新総長語る
北大の新世紀に向けて 社会に開かれ,世界の中の北大へ ── 総長ご就任おめでとうございます。まず,総長になられての抱負をお聞かせ下さい。 総長 北大は,今年で創立125周年になります。この長く輝かしい伝統を持つ大学の総長に指名されて,身の引き締まる思いでおります。私は,この伝統をさらに引き継ぎ,北大を名実ともに世界的なレベルの大学にするために,力を尽くしたいと思っております。 現在,国立大学は独立行政法人化の問題に直面しています。総長の任務は,まず,この現状の中で大学のあるべき姿を,社会に対してきちんと説明・主張していくことだと考えています。よく言われるように,これまで国立大学は,決して社会に対して自らを閉ざしていた訳ではないのに,自分たちの教育研究内容とその成果や,社会との連携の実績について,十分なPRをして社会の理解を得る努力を怠っていたように思います。この点は,はっきりと変えなければなりませんし,すでに変化は現れ始めています。私は,この変化をさらに推進させようと思います。 次に,学内で総長が果たすべき役割ですが,それは大学の生命である教育と研究におけるリーダーシップの発揮です。特に,教育面での総長のリーダーシップは欠かせません。学ぶ側の視点の重視とか,社会の声をどう大学教育に反映させるかという課題に,総長が率先して取り組んでいかなければならないのです。また,研究推進の基盤をより強化し,北大が誇る優れた研究を発展させ,今申し上げたように,北大を世界的な地位につけることも,総長の重要な任務だと考えております。さらに,これからの国立大学に大きくのしかかってくる「経営」という問題に関しても,総長のリーダーシップが問われるのは言うまでもありません。経営面のことは国に任せて,教育と研究に専念していればいいという時代は,もう終わりました。 北大の教育研究上の独自性とは ── 北大といいますと,まず,「クラーク精神」が前面に出てきますが,今後,北大はどういう形で「北大の顔」を社会に発信していくのでしょうか。 総長 私は,「開拓者精神」「国際性」「全人教育」というスローガンは間違っていないと思います。大事なのは,このスローガンの内容を具体的に示すことです。たとえば「全人教育」に関しては充実した教養教育プログラムの実施,また「国際性」であれば,グローバルな研究交流や,質の高い言語教育や留学生教育の実現ということになります。 研究の面で言えば,北大は基幹総合大学として最も多くの学部を持っており,いろいろな専門分野をカバーしているのですから,まずはオールラウンドに頑張ることが必要でしょう。その上で,北大らしい特色を生かさなければなりません。たとえば,大きな基盤を持つフィールド・サイエンス,現在進んでいるバイオ関連の研究やナノテクノロジーなどは北大の目玉になりうるでしょう。それに情報系の研究も北大独自のものを創出していかなければなりません。「開拓者精神」の発揮という訳です。ただ,同時に,一見地味な基礎分野の研究もなおざりにしてはならないと思います。先端的分野と基礎分野の両方を見据える複眼的姿勢が大事なのです。 ── 北大は,重点化大学として,研究と同時に,重点化大学にふさわしい実体をもった教育を行わなければなりません。大学院教育と,それに連なる全学教育をどう展開させるのか,について考えをお聞かせ下さい。 総長 重点化大学として大学院教育に教官の労力を割かなければならないので,学部教育はスリム化したらどうかという議論が一部にはありますが,私はその考えには反対です。よりよい大学院教育のためには,同時に学部教育も重要視しなければならないというのが,私の基本的な考えです。その中でも,やはり教養教育です。北大が掲げるモットーに「全人教育」がありますが,これは教養教育のことだとも言えます。教養部廃止後,教養重視の北大の伝統をどうやって再構築するのかというのが大きな課題だととらえております。幸い,コアカリキュラムが整備され,責任部局制が維持され,それから高等教育機能開発総合センターの中に全学教育部が位置づけられ,研究部が置かれて,日本のモデルとなる形で教養教育を充実させる体制は整ってきています。こうしたものを十分に生かして,個々の専門だけにとらわれない広い視野をもたせる教育を行うべきだと思います。 同時に,言語教育と少人数教育をさらに推進していかなければなりません。少人数教育に関しては,全学的協力のもとに展開されている一般教育演習や論文指導によって,表現力や論理的思考力・科学的思考力の養成がかなり実現されていますが,まだ十分だとは言えません。また言語教育については,教養部廃止以来本格的な議論はされていませんが,ますます重要性が高まっていると認識しています。この問題は,早急に取り組むべき問題だと思っております。 社会との連携 ── 「社会の声を大学教育に反映させる」とおっしゃいましたが,「社会との連携」についてどうお考えでしょうか。 総長 まず地域社会との関係ですが,北海道経済の活性化のために北大の研究を役立てたいという要望に沿って,先端科学技術共同研究センターができました。また北海道TLO株式会社や,「コラボほっかいどう」という愛称で呼ばれる北海道産学官協働センターも設立され,地域社会との連携態勢はめざましく進展しております。 また,多くの研究科・学部で冠講座や連携講座という形で社会との関係強化をはかっていますし,社会人学生の受け入れはもちろんのこと,教員にも一般社会での実務を経験した人々を採用するという傾向が強まっています。 こうした,様々なレベルでの社会との連携を生かして,北大は国際的な舞台で活躍できる人材を養成していかなければならないと思います。日本の社会が大学に対して持つ不満は,一つには,日本の大学は国際的に太刀打ちできないのではないかという危惧から来ているのではないでしょうか。 国際的レベルで通用する人材を養成することが,実は,社会の要求に応え,日本における北大の存在意義を示すことになるのだと考えます。 独立行政法人化について ── 独立行政法人化の問題に,北大はどう取り組むかということについて,基本的な考え方をお聞かせ下さい。 総長 現在の独立行政法人通則法をそのまま適用するのでは困ります。大学の自治,学問の自由との関係で言えば,中期計画設定を行政が認可するということや,客観的評価が実現できるのかとういうこと,つまり大学の教育研究活動に学外者がどう関わるのかという基本的な問題があるからです。教育研究分野での自立性,自主性,自由はきちんと守らなければいけません。 しかし,経営という面はちょっと違います。大学が経営も行わなければならないというときに,教官だけで経営が行えるのかというと,それは難しいでしょう。学外者の経営参加,あるいは学外者の意見を経営に取り入れるということは検討せざるをえないと思います。国の財政支出を受けているのですから,経営に関することを大学人が自分達だけで決定することはできないでしょう。国の関与は受け入れなければならないと思います。 教育研究の自主独立性と経営の問題の折り合いをどうはかるかということが,検討しなければならない大きな問題です。 ── もし独立行政法人化された場合,それをプラスの方向に働かせるような面がありましたなら,お聞かせ下さい。 総長 要するに,この問題を改革の契機にするということです。そうした改革に向けての姿勢を,内外に明確に示していかなければなりません。というのも,大学の中の世界に浸りきっていると,単なる受益者意識と言いましょうか,金は国が出してくれる,自分は好きなことをやりたいという意識が出てきがちです。これはやはり変えていかなければなりません。国のお金を使っているのだから,きちんとそれに応えなければならない,という意識を持つことが必要だと思います。これは,国立大学の教官には希薄だった点ではないでしょうか。 それからもう一つ,教育の問題です。学生への教育という点,つまり教育サービスということですが,これについてもいささか安易に考えていたのではないかと思います。私立大学の場合は,入学料収入とか授業料収入と密接に関連していますから,「教育」は死活問題になりかねません。国立大学は,国が定員を決めてお金を出すのだから,自助努力はあまり関係ないというところがありました。これは反省すべき点でしょう。教育への投資が,将来的には我々の研究の発展にも役立つのだという認識をきちんともたなければならないと思います。 運営システム,大学活性化基準 ── 北大の組織運営に関しては,どうお考えでしょうか。何か変えてみたいと思われている点がおありでしたらお聞かせ下さい。 総長 今年度から総長補佐制度ができて,全学運営における企画調整の部分が強化されました。まずは,これを制度としてうまく機能させるということです。部局自治との関係で余計な摩擦を起こさないように気をつけなければなりませんが,部局間にまたがる活動の活性化や問題の解決,さらに部局を越えた新しい分野の創設などの場合には,総長・副学長・総長補佐がイニシアティブをとることが必要になります。これは,先ほどの「経営」という問題につながります。 これまで教育と研究は大学,経営は国ということだったのが,経営も大学が行うということになれば,やはり従来の意志決定システムではうまくいかないのは当然だと思います。よりよい意志決定システムをどう作り上げるかという緊急の問題に積極的に取り組んでいくつもりです。
── 最後に,総長として,北海道大学の活動成果を示すものとしてどんなデータに注目されますか。 総長 まず,教育研究の基本成果として,修士号・博士号取得者数や取得者の進路,留学生数などがありますが,さらに,何と言っても科学研究費の申請数・採択数が,大学の活動状況を示す一番大きなものでしょう。しかし,これらの学外で作られた基準だけでなく,大学として何をどう評価すべきかという基準も作らなければならないと思います。この評価基準は,今年度予算から実施される学内での保留分の配分法を決める際に大きな役割を果たすことになるでしょう。 いずれにしても,新しい時代を担う優秀な人材を養成することが重要で,私達は全力でそれに取り組まなければなりません。 ── いろいろと意欲的な抱負を聞かせていただきました。 どうもありがとうございました。 【2001年5月17日 総長室にて】 インタビュアー『リテラ・ポプリ』編集長 大 平 具 彦 (国際広報メディア研究科長) |