「森のしらべかた知ってますか?」こんな問いかけに応え、全国各地から森林研究を志す若者たちが北大の森に集まります。創設百二十五周年の節目を迎えた平成十三年に、林学教育のための演習林から学内共同利用施設の北方生物圏フィールド科学センターに移管した北大の森は、総面積約7万ヘクタール。東京都の3分の1に相当する広大な森で毎年夏に開催される「野外シンポジウム〜森をしらべる〜」は、文字どおり徹底した野外での研究発表と実体験を通して、森林の中で今、何が、どこまで解明されたかについて最新の情報を共有し、森林の保全や人と森との共存のあり方について考える5日間の公開講座です。
森林に関するあらゆる研究は、それぞれの目的に応じて「森をしらべる」ことから始まります。フィールドワークを主体とするこれらの研究において、森林やそれを取り巻く自然現象を正しく理解するためには、特定の分野にこだわらない幅広い発想に加え、現場での経験に裏打ちされた知識と深い洞察力が要求されます。森林研究に関するシンポジウムは内外で数多く開催されていますが、その多くは室内での講演を中心とするものです。しかし、時空間的に極めて多様な森林生態系を扱う場合、現場での感覚を欠くことは研究結果の解釈を大きく誤らせる恐れがあります。野外シンポジウムの最大の特徴は、みずみずしい感性と柔軟な発想に富んだ若い学生たちが、現実の森をその目で見て、さまざまな分野の研究成果を聞き、そして自らの手で触れながら確かめる、いわば「見る、聞く、触れる」ことにあります。これは、北大の教育理念の基礎となったクラーク博士の教育思想を今に受け継ぐものと言えるでしょう。
野外シンポジウムでは、物質やエネルギーの移動を解析することにより、二酸化炭素の吸収や温暖化の抑制など地球環境に対する森林の役割について考える「環境と生態系の機能」、さまざまな生物現象や生物間の関係をひもときながら、生物多様性の維持に果たす森林の役割を考える「生き物たちのしたたかな暮し」、そして森林資源の生産や森林に対する人間の働きかけについて考える「豊かな森を創造する」の3つのテーマが柱となります。各テーマに沿ったセッションでは、実際に調査研究が行われた現場へ出かけ、「森のミネラル家計簿―赤字か黒字か―」、「森はなぜ緑なのか」、「森林の百年先は予測できるか」など、担当者の思いを反映した印象的なタイトルで、研究者自身がパネルを使って具体的な成果を発表するとともに、参加者たちと一緒に調査作業を行います。現場で使用したパネルは宿舎にも掲示され、いつでも議論ができるようになっています。参加者たちは地上20メートルにも達する林冠観測タワーに登ったり、膝まで水に浸かりながら夢中で魚を追いかけたり、捕獲したネズミに手をかじられたりと、さまざまな苦労を体験しながら、フィールドでの調査データが何ものにも代えがたい重みをもつことを身をもって実感することになります。
「野外での研究発表は教室で聞くより何倍も刺激的」、「動物の視線で森をみることが生息環境を考える上で不可欠なことが理解できた」など、彼らが一様に口にする感想に、現場がもつ迫力と多面的な見方の重要性が伝わります。また「樹も草もみんな大きく、『もののけ姫』の世界みたい」、「夜の森がこんなに表情豊かだとは思いもよらなかった」と、北大の森の魅力について語ってくれます。雨の日は雨に打たれ、風の日は風に吹かれながら、早朝から夜更けまで、梢の上から水の中まで、あくまでも野外にこだわるシンポジウム。やがて森の息吹きが体の隅々に滲みわたり、彼らが森の一部に同化したとき、それまで見えなかった新たな森の一面が見えてくることでしょう。そこには、豊かな地球環境を保持し、人と森が共存していくための森からのメッセージが託されているかも知れません。
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