・・・・【災害の文化】・・・・ 災害をいかに予知し防ぐか,
災害からいかに復興するか,人類は知恵をしぼってきた。

人類とはそうして災害から生き延びてきた生物にほかならない。
いま大学が,災害と闘う人知の到達点を発信する。

くり返す有珠山噴火
 噴火災害の下位文化」を考える
関 孝敏
Seki Takatoshi

 わが国は災害が多く,しかもくり返される災害が少なくありません。台風,地震,噴火による災害はそうした代表例です。ここでふれる有珠山はわが国で有数の活火山といわれ,史実に照らして,過去ほぼ30年周期で8回噴火しています。1977年8月(7回目)および2000年3月(8回目)の噴火(とくに後者)は,人々の記憶に新しいところです。

 社会科学,とりわけ社会学の分野で「災害研究の制度化」がいち早く進んだアメリカ合衆国では,豊富な研究蓄積があります。興味深い知見をふまえた研究の方法論的整序と共に,実践的適用もみられます。60年代に提起された,「災害の文化ないし下位文化」という考え方は,ソフトでやや曖昧さを残すとはいえ,くり返される災害に着目する時,研究の立遅れがみられるわが国の社会科学において検討に値する視点のひとつであるかと思われます。
「災害の文化」は「災害常襲地のコミュニティに見出される文化的防衛策」といわれ,「災害前兆の発見,被災時,その後の復旧(復興)までの間,コミュニティ住民が取るべき対応計画として働く」とされています。この「災害の文化」の構成要素として価値,規範,信念,知識,技術(工夫),伝承があります。個別の災害因に即すと,「災害の下位文化」が位置づけられます。「噴火災害の下位文化」とは,こうした意味においてです。
「有珠山噴火災害の下位文化」を考える手がかりとして,1977年の噴火災害を扱った1981年の貴重な報告書(以下,A調査とする)があります。この研究成果を2000年の噴火災害に関する筆者と被災者との共同調査(同年8月下旬〜9月下旬に実施,仮設住宅入居世帯を対象,397人より有効回答,以下B調査とする)結果に照らし合わせる時,くり返される噴火災害への対応とそのあり方の課題,そして被災者と被災地にとって取りうるべきいくつかの方向性が浮かびあがるように思われます


写真提供:道南観光写真(株)
1 災害因と被災の特徴
 (1)前回(1977年)の噴火の特徴は,1突発性,2山頂噴火による広域性,3長期性と反復性でしたが,今回(2000年)の噴火の場合,1事前予知による「緊急火山情報」が発表されましたし,2山麓噴火により衝撃の地域的範域が限定されました。(2)前回の被害は,1農林業被害が多く,これに最盛期の観光業の被害が続きました。加えて2第2次災害として泥流被害により3人の犠牲者がありました。これに対して今回は,幸いなことに現在まで犠牲者はありませんが,1山麓噴火により温泉街地区とその周辺により直接的な被害が集中し,2観光産業を直撃しました。

2 住民の被災前対応
 (1)A調査では,災害に対する住民の準備のなさと共に噴火災害への危機意識の希薄さが指摘されました。B調査によると,過去の噴火や被害経験がない者が予想された以上に多くほぼ4割いました。災害発生源の有珠火山と密居集落との至近距離を考えると,こうした住民層に対する防災と減災の意識の涵養が求められます。(2)特筆すべきは,このような住民を含む地域住民の避難行動が迅速であり,ひとりの犠牲者も出さなかったことです。これは地元自治体,地域住民,有珠山観測所の存在とそのスタッフの地道な活動の連携による貴重な成果です。しかし避難行動後の対応は,前回と今回とでは注目すべき違いが見られます。

3 避難所と仮設住宅における対応
 (1)避難所の生活における被災者の戸惑いは両時に共通しますが,前回では「避難所自治体」が組織され,自主的な炊飯が行われました。加えて被災を免れた町内会の連合婦人部による避難者への炊飯支援が地域ボランティアとして行われました。同じマチの住民という共属感情が醸成され「愛他的コミュニティ」が出現しました。しかし今回では,避難所を三度以上移転した者が多いことから,避難所という「被災コミュニティ」が形成されにくく,多くの被災者が情報不足に悩みました。(2)前回ではみられなかった仮設住宅での被災生活は,被災前の居住地を異にする者同士が混在すると共に,リーダー不在もあって,「仮設住宅自治体」の形成を困難にしました。そのために地域外ボランティアの活動が生かしきれませんでした。

4 組織とコミュニティの対応
 災害の復旧過程において,前回では,多種多様なコンフリクトを克服し,各種団体の組織化と統合化を図るリーダーの存在と強いリーダーシップによる緊急社会システムが形成されました。しかし,今回では,多くの集団が生み出されましたがいずれも短期的で離合集散的にとどまり,統合化された緊急社会システムの形成にいたっていません。
 緊急社会システムの形成が「町民大会」を成功させ,「防災のまちづくり」を高らかに宣言しつつ設定された前回の課題(防災設備,地域経済の立て直し)は,今回にも継承されています。しかしこのたびの経験は,さらに自己責任の自覚化を伴う「減災のまちづくり」,「火山との共生」を組み入れた「噴火災害の下位文化」の形成を求めているように思われます。

文学研究科教授



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