流動研究部門・
ナノテクノロジー・材料系


佐藤 敏文
Satoh Toshihumi

      医療材料は本当に安全か?
 現在、医療の現場で利用されている人・動物由来物を利用した医療材料によるC型肝炎やヤコブ病などの薬害が問題になっています。これらの材料による感染は治療された患者はもとより、治療した医師さえも知らずに起こっています。より安全な医療材料はどのように作ることが出来るのか? 今回はこの問題を解決すべく一つの提案として、植物由来物を用いた医療材料の開発について紹介しようと思います。

      狂牛病がもたらしたもう一つの恐怖!
 2001年9月に日本でも狂牛病に感染した牛が確認され、社会問題になっていますが、この問題は食品の安全性のみでなく、医薬品の品質や安全性にも関連しています。実は現在用いられている外科用接着剤や止血剤などの医療用ゲル材料のほとんどは牛や豚の皮や人の血漿タンパク質といった生体材料(ゼラチン・コラーゲン・フィブリノゲンなど)を原料に製造されています。厚生労働省(当時、厚生省)は日本で狂牛病が確認される以前から、これらからのウイルス性肝炎、アレルギー物質、発熱性物質、BSE等の感染に対する懸念から、他の材料への置き換え、原料輸入国の制限などの指導と規制を行っています。このような状況の中、合成材料を原材料とした外科用接着剤、止血剤としてシアノアクリレート(アロンアルファAなど)が実用化されていますが、その性能や毒性に基づく制約から適用はごく限られたものにとどまっています。また、ゼラチンに化学的な処理を加えて反応させる製品も実用化されていますが、これについても架橋剤(硬化剤)による副作用が問題になっています。そのため、感染の可能性がある人・動物由来物を用いず製造可能な、安全で性能の良い医療材料の製品化が望まれています。このような状況をふまえ、私は、これら人・動物関係医療材料の代替品として植物由来の原料から作られた特異的な構造を持つ糖鎖(糖が多数つながった分子)に注目し、この糖鎖を用いた新しい医療用ゲル材料の実用化を目指しています(図1)。
図1 研究概念図。人・動物由来医療材料による感染をなくす一つの提案として、新しい糖鎖を用いた医療材料の開発を行っています。

      糖鎖から作る医療材料
 天然にある糖鎖の代表例は植物細胞壁の主成分であるセルロース、植物の貯蔵栄養素であるアミロース(でんぷん)、蟹などの殻に含まれるキチン・キトサンなどです。これらを医療材料へ応用する研究は古くから数多く行われていますが、水に不溶性である点や物理的、化学的性質の制御が困難などの制約があります。
 このような状況に対応するために私たちの研究グループでは新しい医療基盤材料の探索研究を行い、化学的な方法による新しい糖鎖の調整に成功しました。この糖鎖はお菓子等で使用されている糖類や廃糖質と呼ばれる廃木材や廃糖質から作ることが出来ます。北海道は土地柄、廃糖質が多く、この処理が問題となっていますが、この廃糖質を高度利用することにより北海道の地場産業の振興と発展の一助になると考えられます。この糖鎖が持つ医療基盤材料としての利点は、(1)入手が容易な物質から実用的なコストで再現性良く調整できること、(2)原料や生成方法の選択により物理的、化学的な性質を広く制御できること、そして、(3)分解後の生成物の生物的安全性からも問題ないことなどがあげられます。この糖鎖は生体適合性物質などによる化学修飾により高機能な材料となることから、現在、外科用接着剤、止血剤、創傷被服材、人工臓器用の癒着防止膜などへの応用を念頭に研究を進めています(図2)。


図2 新しい糖鎖から作られたゲル材料。創傷被服や癒着防止用としてのハイドロゲル膜(左)と外科用接着剤、止血剤としてのゲル状物質(右)。

      たくさんの難題があるからこそ面白い!
 非常に性能が良い材料でも医療材料として認可されるまでには多くのハードルを乗り越える必要があります。しかしながら、このような一連の研究が感染の危険性をはらむ人・動物由来物を使用せずに医療材料、用具を製造する選択肢を増やし、結果として医療全体の安全向上に貢献することは明らかです。北海道で開発された技術が国内はもとより、諸外国でも利用されることを目指し、日々研究に励んでいます。


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