流動研究部門・
ナノテクノロジー・材料系


内藤 俊雄
Naito Toshio

      植物に負けるな!
 ここで紹介するのは、ただ同然の物質にある細工をして、次世代ハイテク電子部品に変えてしまおうという挑戦にも似た研究です。「ある細工」とは、ほんのわずか光を当てるだけです。つまり光エネルギーを利用して目的の電子部品(デバイス)を合成しようというわけです。「光合成」という言葉で良く知られているように、太古の昔から植物は太陽の光を利用して自らが必要とする養分を作ってきました。ここで紹介するような研究がうまくいけば、やがて人類は科学の光を利用して自らが必要とする各種デバイスを“光合成”する日がやってくるかもしれません。

      みにくい宝石の子?―実は眠れる宝!

 そうした研究の対象となるのは、「結晶」という固体です(図1)。“結晶”と言うと、綺麗な水晶や高価な宝石などを思い浮かべる方もいらっしゃることでしょう。ところがここで扱う“結晶”は顕微鏡で見るほど小さく、しかも往々にしてややいびつな形をしています。その正体は、1oの1000万分の1ぐらいの大きさしかない有機分子などが規則正しく並んだ集合体です。ですからどんなに“ちっぽけ”と言われても、一つの結晶に含まれる分子の数は天文学的数字に上ります(ゼロが15個から20個ぐらい並ぶ数)。仮に一つの分子にできることはちっぽけだとしても、これだけの数の分子が整然と並んで一つの共同作業に取り組んだ場合、想像をはるかに超えるパワーを発揮します。しかしいくら「ハイテクの時代」といっても、とてもこの精度(ずれや狂いが1oの10億分の1以下)で、この膨大な数の分子を人間がきちんと並べることはできないでしょう。それを分子は当たり前のように短時間で正確にやってのけるから、まるでコンピューターのようです。残念ながら、現在のところ人間はその“プログラミング言語”を知らないために、結晶構造(結晶内の原子や分子の配列)を自由に操ることはできません。それを何とかやろうとするのが、次世代のハイテクすなわちナノテクノロジーです(略して“ナノテク”;「ナノ」とは1/1000000000のことで、分子や原子のように非常に小さい世界を意味します)。この研究では、“逆転の発想”をとりました;「それならば逆に利用できそうな分子配列をした結晶を見つけ、何とかそれを生かせないであろうか?」。そこで考えました。どうせ利用するなら、できるだけ役に立つものにしたい。例えばこれからのハイテク社会で求められる様々な電子部品(デバイス)なんかどうだろうか? こうしてこの研究(挑戦?)は始まりました。今のところほとんど見向きもされない絶縁体の分子性結晶に、大胆にもデバイスとしての可能性を考えているのです。本当にそんなことができるのでしょうか? どうやって?

図1 種々の分子性結晶
(背景は1mm刻みの方眼紙)

      分子性結晶が超伝導体に化けるとき
 まずは*図2を見てください。これは1993年に発表されたある分子性結晶の電気抵抗(縦軸)の温度(横軸)変化です。グラフの低温部分だけ取り出していますが、冷やしていくと、ほぼどの測定結果でも矢印のところで急に抵抗が下がり始め、約5K(-268℃)で突然電気抵抗がゼロになった様子が捉えられています。つまりこの温度以下でこの結晶は超伝導体(世の中で最も電気を良く流す物質)になっていることがわかります。このように常識的には絶縁体(電気を全く流さない物質)と思われがちな分子性結晶の伝導性は、化学変化、温度、圧力などを利用して様々に変えられることがわかってきました。われわれ“化け学”者の手にかかれば、絶縁体の分子性結晶を超伝導体に“化けさせる”ことさえ、もはや夢ではないのです。大昔の「錬金術師」たちの夢が、形を変えて現代に受け継がれているのかもしれません。いずれにせよ、この「多様に変えられる伝導性」と「分子が規則正しく整列していること」こそが、次世代ハイテク電子部品、つまりナノデバイスとしての可能性を匂わせているのです。さらにこの研究が進んで“夢”の続きをお話できる日が一日も早く来るよう、目下奮闘中の毎日です。
(*H. Kobayashi, T. Udagawa, H. Tomita, K. Bun, T. Naito and A. Kobayashi, Chem. Lett., 1559 (1993).)


図2 試料を冷やしていくと超伝導になる様子*
(低温部拡大図;横軸が温度T、縦軸が電気抵抗r)


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