特集 国立大学の法人化からみる、北大と北海道の未来像
北キャンパスエリア―産学官の連携と推進戦略―

先端科学技術共同研究センター 
リエゾンオフィス教授


荒磯 恒久
Araiso Tsunehisa

       連携機関が集積する北キャンパスエリア

 
農場が変わった

 みなさん、北大「北キャンパス」という言葉をもうお耳にされましたか?
 北18条から24条にかけて広がる北大のキャンパスです。つい1・2年前までは林に囲まれた獣医学部と低温科学研究所、農場に点在する先端科学技術共同研究センターとコラボほっかいどうのほかに建物もなく、広い緑の空間でした。賑やかなのは、お隣の北海道立の試験研究機関群と研究成果活用プラザ北海道……。
 ところが……図1の写真を見てください。昨年(2003年)北キャンパスは大変貌を遂げました。北海道大学が新たに作り出した創成科学研究機構を中心とする「融合型」研究機関が続々とその姿を現しました。次世代ポストゲノム研究棟、触媒化学研究センター、電子科学研究所ナノテクノロジー研究センターが入居してきたのです。学内循環バスも走り始めました。北大北キャンパスとお隣の道立試験研究機関群を合わせて「北キャンパスエリア」として一体化し発展を目指しています。
 新しい北大の息吹を感じてください!

北大も大きく変わる〜国立大学法人化〜

 全国の国立大学は間もなく「国立大学法人化」されます(2004年4月)。国立大学は今まで文部科学省の一支部といった性格を持ち、全国・全世界を見た教育と研究活動を中心に据えてきました。国立大学法人化後は国から独立した法人格を持って、大学自身が自らの活動の主体となるのです。このことは、北海道大学が文字通り「北海道」の大学として北海道に根を下ろし、教育・研究の推進に加えて地域の生活・文化・経済に積極的に貢献する大学に変化していくことを意味します。具体的変化の一例として、大学教官の特許(知的財産権)が今まで国か個人に帰属し運用に「固さ」と「あいまいさ」がありましたが、これを大学の帰属とし発明者の権利を保護しながら機動的・機能的に運用することができるようになります。企業が大学の技術を活用するルールが明確になり、企業と大学の間の垣根が一つ取り除かれます。

産学官連携は日本の経済政策

 産学官連携は我が国の経済を活性化するために進められている経済政策です。大学・企業・独立法人系研究機関・公設研究機関・省庁(地方局)・自治体・経済団体・連携支援機構及び財団・金融機関などが一体となって進めるべきものです。大学だけが変わるのではありません。大学は教育と研究、特に基礎研究を担う機関として、科学技術を基盤とする経済活性化を進めるための土台をつくるものです。北海道では各機関の大きな努力の上に図2に示すような事業化支援・資金供給まで含めた総合的な産学官連携システムが出来てきました。
 大学における学術研究は大河の流れのように止まることなく流れ発展します。基礎研究は真理を探求することが目的ですが、その中には将来性のある産業技術の芽が数多くあります。新しいサイエンスを作るためには既存の研究分野間の複合と融合が必須のものとなりますが、これは創成科学研究機構が受け持ちます。一方、産業技術の芽は高度に専門化したハイテクばかりではなく、研究者にとっては一般的知識と考えられるものの中にも潜んでいます。このような芽を社会のニーズと照らし合わせて産業技術化研究の舞台へ引き上げるのがリエゾン(結び付け)機能・技術移転機能です。産学官連携システムの中ではさらに製品化への研究、事業への展開の機能が必要です。図2を見ても分かるように学術研究が経済効果をもたらすまでには数多くの機能と、それを担う機関の連携が新たに必要となるのです。北キャンパスエリアにはそれらの機関が集積しています。机上の議論が現実の活動へ具体化することが可能になったのです。

       北キャンパスの産学官連携推進戦略

 
技術シーズ発展型と企業ニーズ発展型

 産学官連携による事業化へのプロセスは(1)「技術シーズ発展型」と(2)「企業ニーズ発展型」に分けて考えることができます。「技術シーズ発展型」では大学や各研究機関が持つ産業技術シーズを基に新規事業やベンチャー企業創出を図ります。ここではIT、バイオ(医薬系バイオ、農業・食品系バイオを含む)、新素材など先端的科学技術が主力になり、創成科学研究機構、次世代ポストゲノム研究組織、ナノテクノロジー研究センター、触媒化学研究センターの複合・融合研究が土台になります。事業化へは知的財産権の活用、事業主体の立ち上げなどで大学の知的財産本部、TLO、北キャンパスエリアに研究成果活用プラザをもつ科学技術振興機構(JST)の各種支援メニューが活用できます。ベンチャーキャピタルなどの金融機関との連携も必要になりますが、先端科学技術共同研究センターのリエゾン機能が金融機関との融合を図ることができます。北大発のベンチャー企業や新事業が今、続々と生まれています。
 次に、「企業ニーズ発展型」の産学官連携では、企業、特に地場企業のニーズに大学や各種研究機関が応えるもので、広い範囲の産業分野での連携が可能になります。技術の土台となるものは先端的科学技術から一般的知識・技術の範囲と考えられるものまで多様なものとなります。大学・研究機関との研究には広く工学部、農学部など全学から参加していただかなければなりません。このプロセスでは企業と研究者の出会いから実際に産業技術化研究を進める研究スペース、知的財産権の管理と移転、事業展開を支援する自治体の施策、金融機関の活動の一体化が必要不可欠です。基礎研究を志向する大学と経済活動を優先する企業との二者の連携だけでは難しいのです。ここで技術研究の面で重要な役割を担うのは、地場企業との連携を本来の使命とする公設研究機関です。北キャンパスエリアには北海道立工業試験場をはじめとする4つの試験研究機関があり、また産業技術化研究に向けたレンタルラボ(貸し研究スペース)機能を持つ「コラボほっかいどう」や「研究成果活用プラザ」があり、基礎研究から製品化研究に至るまで切れ目の無い連携機関群が集積しています。各機関の役割は図3のように表すことができます。

学内外の連携の推進

 図3に示したような広範囲の機関のマッチングを作るためには、大学の持っている機能だけでは不十分です。大学の範囲を超えて企業や自治体と連携したスーパーリエゾンオフィス(串刺し連携室?)とでも呼ぶべきヘッドクォーター(司令塔)機能が必要となります。
 北キャンパスを総合的産学官連携活動の拠点に育てるため、道内企業・経済団体・中央省庁の地方局・自治体(道、札幌市等)は様々な取り組みを実施しています。北大リサーチ&ビジネスパーク構想が北大、北海道、北海道経済連合会をはじめとした関係機関の連携によって進められています。この機能を広く利用してもらうため、産業技術総合研究所の提案により、産学官合同のリサーチ&ビジネスパークのサテライトオフィスが札幌市の都心に開設される予定です。このオフィスはワンストップの産学官連携窓口機能を目指します。また札幌市と北海道の努力によって北キャンパスエリアは「さっぽろベンチャー創出特区」としての認可も得ています。北大では北キャンパスエリアにおいて基礎研究から事業化までの一貫した産学官連携システムを構築するため、これを文部科学省の科学技術振興調整費事業として強力に推進しています。先端科学技術共同研究センターのリエゾンオフィス(連携室)では、各分野の専門家を客員教授や研究員として招聘し、大学・経済界・省庁地方局・自治体・連携支援機構及び財団・金融機関が融合したリエゾン機能の充実を図っています。
 大切なことは、北海道が必要とする連携システムのあるべき姿のイメージを鮮明にし、各機関がその実現に向けて各々の持てる力を発揮することにあります。ヘッドクォーター機能は連携の中に自ずから生まれるのです。

点から面の産学官連携へ

 持続的な産学官連携とそれによる経済効果を生み出すためには、従来型の一企業と一研究者による共同研究の枠組みを超えて、複数企業と複数研究者による新産業創造を目指した日常的な交流が必要です。そこから新たな製品のアイディアやビジネスプランが継続的に生まれてくるのです。それは産学官連携を「点」の活動から、自律的発展性を持ち「面」へ広がる活動へと変換させることになります。
 先端科学技術共同研究センターと100社を越える道内中小企業は2001年に産学官連携研究会(北海道プラットフォーム・エントランス;HoPE)を作りました。大学や各研究機関の研究者と企業経営者が月一回の例会を開き、企業経営者の技術革新を取り入れる意欲の向上と研究者の地域連携に対する意識改革を通して新たな産業技術化研究を生み出し、事業化を目指そうとするものでした。そのシステムを図4に示します。
 発足以来2年半を経過して現在会員企業170社を越え、8研究会が自律的に活動しています。その中でも「凍結路面対策研究会」の活動は新聞紙上を賑わしています。HoPEの活動では研究者等のアドバイザーグループに理系研究者ばかりでなく、技術・知的財産管理、経営・資金、法務の専門家を配置し、事業化ステップに対応できるシステムを構築しています。北キャンパスエリアの諸機能と連携し、数多くの競争的資金も獲得しながら新たな事業展開を始めました。
 HoPE活動を通して、新産業の形成に必要な産学官連携のテーマは、従来から言われている「産側のニーズと学側のシーズのマッチング」よりも、「産と学の出会いによる企業ニーズ(アイディア)の創生」から多く生まれてくることが分かりました。「企業ニーズの創成→製品化研究→事業化」のサイクルを繰り返すことにより「面」の産学官連携が実現していきます。HoPEの活動は、新産業の形成に産学官がどのように関わっていけば実効を伴うものになるかという具体的なプロセスを例示しているものとして今後の北キャンパスエリアの活動に多くの示唆を与えるものといえるでしょう。現在HoPEの事務局は北海道中小企業家同友会にありますが、「オール北海道」のHoPEへの転換を検討しています。各地域、各分野でHoPEのような自律的展開機能を持つ産学官連携組織を立ち上げることから、産学官連携による地域経済の活性化が実現されるものと期待されます。

 北キャンパスエリアは、基礎研究から事業化までの産学官連携の様々な機能をそなえ、「北海道の夢」を実現するところです。産学官連携や北海道の活性化に関心のあるすべての方々の活用をお待ちしています。

liaison@cast.hokudai.ac.jp



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