特集 国立大学の法人化からみる、北大と北海道の未来像
「札幌農学校」建学の精神が今また北海道を変える 対談 総長 中村 睦男さん 財団法人 北海道科学技術総合振興センター 理事長 戸田 一夫さん インタビューアー 工学研究科助教授 下川部 雅英

       机上だけの教育から社会へ出て学ぶ実学へ
下川部  大学の使命にはやはり「教育」もあります。総長は昨年11月に高等教育機能開発総合センターで、学生を対象に「国立大学の法人化と北海道大学の将来像」をお話されていますが、そのときの内容を少しお聞かせ下さい。
中 村  法人化で国立大学の仕組みがこう変わるというのは、先ほどの話とほぼ同様です。加えて、私は学生にとってこれはたいへん良いことだと話しました。
 というのは、いまどこの国立大学でも教育を充実させることを真剣に考えています。正直に言うと、従来の国立大学の先生は、どちらかというと自分の研究に熱心でした。研究は評価されるが、教育は評価システムも整っておらず、いささか二義的だという傾向でした。
 しかし、法人化で大学の競争がはじまれば、どれだけ優秀な人材を育てたかが、すぐではないにしろ、10年後、20年後にはやはり大きな評価となります。法人化によって教育に力が注がれるようになるので、学生にとってはたいへん良いことだと思います。
下川部  北大の開学の精神には「フロンティア精神」「国際性の涵養」「実学の重視」のほかに「全人教育」があります。今後の北海道大学の教育にとくに望まれることはなんでしょう。
戸 田  こういう時代になって、社会的な躾を持たない幼児のような子どもたちが増えているのが実態です。
 蝦名先生の『札幌農学校』という本を見ると、1期生、2期生は学問に対する意志をはっきり持った、志の高い集団であったことがわかります。クラーク先生からはじまる全人的な教育から生まれたと思うのですが、そういう世界的な人間を育てる基盤が北大の歴史にはあるのですから、それをしっかり学生に教えていただきたい。
 教育の荒廃は、受け取る学生側にも、家庭そのものにも責任があります。北海道大学に入るからには、それなりの厳しい躾があり、そこで訓練もあることを親御さんにも覚悟してもらわねばなりません。また、社会もそういう雰囲気をつくらなければいけません。北海道大学には素晴らしい人間が多いという評価が生まれるように、われわれ経済界も真剣な努力が必要です。
 そしてこれから、実学が大事です。むかし、学生が夏休みに企業へ入って体験する実習がありましたね。学生も先生方も、また企業へ入ってみてはどうでしょう。時代がむしろ、それを要求しています。
 私は机上だけの教育では、もうだめだと思います。大学でも実務を通して教育の形を開発する。周囲の企業や人に協力してもらい、受け入れてもらうのです。学生たちはそこで、自分がどう生きるべきかを考えるようになります。卒業のとき、何をしたらいいかわからない、では困ります。学生は社会の大きな財産ですから、大学もそういう方向へ導いていただきたい。
中 村  人間教育については、入学して1年から1年半くらいのあいだにおこなう教養教育の充実を図ります。私どものコアカリキュラムは、どんな分野にも通用する授業で、発表の仕方、ものの調べ方などの教育も含んでいます。20人ぐらいの学生を単位に、1年生全員が取れるよう、全学の教員が協力してゼミをやっています。さらに、最近学生に人気のある、水産学部の練習船や演習林、牧場のようなフィールドで生の自然に触れながら学ぶことも含め、教養教育を私どもの重点のひとつとしています。この教養教育システムは文部科学省が選定する「特色ある大学教育支援プログラム」で採択され、励みになっています。
 もうひとつは、学生がきちんとした職業意識を持つことです。最近の学生のなかには職業意識を持たず、漫然と学校で学び、漫然と卒業したあとも、いわばフリーターと称してひとつの職業に専念しない傾向があります。これに対しては、インターンシップといって、戸田理事長がおっしゃったような、企業なり官庁に行って実習させることを考えています。また、インターンシップ、職業意識の教育、就職活動、卒業後の学生のあり方まですべてを含むキャリアセンターをつくり、学生を指導することも考えています。
下川部  少子化で2010年には志願者と大学定員が同数になるとの話もありますね。
中 村  いかに優秀で勉学意欲のある方々に来ていただくかは、大きな課題です。数年前から8月に、オープンキャンパスや体験入学といって、各学部の教室をいっせいに開放して、模擬授業や1日体験入学をおこなっています。
 同時に、最近は「高大連携」といって、大学の先生が高校に出かけて授業もおこなっています。具体的にはスーパーサイエンス・ハイスクールに指定された札幌北高にも行っています。
戸 田  北海道はいま、自分たちの手で切り拓かないかぎり、道はありません。それにはやはり人です。競争できる資源はもうないのです。とすると、最初に申し上げた知恵くらべのなかで、人づくりをしなければなりません。
 ところが、子どもの育て方が様変わりして、いまのお母さん方が赤ちゃんを育てる自信がないと言うのです。これは、今後の社会の大きな問題です。
 こんど北大では脳科学研究所をつくられるようですね。
中 村  文理融合型の研究と大学院教育をおこなう脳科学研究教育センターです。
戸 田  北大には沢口先生による子育ての研究もあり、先生の本を読んで、コーカサイドであるヨーロッパ人と同じ子育てをしてはいけないと、みなさんもわかってきました。
 日本の家庭でどのように幼児を育て、社会的にどんな制度が望ましいのか。北海道大学で子育てのいろいろを研究され、体系づくりをして、ぜひ北海道内に根づく子育てを行政と一緒に進めていただきたいですね。

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