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北海道渡島駒ケ岳(2001年夏撮影)。このあたりは、1996年以降の噴火の影響はほとんどないところ。1929年噴火から70年が経過しても、まだなお噴火以前の生態系にはもどっていない。手前に見える大きな木と遠くに見えている木々のほとんどはカラマツである。カラマツは、北海道に自生のものはなく、駒ヶ岳にとっては帰化植物となる。これらの帰化植物が自然の生態系の中に侵入することを生物学的侵入といい、現在の生態学の重要な研究課題の1つである。なお、駒ケ岳は、現在入山禁止となっている。 |
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| 日本の高校教科書でよく扱われる火山を代表とする乾生一次遷移の様式。植物群集の高さは時間の経過につれ大きくなる。しかし、有珠山の1977-78年噴火後の遷移では、コケ期・一年生草本期は欠落し、多年生草本であるオオイタドリやオオブキから群集の回復は始まる。 |
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| フィリピン、ピナツボ山山麓の泥流堆積地。山頂ははるか彼方にあって見えていない。噴火から6年が経過しても、なお泥流は続いていた。この周辺には、家を失った人たちが、掘っ立て小屋としか呼びようのないところに住んでいた。 |
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自分の専門分野は、植物群集生態学、
特に火山噴火による植物群集の変化と回復の仕方についてである。
最近たまたま朝日新聞で、「駒ケ岳マグマ蓄積、膨張続く」という記事を目にする。
山体膨張が続き、噴火の準備が整っている可能性があるらしい。
日本では、20の活火山が、24時間監視態勢を取る必要のある「常時観測対象火山」に指定されている。
実に、そのうち5火山(雌阿寒岳、十勝岳、樽前山、有珠山、駒ヶ岳)が北海道に位置している。
中でも、函館近くにある駒ケ岳は、1929年と1942年にに大規模な噴火を行い、
降下軽石や火砕流によって山麓の町村に大きな被害をもたらした火山である。
宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」は、1929年の駒ケ岳噴火にアイデアを得て書かれた部分があると言われている。たとえば、 「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変えるくらいの炭酸瓦斯を噴くでしょうか」という一文がある。
これは、炭酸瓦斯(二酸化炭素)が火山の噴火により大量放出され、地球温暖化が進み、冷害・霜害による凶作を防ぐことができるという、賢治らしい物語である。また、その位、駒ヶ岳の噴火はすさまじいものであったのだろう。実際は、火山噴火に伴い噴出した火山灰が成層圏中に横たわり、太陽の熱と光をさえぎるため、噴火による二酸化炭素放出による温室効果を上回る冷蔵庫効果という地球規模での温度低下が起こる(恐竜絶滅の原因と考える人もいる)。この童話の最後では、火山を噴火させるため誰かが島に残らねばならず、グスコーブドリは、それを選ぶ。
北海道はまさに燃える大地であり、その生態系への影響はかなり大規模に昔から延々と続いているのである。火山が噴出するものには、ガス、溶岩、軽石・火山灰があるが、このうち軽石・火山灰が飛散し地表面に降下したものをテフラと呼ぶ。中でも、火山灰は広域に降り注ぎ、多くの生態系に影響を与える。ヨーロッパの湿原との比較から、北海道の湿原をテフラトロフィックマイヤー(テフラの豊富な湿原)と呼ぶ人がいたり、北大苫小牧研究林周辺の森林では少し地表面を掘ると、軽石が現れる。道東の土壌は、かなりの部分が火山灰起源のものである。(※火山防災に関しては、本誌12号「災害と闘う」を参照されたい。)
ある雑誌に駒ケ岳において1996年噴火後6年間の調査結果を送ったら、調査期間が短いとリジェクト(掲載不可)というコメントを頂いた。確かに、火山噴火後の生態系は、土壌栄養の乏しさなど、生物にとって決して良い環境とはいえず、回復はゆっくりと進むことが多い。その図式は、多くの高校の教科書では、「土壌が未発達で、維管束植物が定着できない初期には、コケ・地衣類が生え、ある程度土壌が形成されると一年生草本植物が、ついで…」と書いてある。しかし、有珠山では、コケ・地衣類、一年生草本は特殊な場所を除くと噴火直後には見られなかった。
20世紀最大の噴火は、1980年に合州国西海岸のセントへレンズ山、1991年にフィリピンのピナツボ山のものである。両火山ともに大規模な泥流が発生しているが、そこでもコケはまず見られず、セントへレンズ山でも一年生草本はほとんど定着していない。世界各地の火山生態系の比較研究から得た新知見は、この他にもたくさんある。北の燃える大地で得た事実は、北の大地に留まるものではなく、世界の燃える大地への展開がなされつつある。
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