特集 国立大学の法人化からみる、北大と北海道の未来像
「札幌農学校」建学の精神が今また北海道を変える 対談 総長 中村 睦男さん 財団法人 北海道科学技術総合振興センター 理事長 戸田 一夫さん インタビューアー 工学研究科助教授 下川部 雅英

       国立大学もいよいよ自主経営と自己責任の時代に
下川部  2004年4月から、国立大学がいよいよ法人化いたします。総長は従来の国立大学の運営から国立大学法人を経営するお立場に変わりますが、法人化後の北海道大学は具体的にどのような点が変わるのでしょうか。
中 村  従来、国立大学は国の機関のひとつに位置づけられ、大学経営は主に文部科学省の権限とされていました。国立大学が法人化すると、大学が法人格をもって自主的に運営をおこない、その結果に自己責任を負うという存在になります。また、国立大学の教育研究は個々の教育者や研究者が担っていたのが、こんどは個々の研究者と同時に、大学として、あるいは大学が組織として関与することになります。
 そのためにはまず、大学の運営組織が大きく変わります。まず学長あるいは総長をトップに重要事項を議決する役員会ができます。役員会の理事は7名です。それから、経営の重要事項を審議する経営協議会と、教育研究の重要事項を審議する教育研究評議会ができ、役員会と経営協議会には相当数の学外者がメンバーに入ります。役員会の理事に1人、経営協議会には半数にあたる12〜13名の学外者が加わり、北海道大学の経営について審議していただくことになります。
 2点目は、運営資金の変化です。従来は毎年国から予算が出ていました。今後は、大学が6年間という期間について教育研究を含む大学運営に関する中期目標・中期計画の原案を作成し、文部科学省がそれを認めたうえで運営資金を交付するということになります。このお金は運営費交付金と呼ばれ、これまでよりも大学が自由に使える比率が高まります。ただし、この計画の達成度は評価の対象となり、その評価の結果は次の時期の中期目標・計画に反映されます。当然、評価が悪ければ次の時期から資金配分は減らされることがあります。

       思いきって変えることが新しい道を切り拓く
下川部 この大学は今後どのように変わるのが望ましいでしょうか。
戸 田  21世紀はお金儲けだけではなく、むしろ知恵比べで勝った地域に道が拓ける、という時代になるのはもう避けられないと思います。
 北海道は130年以上の歴史になりましたが、明治以来、国の行政はどちらかというと知恵比べに堪える知恵を北海道に定着させてきませんでした。頭はぜんぶ東京で、北海道は手足を動かしなさい、という具合です。ある意味で植民地でした。そこから脱却しなければ、北海道は資源の競争力が完全にないと言える状況ですし、いまのWTOの動きなどからみて唯一北海道を支えてきた農業も、下手をすると壊滅するかもしれません。それらに堪えられるものをどうつくっていくかは知恵くらべそのものです。
 知恵がどうしても必要となると、私はもういちど札幌農学校の時代を思い出していただきたい。農学校は当時、日本の農業を思い切って変えるという全日本的な視野に立ってつくられた学校でした。その学校のレベルはたいへん高く、東大よりも優れていたかもしれません。それだけの力を持った学校が建設され、いまの北大があるのです。
 日本の行政の考え方は、官主導のなかで資源開発に移ってきました。そのなかで北海道大学も頑張ってこられました。道内での位置付けはやはり農業で、札幌農学校時代、町村金弥さんからスタートした酪農はとくに優れています。そういう経過を辿ったにせよ、北海道の産業・経済はいま、深刻な状況です。こうなると、どうしても北海道大学にもういちど建学の原点に戻っていただき、北海道全体の産業を思い切って変えることが必要です。そして、道民自らがその主旨に対して一生懸命に現場で実践する。それが世界に勝てるための基本ではないでしょうか。

戸田 北大の先生方がいままでとは違った形で動き始めていますね 中村 世界レベルの研究と教育、地域との繋がりを年頭において

       人の交流も資金の流れも法人化でスムーズに
下川部  大学と地域の関係がより緊密になると思われますが、どのような結びつきが可能でしょうか。
中 村  知恵くらべの時代という理事長のお話に私も同感です。クラーク先生はじめ新渡戸稲造、内村鑑三、町村金弥、宮部金吾など、札幌農学校が世界に誇る人材を輩出したころの精神にぜひ復帰させたいですね。
 そのために、私どもは世界レベルの研究と教育、そして地域との繋がりを念頭においています。まず、従来は地方自治体からの寄付は禁止されていましたが、法人化後は地方との連携が制度的にも容易になり、科学技術に関する研究・開発、その成果の普及事業などに寄付をいただくことが可能になります。そうなると、あとでお話します産学あるいは産学官の連携ゾーンを新しく北キャンパスにつくる際に、地方自治体との連携がやりやすくなります。
 もうひとつは人事交流です。従来、教職員は国家公務員の身分で、地方自治体や地域社会との交流がむずかしかったのですが、こんどは非公務員ですし大学が人事権を持つので、自治体や道内企業へ出向も可能になります。民間などの受け入れも容易になります。このような人事交流も大きな柱のひとつです。
戸 田  ここ4年くらい、北大の諸先生方がいままでとは違った形で動きはじめていますね。いまはまだ制度的な拘束が強いですが、一生懸命にわれわれと考えたり、こういう研究があるけれどどうだろうと呼びかけたり、われわれ民間のものも積極的に使っていただくようになりました。法人化後はその拘束が解けますから、先生方もさらに行動が自由になります。これは北海道にたいへんなプラスになります。
 最近では北大の北キャンパスに町内会をつくり、連携しあっていろいろな活動をしてるようですね。研究者や企業者のネットワークもできています。研究者ネットワークは、北大だけでなく、180人くらいの全道の大学の先生方が参加して大きな目標に向かっています。研究はたいへんに広がりがあり、それらを総合的にまとめる努力がはじまっていることは、素晴らしいと思います。これが北海道のこれからの道だと信じています。

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