![]() 佐 藤 直 樹
北海道をはじめ、豊かな自然に恵まれ、農林業の盛んな寒冷地域では、エキノコックスへの対応は重要な課題です。北大はそうした地域性の中に存在することもあり、獣医学からのアプローチ(神谷正男先生)も含め、世界のリーダーとして研究に臨床に幅広い対応を主導的に展開しています。 エキノコックス症とは、キツネの小腸に寄生する多包条虫の排泄虫卵をヒトが偶然に経口摂取し、主に肝臓において、幼虫の細胞が塊状の硬い腫瘍性の病巣を形成する疾患です(図1、2)。キツネの生息地域(北半球のみで、ドイツ、フランス、スイス、ロシアなどの寒冷地帯)に多発し、本邦では北日本の酪農家、山菜採り、猟師、野外作業者などに好発します。突然の黄疸・肝肺瘻・門脈圧亢進などの症状があらわれ、そうした症状が現れる時には、すでに肺・脳・骨などにも転移しています。従って、病巣の増大速度が遅い以外は肝臓の悪性腫瘍と同様の病態を示し、WHO(世界保健機関)によれば、放置すると約90%以上が致死的経過をたどります。有効な薬剤がないことから、感染から5〜15年の無症状の時期(潜伏期)に診断し、肝切除によって病巣を完全切除することが唯一の根治的治療法であり、病巣が遺残すると生存率は半減してしまいます。
早期発見が患者を救済するための必要条件です。北大として、1973年以降、年2回、2週間、道内約10カ所の拠点に住民検診を展開しています。検診開始当時は血清あるいはレントゲン写真(石灰化)による診断も未発達で決め手にならず、手探りの状態でありました。爽やかな初夏、厳冬の凍てつく農道、吹雪の中、町から町へ検診の旅が続きました。同門医師の心暖い出迎えと葛西洋一教授(故)の江差追分が響く旅の宿で疲れをいやしながら、地域住民への衛生教育と啓蒙活動も根気よく続けられてきました。 大きく診断法に進展が見られたのが1980年台の半ばです。1984年に「ELISA」(酵素抗体法)、「WB」(ウエスタン・ブロット法)や現在の血清診断法(一次スクリーニング)が開発され(北海道衛生研究所、古屋氏ら)、ほぼ時を同じくし登場した携帯用超音波診断装置(二次スクリーニング)(鈴木清繁医師、北大放射線科)の検診への導入(前教授、内野純一先生)に至り、診断は飛躍的に向上しました。近年では年間約10万人に対し血清検査後に肝臓の超音波エコー検査を行い、約20名の新患者を発見しております。
約半世紀余を経て今日、北大は最多の外科手術例を集積して世界をリードし、基礎的・臨床的研究を継続中です。キツネの都市への侵入、札幌を始めとした都市型感染患者の散発的発生など発症環境も変化しています。こうしたことにも影響を受け、道内の基幹病院での誤診なども見られるようになり、さらにより広く啓蒙する必要性があります。他方、新血清診断法の開発(道衛研、旭川医大)や、MRI診断の有用性が高まっています。さらに、治療の方法として、欧州では進行例の肝臓移植が行われています。北大では藤堂省教授の就任以来、肺や下大静脈浸潤の高度進行例の手術が可能となり、診断に治療にまた幅広い啓蒙活動に「エキノコックスとの戦い」は続けられています。
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研究者紹介
専門は消化器外科学![]() 佐藤 直樹 さとう なおき 医学部附属病院手術部 |