が拡大するときどんな力が働いているのか。そもそも北海道沿岸沖で見られる流氷は、そこで出来たものか、それとも北から流れてきたものか。流れてきたのならどの位北からやってきたものなのか。また、オホーツク海には魚がたくさん住んでいて生物生産性が非常に高い、といわれているがそれはどうしてなのか、アムール河の影響はどのようなものか。海が凍ると大気や海洋にも影響しそうだが実態はどうなのか。このような多くの素朴な疑問に対して、我々は実のところ、量的にはほとんど答えられないのが現状である。

 そのようななか、オホーツク海が最近注目されている。北太平洋で400から1000メートルの深さの大部分を占める「北太平洋中層水」の起源となる水が、オホーツク海で形成されているらしい、そこはまた地球温暖化ガスである二酸化炭素の吸収域にもなっているらしい、など多くの興味深い現象が指摘されてきた。その上、旧ソ連との壁や海氷の存在などの大きな制約から、今まで不可能だった現場の観測が、ロシアの協力で出来そうになったことなどが、注目されてきている大きな理由であろう。
 流氷はもともと、極域研究者にとっての魅力溢れる研究対象である。流氷は世界の気候に重要な役割を果たしていることはよく知られている。太陽からの放射エネルギー(日射)のほとんどを反射してしまうし(アルベドが高い)、大気と海洋の間の熱交換を著しく抑制するという重要な性質がある。また、海水が凍るときに生成される低温で高塩分の海水は、世界の海洋の中・深層水の源であり、海洋大循環の駆動源でもある。
 低温科学研究所は、1996年にCOE(Center of Excellence)研究機関の指定を受けたのを機会に、研究プロジェクト「オホーツク海と周辺陸域における大気―海洋―雪氷圏相互作用」(研究代表者 若土正曉)を立上げ、国際共同研究の形をとり、主にオホーツク海とカムチャッカ半島における現場観測を中心に研究を進めてきた。すでに多くの貴重なデータが得られ、現在精力的に解析が進められている。近い将来、上で挙げた多くの疑問に答えることができるものと確信している