戸 塚 靖 則   井 上 農夫男

 顎変形症とは、顎の変形に伴って、顔貌の変形、ならびに咬合、咀嚼、顎運動、言語、嚥下、呼吸、口裂閉鎖などの機能的障害をきたす全ての疾患の総称です。これらの疾患の治療では、単に形態の異常を修正するだけでは不十分で、咬合、咀嚼、言語、顎運動、嚥下、呼吸などの正常な機能を獲得、または回復しなければなりません。そのため、その治療においては、多くの専門科によるチームアプローチが必要となります。

 顎変形症の治療を受ける患者さんは年々増加しており、様々な病態の症例が増えています。また、その治療内容も年々高度なものが要求されるようになってきています。そのため、治療方針や手術法の決定に際しては、できるだけ予測性の高いプランニングが必要です。

 当院の顎変形症専門外来では、これまで、頭部エックス線規格写真および歯列模型から手術後の咬合、歯列の移動量、顎骨の位置などの予測を行ってきました。しかしながら、変形の著しい症例においては、従来の方法のみではこれらの予測を十分に行うことができませんでした。三次元のものを二次元の画像のみで予測を行うには限界があったからです。

 そのため、平成12年に顎顔面形態三次元解析装置を導入しました。この装置は、立体の表面形状をデジタル情報に変換する三次元形状計測機器、三次元デジタル情報から立体モデルを作る三次元モデル造成機器、各種データの解析機器から構成されています。

 この装置のおかげで、顎顔面の表面形状や顎骨の形状の解析、ならびに立体模型の作成が可能となりました。特に、СТ画像から構築した顎顔面骨の三次元モデルは、実際の骨切り手術とほぼ同様にシミュレーションを行うことができるため、変形の著しい症例のプランニングや術後の予測に威力を発揮しています。

図 右側上下顎の発育異常による骨格性側方開咬症例の手術シミュレーション。
上段図は、術前の三次元モデル。中段の図は、三次元モデル上でのシミュレーション。骨延長装置により徐々に骨片を移動させて、下顎歯列の位置異常を修正したところ。下段の図は、骨延長後の咬合状態。
 図は、右側上下顎の発育異常による骨格性側方開咬の症例です。従来の方法ではいろいろな問題点があり、骨延長法という方法を採用することにしました。二つの骨片を回転しつつ移動させるという難しい移動法を行いましたが、顎顔面骨の三次元モデル上でシミュレーションを何度も行った結果、骨延長装置の最適な設置位置と骨延長量を決定できました。
 このように、三次元モデルを用いてシミュレーションを行うことで、最適な手術法の選択が可能となり、複雑な手術を正確に、短時間で行えるようになりました。また、医療関係者への教育効果も上がり、さらに患者さんへの説明においても理解と同意が得やすくなりました。

 高度に進んだ先進的治療法は、保険の効かないことが多く、その医療費を患者さんが負担するか、あるいは医療機関側で負担しなければならないのですが、患者さんにとって非常に有益で要望の多い治療法に対しては国(厚生労働省)が保険適用を認める制度があります。この治療法は、現在、その制度の適用を申請中で、まもなくその許可が下りる予定です。

 現在は、三次元モデル上でシミュレーションを行っておりますが、これらの操作をすべてコンピュータ画面上で行い、任意の位置で組織を切除したり、その組織を移動できるようなシステムも研究開発中です。このようなシステムが完成すると、シミュレーションがより簡単に、短時間で行えるようになります。また、すでに、データを用いて、モデル造成装置や切削装置を制御しつつ稼働させることが可能となっていることから、将来は、手術ロボットによる手術も可能となることでしょう。

研究者紹介

井上 農夫男
いのうえ のぶお
大学院歯学研究科
専門は高齢者口腔健康管理学
研究者紹介

戸塚 泰則
とつか やすのり
大学院歯学研究科
専門は口腔顎顔面外科学