三 浪 明 男

 身体の一部が失われたり、障害がおこると様々な不便が生じます。たとえば関節がすり減ると、動きが悪くなり、痛みが強くなると社会生活に支障をきたします。また、病気により臓器が障害を受け、生命を脅かされることもあります。このように病気やけが、老化などにより失われた組織や臓器を回復させることが、医学の分野での重要な課題です。

 人工臓器の開発
 この問題に対し、体内で失われた機能を補填する人工装置が考案され、人工腎臓や人工心臓などの人工臓器のほかにも多くの身体の部位で現在使われています。例えば、関節がすり減った場合には人工関節で置き換える手術が行われています。膝では大腿骨表面を金属で、脛骨表面をポリエチレンで置き換えるという方法が確立されたのは1960年代後半です。北大病院整形外科では摩擦が金属より少ないセラミックを使うことで、より耐久性の良いものを開発し、手術を行っています(図1)。人工膝関節は高齢者にはほぼ問題はないのですが、激しい運動をする人や、若い人のための人工関節は、時間とともにゆるんでくるなど解決しなくてはならない問題があります。

図1 セラミックLFA人工関節


 臓器移植
 人工臓器には、心臓ペースメーカーなどのように完成品に近いものも多くあります。しかし生体内に使用する人工材料は様々な問題点を抱えています。これを解決するために心臓、肝臓など機能低下が死に直結する臓器不全の患者さん、さらには腎臓などの機能不全に対して、社会復帰を可能とするための移植医療が現在行われています。人工臓器でも自分の組織でない、いわゆる異物に対する反応は大きな問題ですが、臓器移植では異物に対する拒絶反応が問題です。これを抑制するために副作用のある免疫抑制剤をほぼ一生服用し続ける必要があります。さらにドナーの絶対的な不足があります。こうして再生医療が求められる社会的な背景ができました。

図2 再生医療の実用化および可能性


 再生医学へのチャレンジ
 最近の発生生物学の進歩により、細胞を増やしたり分化させることが可能になりました(図2)。関節軟骨の再生は、米国では自家軟骨細胞培養移植療法が商品化されています。しかしこの方法では、欠損部に戻した培養軟骨細胞が周囲に流れないよう、骨膜という自分の組織で覆う必要があります。さらに自己再生能の低い軟骨を培養するには、足場となる支持体が重要です。この問題を解決するために理学部および札幌のベンチャー企業との共同開発で足場となる新しい素材を開発中です。この素材は特許を申請しており、現在動物実験を行っています。この方法では、足場となる人工材料の細胞接着性が良いので、膜で覆うことなく直接軟骨欠損部に移植できる可能性があります。またこの人工細胞外マトリックスは、培養した後に欠損部の形に容易に採形できるという利点もあります(図3)。

図3
関節軟骨の再生
実際の軟骨欠損はレントゲン写真には写りません


 再生医療の究極の目的は、自分の幹細胞を保存しておき、ある組織が必要になったときに幹細胞を使って体外で組織を再生し、治療することです。いわゆる自動車の部品を交換するようなパーツサージャリーの導入です。このためには今後、倫理的問題も含めた幅広い検討が重要になると思います。

研究者紹介

三浪 明男
みなみ あきお
大学院医学研究科
専門は整形外科学