特集 国立大学の法人化からみる、北大と北海道の未来像
北大の産学官連携と北キャンパス―北大北キャンパスリサーチアンドビジネスパークの産声によせて―

前副学長 前北キャンパス町内会長
獣医学研究科教授


藤田 正一
Fujita Syoichi

 41年前、寮歌「都ぞ弥生」の歌い上げる大自然に憧れ、北大に入学してきた。広い緑のキャンパス、牛の草はむ牧歌的な雰囲気、当時はまだ北大の一部に手付かずの自然が残され、周辺の土地とも境界がはっきりしない荒涼とした原野を思わせる場所もあった。これこそが北大の魅力であった。2001年、私の副学長の任期がスタートした直後に、創成科学研究棟、電子研、触媒研、次世代ポストゲノム研究棟等が北キャンパスに建築されることが一気に決まった。直ちに北キャンパスの利用計画を検討しなければならない。この素晴らしい緑を犠牲に新たな研究パークを構想するのであれば、それは、今の緑の農場以上に魅力ある、夢と希望を与えてくれる構想で無ければならない。以下はこのことを念頭に、2年間の私の副学長任期中に検討された、北キャンパス構想を中心とした産学官連携の整備を巡る一連の動きである。

       北大の未来を託す創成科学研究機構・産みの苦しみ
 創成科学研究機構の初期構想については丹保前総長時代の未来戦略検討委員会で検討され、方向付けされたが、まだ多くの論議を必要としていた。これを受けて、私が委員長をつとめる機構設置検討委員会で検討した結果、全学支援体制で北大の将来を担う基幹的、部局横断的基礎研究を育成するシステムとすることになった。世界的レベルの研究者と言う視点から選考される機構専任教官、学内から競争的に募集され、研究に専念できる様々な配慮がなされる若手の研究員、大型研究費を獲得した研究者に有料で提供するオープンラボスペースを基本とする研究組織と、「北大の将来を見据えた研究構想を企画する」とする機構の研究企画室の性格をめぐり、機構設置検討委員会では疑心暗鬼が飛び交った。部局の研究の将来構想をこの企画室が行うのかといった誤解や、文系にはあまりメリットが無い構想では無いかなどという意見もあった。消耗を極める委員会の繰り返しであったが、魚崎触媒化学研究センター長(当時)、下沢電子科学研究所長(当時)らの熱意でようやく現在の形におさまり、全学支援体制のもと、北大の未来を託す研究機構として学内的合意を得たのが2002年2月である。遅れて、次世代ポストゲノム研究棟についても、創成科学研究機構の一部門とすることで決着が着いた。

       北キャンパスリサーチアンドビジネスパーク構想の誕生
 ここで北大北キャンパスリサーチアンドビジネスパーク構想の誕生に関わる産学官の懇談会に言及したい。北大の産学官連携の推進機構として先端科学技術共同研究センターおよび産学官協働研究センターがある。また、北海道地区の大学、高専が合同で設立したTLOがあり、近くにはJSTの研究成果活用プラザが建った。それぞれが連携して活動することが求められた。また、学内的には、産学リエゾンの役割を行うアンカーパーソンの制度があるがうまく機能していないという指摘があった。このままでは北大の産学官の連携はうまく進みそうもなかった。総長に産学官懇談会を発足させ、北大の産学官連携のあり方について諮問することを提言、認められて、産官学の代表者からなる懇談会がスタートした。2001年10月から2002年3月いっぱいまで、白熱した論議を行った。この論議の中で北電の千葉氏がスケールの大きい提言をした。北キャンパスを中心に、産学官連携の一大拠点を形成し、北海道経済発展の核にしようと言うものである。範とすべきはオウル大学の産学官連携の姿である。北大北キャンパスリサーチアンドビジネスパーク構想という呼称もこの時紹介された。

       北キャンパスリサーチアンドビジネスパークのかじ取り
 これらの検討を通じて、これから増えるであろう北キャンパスの研究所群の事務手続き等を一手に引き受けて管理運営する組織の必要性を感じた。この役割を創成科学研究機構に担わせてはどうか。2003年2月に提出期限であった文部科学省振興調整費のテーマ募集に、既に産官学で検討されていた北大北キャンパスリサーチアンドビジネスパーク構想の中核に創成科学研究機構を据えて全体を管理するシステムの構想で応募しようと考え、申請書の作成を創成科学研究機構研究企画室長の高橋浩先生にお願いした。申請書提出の僅か1ヶ月前のことである。彼は持ち前のバイタリティーと社交性を遺憾なく発揮し、多くの産業界の方々の協力も取り付け、素晴らしい案を構築し、みごとにこの大型予算の獲得を実現させてくれたのである。文字どおり産学官連携の賜物であった。これから、振興調整費の豊富な予算を用いて創成科学研究機構が中核となって北キャンパス運営のかじ取りをすることとなろう。

       北キャンパス利用計画
 並行して施設環境委員会では北キャンパスを3つにゾーン分けして利用することが承認された。アカデミックゾーンは、基礎研究を主眼とする研究施設を建築する目的に使用する。基礎研究は大学の基本で、これ無くして、不断の応用研究の知的糧は得られない。産学官連係ゾーンでは応用・開発研究を目的とする研究施設建築の場であり、民間活用ゾーンは大学発ベンチャー企業やその他の企業に土地を提供し、研究所の建築を許可し、製品化研究を産学官共同で行おうと言うものである。また、北キャンパスの開発にあたっては、ビオトープの創成、クリーンエネルギー、汚水や汚染物質の無排出など、エコ・コンシャスな開発とする。その他、研究者の集積に伴って必要となるコンベンションホールや、宿泊施設、食堂、レクリエーション設備、ATM、コンビニエンスストアー、キャンパスバスの運行などの必要性も検討された。


<拡大図>

       北キャンパス町内会
 2002年、産学官協働センターに事務局を構えるノーステック財団の提言で、北大の研究所群と、道の各試験場を含む北キャンパス周辺地域の研究所群の参加する北キャンパス町内会なるものが発足した。相談を受けた時、研究者交流のサロンがスタートできると思った。創成科学研究機構長として町内会長を引き受けた。クリスマスパーティーも町内会主催で行われ、町内会の研究所めぐりもスタートした。今年度は新会長(現JST総館長の廣重元本学総長)の下、町内会主催で研究発表会も行われ、その懇親会も産官学からの多くの参加者で盛会であった。戸田ノーステック財団理事長の北海道に対する熱い思いの熱弁に感動した。このような熱気の渦の中からきっと何かが生まれてくる。北キャンパスには創成科学研究機構棟も次世代ポストゲノム研究棟も完成し、振興調整費による研究者の雇用もあろう。今年から研究者人口は格段に増える。町内会の研究者サロンが新たな発想のきっかけを引き出す触媒になればと願う。

       知的財産本部構想
 産学連携に不可欠なのが、大学の知的財産の活用である。国立大学法人化後は、大学の教官が大学で行った研究の成果としての知的財産は大学帰属となる。特許化した全てを大学が所有することになれば、これを維持する上で経済的にも大きな負担となることは目に見えている。「目利き」が取捨選択をして実利的なもの、あるいは将来「大化け」する可能性のあるものを残すシステムを構築する必要があろう。技術移転に関しては北海道TLOとの関係をどうするか、特許と言う速断即決を必要とする意志決定システムをどうするか、様々な検討がなされた。検討委員会のメンバーで米国のスタンフォード大学、カリフォルニア大学にも視察に出かけた。満を持して文部科学省の知的財産本部の提案募集に応募し、認められて予算措置された。構想は副学長を知的財産本部長とし、その下に戦略部と運用部を設け、知財に関する意識の啓発、MOT教育から、シーズの発掘、特許化の検討、技術移転の可能性の検討までを網羅し、技術移転はTLOやJSTとの協力関係を密にし、委託する方向で立案されたものである。2003年の正月あけ、経済産業省から1月末日が提出期限の、MOT教育用教材の開発研究の募集があった。経済学研究科の濱田教授が理系大学院生のために実験的に経営戦略の講義をしていたのを思い出し、応募を依頼した。申請は見事に採択され、今その教材作りのプロジェクトが動いている。今後、この教材を用いて知財本部とも連携した文理融合型のMOT教育がスタートすることを望む。

       果実は未来を託す若手研究者の養成に
 既に少し触れたように、創成科学研究機構には分野を問わず、学内の優秀な若手研究者に研究費を与えて、機構専任の世界的研究者、および、オープンラボスペースを利用する先端研究者に混じって研究棟に拠点を置き、一定期間様々な雑務から解放されて研究に専念できる機会を与える仕組みが作られており、すでに、選ばれた若干名の若手研究者がその恩恵に浴している。未来に花咲く基礎研究に水を与える仕組みだ。今、これに関わる資金は学内から調達しているが、先端研究から得られた果実の収入から彼等の基礎研究をサポートできるサイクルの確立を今から考えておくべきである。大学が技術移転可能なシーズの源泉であり得るのは、大学が真理の探究の場であり、物事の新たな原理やメカニズムを解明する場であるからである。これらの原理に基づいて応用可能な開発研究が推進されるのだ。ちなみに、原理に対する特許はそれを応用した広範な製品開発全てに関わることとなり、最も有効な特許の取り方でもある。

       頑張れローテク
 毎年、大学祭になると、エルムの森付近に簡易トイレが出現する。農学研究科の寺澤教授が実施しているバイオトイレの実践研究だ。不思議なことに臭わない。今や、水洗トイレの設置が出来ない場所にこのバイオトイレが大活躍している。もちろん動物の糞にも応用可能だ。地球を救うのは、このような環境に優しいローテクであろう。北海道の基幹産業は、観光を除けば、農業、畜産業、水産業などの一次産業である。日本の食料自給率の悪さから考えれば、まだまだこの分野は伸びる可能性がある。持続可能な生産性の向上と安全な食の供給が期待される。今後のこれらの研究はハイテクを使ったローテクへの貢献であると言えるかも知れない。北キャンパスももとを正せば全て農場の敷地である。是非ともここに農を中心に据えた研究施設を設置していただきたいものである。

       最後に
 一挙に動き出した北大北キャンパスの開発と産学官の連携、ここに至るまでの経緯、その中での大学の役割と使命などを考察してみた。北キャンパス構想が範とするのはフィンランドのオウル大学における産学官連携の試みであるが、大学のあるべき姿を失わず、専門家集団としての批判的観点をも忘れず、北海道大学らしい特徴あるリサーチアンドビジネスパークを目指して行くことを期待したい。


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