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農学部農学科を卒業したのに、紆余曲折を経て、小説を書くという仕事にたずさわるようになった。農学部を選んだのは、子供のころから動植物が好きで、自然と関わりのある仕事に就きたい、と考えていたからだ。こつこつと原稿用紙の升目を物語で埋める作業は、しばしば農作業によく似ている、と思う。しかし仕事場は室内だから、その点は違ってしまった。
それでも自然へのこだわりは、昔も今も根深く私の内側にある。執筆に倦むと、私は戸外に出ていく。長年の住まいは東京なので、北海道のように周囲に手つかずの自然があるというわけではないが、人のつくった公園がそこかしこにある。そしてそのような場所でも、野生の生物たちはしたたかに生き続けている。
たとえば家から歩いて20分ほどの洗足池公園は、桜の名所として有名なのだが、私にとってはもっとも近い“鳥見”のフィールドだ。たとえば冬場には美しい羽色の数種類のカモのほか、貪欲なのに見かけは愛らしいユリカモメが勢ぞろいする。
もっと足を伸ばして、8年にわたり、自然観察会の仲間と協力して東京都に働きかけ、やっと設立に漕ぎつけた東京港野鳥公園に行くこともある。ここでは都内には稀になった昔ながらの自然に触れることができる。オオタカやノスリなどの猛禽を頂点にした豊かな生態系の世界でもある。26ヘクタールという敷地の中に農地あり、草地あり、湿地あり、淡水池あり、潮入池ありという多様な環境が生じた。開園して15年たったが、もとは人工の埋立地だったとはだれも信じないだろう。東京という風土の育んだ自然と思えば、ここにもやはり農業との類似点が浮かぶ。
室内で小説を書きながら、戸外で自然に親しむ。傍目は別々の次元のように見えても、自然と密に関わっている私の内側で、両者は一つに溶けあっている。

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