特集 国立大学の法人化からみる、北大と北海道の未来像
「札幌農学校」建学の精神が今また北海道を変える 対談 総長 中村 睦男さん 財団法人 北海道科学技術総合振興センター 理事長 戸田 一夫さん インタビューアー 工学研究科助教授 下川部 雅英

       北キャンパスをリサーチとビジネスの場に
下川部  戸田理事長のノーステック北海道科学技術総合振興センターは、北キャンパスでたいへん重要な役割を果たしておられますね。
戸 田  北キャンパスではすでに、創成研や次世代ポストゲノム研究など、世界でもトップレベルの課題に向かって先生方が道を拓こうとされています。しかし、その受け皿としての民間がそれについていけるかどうかが、ひとつの大きな問題です。
 起業家サイドがそれに順応できるようにするには、やはり町内会のような形でつねに先生方から刺激を受けることが重要です。「リサーチ・アンド・ビジネス・パーク」と呼ばれるとおり、北キャンパスはリサーチであり、ビジネスの場です。北大が最終的にこのビジネスの場をつくりあげれば、世界への発信基地になりうると信じます。
中 村  札幌農学校いらい札幌の中心地に200ヘクタール近くの敷地を持っていることは、私どもの最大の強みです。そのうち北キャンパスはだいたい30ヘクタール。その農場だったところがいま、研究ゾーンと産学官連携ゾーンに生まれ変わろうとしています。
 また、これまで北海道大学は敷居が高いと言われてきました。窓口がどこで、どのような先生がいてどういう研究をしており、どうコンタクトをとったらいいかわからない、という声も聞かれます。この点で、先端科学技術共同研究センターにリエゾン機能(リエゾン=仏語で交際といった意味)を持たせました。正直にいってまだ弱いのですが、現在その産業界とのリエゾン機能をさらに大学の明確な窓口にし、利用しやすくしたいと考えています。
 研究については、理事長のお話どおり、ことし次世代ポストゲノム、創成科学研究機構、電子科学研究所のナノテクノロジーセンターなどが始動しています。幸い国からもご理解をいただき、あれだけの施設を建てさせていただきました。ここで新たな学際的研究、新学問分野をつくりだすと同時に、それを活用に結びつけたいと思います。
 ただ、大学の教員の任務はやはり研究、とくに基礎研究です。知の活用は必ずしも得意ではありませんでした。これに対する私どもの努力はもちろんですが、産業界でもぜひ研究を活かす方法を考えていただきたい。企業を起こすのは産業界がプロですから。
 また、北キャンパスにはいま道の工業試験場があります。知の活用としてはこの試験場にもぜひご協力いただきたい。道内企業との連携は、道の機関のほうがノウハウも実績もあります。私どもはこの素晴らしい敷地や建物ばかりでなく、人の活用においても産業界、北海道大学、北海道、札幌市を有機的に結びつけたいと思っています。
戸 田  9年前にフィンランドのオウル市へ行く機会がありました。北緯64度、人口10万ちょっとのまちです。そこのオウル大学がいま、じつに充実した形で産学協同をやっています。大学の研究室の周辺に民間が試作・研究したり商品をつくるところが並んでおり、彼らのミーティングの場所もあって、一体となってやっているのです。感激しました。いま世界的な携帯電話会社のノキア社もここから生まれたと聞いて、ノキアへも行ってきました。
 じつは前総長の丹保憲仁先生が以前、オウル大学との交流を申し合わせた経過があったようで、この春にはオウル市から大学と市民が一緒になって札幌へ来てくださるというお話ですね。オウル市は私が9年前に行ったときに比べ、ビジネス関連体制、研究棟などがたいへんな充実ぶりと聞いています。私は、北大の北キャンパスにもぜひそうなってほしいと思います。
中 村  オウル大学とは大学間協定を結び、今年春には向こうの大学と自治体の方を含めて北大で共同シンポジウムをおこなう予定です。私どもも、とても大事な交流だと思っています。

       大学の特色が「知の創造」へとつながる
下川部  知の活用のベースは知の創造ですが、総長は世界レベルの研究をどう創成し、どう支援されるのですか。
中 村  国立大学はかなりの部分が国民の税金で成り立っており、それだけ国民の大きな負託を受けているわけで、当然、世界水準の研究をおこなうことが責務です。そこで国の高等教育や学術研究への資金も、だんだん競争的になってきました。大学の優秀なプロジェクトに対して選択的に与えられる傾向が強くなっているのです。
 そのもっとも代表的なのが、平成14年にはじまった「21世紀COEプログラム」です。普通の研究補助金は個々の研究者が申請するのですが、このプログラムは大学が組織として研究教育プログラムを組み、学長が申請します。私どもは昨年4件、今年は6件の申請が通りました。2年間で10件、これは数としては全国の大学で第7位です。このCOEプログラムは、世界水準の研究とそれにふさわしい若手研究者を養成するという2つの大きな任務があり励みになります。北大の特色とする研究をどう進めるかを、大学全体で考えたいと思います。
 その10件とは数学、情報科学、ナノとバイオについての生命科学、医学分野での獣医学研究科の人獣共通感染症、環境社会工学の領域、文系ですと人文系の心理学関係の領域、社会科学系では法学研究科の知的財産について、あとはスラブ研究センターのスラブ研究、北海道をフィールドとして地球環境科学研究科を中心にした地球環境問題、理学研究科では地球科学・生物分類学などたいへん多様です。
 この21世紀プログラムで採択されたものは、北大のひとつの特色といえます。他にもたくさんの優れた研究があるので、これからは次々と北大の特色として活かしていきたい。とりわけ農学部では、バイオマスを中心に新たな21世紀型農学の構想が生まれつつあります。また、北大にはユニークな海洋科学、マリンサイエンスがあり、こうした特色ある研究の水準アップも大学の任務だと考えています。
下川部  いま北大がいちばん知恵を出す必要があるのは、どこでしょうか。
戸 田  まず農業をなんとかしなければならないでしょう。北海道はいま崩壊という危機的状況にあります。そこから立ちあがるためにはどうしても、新たな方法の農業が必要です。
 じつはいま、北大農学部では「根圏」といって、根の研究が進んでいるようですね。それをさらに展開してバイオミクロコスモス研究という、人間の腸と土の働きを比べることで、さまざまな新しい学問分野がひらけているようです。これなどは文字通り世界に発信できる分野になると思います。これがある程度の形になり、現場である個々の農家へ下りていく状況になれば、北海道の農業はきっと強くなります。
 オランダでは、大きなグリーンハウスがたくさん並んでいて、中でカーネーションやバラなどを育てています。企業がそれぞれ自分で研究室を持ち、次々と新しいものをつくり、苗で売って代価を稼ぐという新しい形の農業を展開しています。北海道の農業も、まったく違った形の農業が考えられるとおっしゃる先生がいます。北海道こそ、それをやるべきではないでしょうか。
 そしてPRが重要です。いまは先生方がいろいろな工夫をしてパンフレットをつくられていますが、先生方はいままでご自分の仕事をアピールすることが下手でした。私があえてマンガでとお願いしたこともあって、いまはずいぶんお上手になりました。それらを、たとえば道経連や経済団体で勉強していただき、それを地方へ持っていくと、産学が一緒に動いていることがわかっていただけます。それがアピールです。法人化されれば、それももっと容易になりますね。
中 村

 いま農学部・農学研究科でバイオマス生産転換による循環型社会機構という図をつくっています。安全な食の提供、環境問題、資源としての生物利用などを結びつけた図で、農学研究科の将来像として私のほうに伝えられてきています。農学研究科も理事長が言われた方向で動きはじめています。


<拡大図>
戸 田  道の農業試験場関連のみなさんも、その研究ネットワークに参加していますね。農業試験場は現場に密接に関連していますし、北海道農業協同組合中央会からも入っています。研究者のみなさんが一体感をもって情報を共有し、実用化までもっていくと、農業に力がつくと思います。それに、実用化は大学に社会からの評価をもたらします。

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