宇宙から見た地球の色は、
海の青、雲と雪氷の白、
そして大地の緑である。
陸地の大部分は緑に覆われている。
およそ40億年前の原始の海で最初の生命が誕生して以来、30数億年を生物は、「生命のゆりかご」、海の中で暮らしてきた。陸上は、強力な紫外線やさまざまな宇宙線が降り注ぐ、生物の住めない不毛の地であった。生物は、水に包まれ保護されていた。生物が陸上に進出するための準備は、生物自身によって海の中でなされた。およそ28億年前に、酸素発生型の光合成を営む藻類が誕生し、繁栄するに伴い、大気中の酸素濃度が少しずつ上昇し始めた。古生代シルル紀(約4億3千5百万年前)になると、酸素濃度は現在の10分の1くらいになり、オゾン層が形成された。宇宙から降り注ぐ紫外線などの有害宇宙線は、オゾン層で妨げられ、生物が陸上に進出する最低限の条件が整った。最初に陸上に進出した生物は、多分微生物であっただろうが、本格的な陸上生態系の成立は、光合成によりエネルギーを獲得できる独立栄養生物である植物の上陸によって始まった。全ての動物は、植物が作り出した有機物に依存する従属栄養生物である。
陸上に進出した植物は、それまでの水中とは極めて異なる環境に適応しなければならなかった。まず、媒質の密度の違いである。浮力の大きい水中では、単細胞の藻類のように媒質(水)の中をふわふわと漂って生活しているか、固着生活をする藻類であっても、重力に対して体を支持する骨格を持つ必要がなく、ゆらゆらと揺れて生活している。一方、気体である大気中で生活する陸上生物は、植物でも動物でも、重力に対抗して体を支えるしっかりとした骨格を必要とする。また、積極的な移動手段を持たない植物にとっては、浮力の小さい大気の中にあっては、必然的に固着生活を余儀なくされる。生命にとって不可欠の水は、地中に偏在している。地中から水分を吸収して、体の隅々まで配分しなければならない。エネルギー源である太陽光は、上方から降り注ぐので、陸上植物は光をめぐって競争し、上へ上へと伸びることになる(水中では、直達光よりも散乱光の割合が増し、植物プランクトンは水の動きに従っていろいろな光環境のところに移動する)。
このような新しい生息環境に適応するために、陸上植物はいくつかの重要な形質を進化させた。まず、細胞壁を炭水化物の繊維であるセルロースによって裏打ちすることによって、しっかりした骨格を作った。水の体内輸送のための組織として維管束が進化した。維管束組織を構成する縦長の細胞の細胞壁を厚くし、セルロースの網目にさらに強固なリグニンを沈着させて(この過程を木化という)、上方に伸長する植物体のしっかりした背骨とした。こうして、陸上植物は巨大化への進化のみちをたどり、ついには北米西海岸の樹高100メートルに達するレッドウッドや熱帯雨林の巨木を生み出し、地球上で生物自身が作り出した最大の三次元構造を持った生態系、森林の骨格生物となっていった。
森林は、地球上で最大の生物体量を有し(全植物体現存量の98パーセントが陸上にあり、そのうちの70〜90パーセントが森林にあると推定されている)、かつ最大の生物多様性を擁する生態系である。森林は、骨格生物である樹木が作り出す複雑な三次元構造の中に、さまざまな住み場所と餌を動物に提供している。その中には、植物を食べる多くの動物もいる。全昆虫(これまでに約95万種が知られている)の約半数が植食者であり、これは地球上の全既知種の約4分の1に相当する。これほどの植食者がいながら、なぜ地球上の緑は失われないのだろうか。その秘密は、陸上植物の体の骨格を作っている難分解性の物質(セルロース、リグニン)にある。
大部分の動物は、陸上植物の細胞壁成分であるこれらの難分解物質を消化できない。彼らは、肉食者も含めて、全て細胞質食者である。ほんの一部のものだけが、共生微生物の助けを借りてセルロースを栄養源にできる。陸上植物の巨大化と合わせて、このことが植物体(樹木)全体をバリバリ食べる動物の進化を妨げた。水域生態系では、生産者(植物)と第一次消費者(植食者)の体サイズの関係が逆転し、植物は丸ごと食べられてしまう。陸上生態系の植物体現存量の大部分は細胞壁物質で占められ、これらは植物が死んでから土中の微生物によって分解、消費される。つまり、陸上生態系は腐食連鎖が卓越する系であり、一方、水域生態系は生食連鎖が卓越する系であると言える。ラッコがいなくなったことにより、ウニが増え、その結果ケルプの森が消失してしまうことは起こっても、トラがいなくなったことにより森がなくなったということは聞いたことがない。森の緑を守るためには、土の中の分解系のことをもっと知らなくてはならない。最も肝心な土壌微生物生態系のことは、まだほとんどわかっていない。 |