特集 アジアに広がり花開く北大のフィールド科学
森林、農場、海、湖……日本一広大な研究施設に恵まれて 対談:福田 正己・甲山 隆司・高橋 英紀・小池 孝良・山本 美穂・大崎 満(コーディネータ)

       北大が北極圏とアジア圏の研究の中心に
大 崎  それぞれの先生がすでに北大から飛び出して、国際的な共同研究のなかに位置付けられながら仕事をされていますが、とくに国際的にこういう地球レベルの生態圏を研究するグループIGBPの科学委員として事務取り扱いをされているのは、甲山先生ですね。
甲 山

 IGBPは国際学術連合のもとに展開されている地球環境関係の国際共同研究計画の一つで、すでに10年の計画のうちの第一期を終えて、さらにそれを展開すべく第二期の活動に入ったところです。IGBPは北大とも関わりが深くて、北大の地球環境科学研究科を定年退職された角皆静男先生がかつて副議長を務められましたし、現在、私も科学委員として加わっています。
  IGBPにはいくつかのプロジェクトがあって、ここで議論しているような陸域のフィールド科学と密接に関係するものとしては、いままでGCTE(地球変化と陸域生態系)が昨年度まで活発な活動をしていました。北海道大学でも苫小牧研究林を主要なGCTEの一つの研究サイトとして総合的な研究を展開していましたし、現在そのまとめに入っている段階です。
  もう一つは、山本先生からお話があったLUCCという土地利用に関するプログラムです。これはIGBPと同じ国際学術連合の下のヒューマン・ダイメンションに関するプログラム(IHDP)の共同のプロジェクトとして位置付けられていて、主に人文地理学的な視点で陸上の変化を見るプログラムです。これもそろそろまとめの段階に入っています。
  IGBPの二期では陸上の研究を、かたやGCTE的な生態学・地球化学的なアプローチ、かたやLUCCのような地理学的なアプローチで、自然システムと人間システムの相互作用を統合的に見ようということで、DLP、訳すなら地球陸域プロジェクトを立ち上げるところです。おそらく今年から正式に事務局が発足し、GCTEとLUCCのファミリーが一緒に新たな統合的研究をすることになるので、まさに大崎先生が言われたフィールド科学とオーバーラップするものになると思います。最近のメキシコ公開会議には大崎先生も出席されました。
  しかし、それぞれの国際研究プロジェクトも、けっきょくは国際事務局がこれら研究のコーディネーションを行い、統合的に進めていくので、どうしても事務局を持つところがその情報を集め、主導的役割を担うことになります。残念ながら、日本がこの事務局機能をもった経験はありません。フィールド科学のマンパワーと経験を持つ北大で、法人化に合わせてぜひ事務局を招致し、国際的に成果を発信したいと考えています。

甲山 ぜひ事務局を招致し国際的に成果を発信したい
 

大 崎  日本でのIGBPでは北大がたいへん重要なウェイトを占めました。それは、日本でIGBPの研究をするには、北大のフィールドしかないということで、研究林を中心にいろいろな研究が展開されたのです。そのへんの事情を小池先生にお願いいたします。
小 池 2003年5月 横田 篤氏撮影 IGBPの第二期では、大学が中心に実際に研究サイトをつくって研究を進め、次の世代を養成することを大きな狙いとしました。この先人たちの仕事のなかにIBP(国際生物学事業計画)というのがあって、いわゆる地球上の一次生産量、つまり国際的に人類の生存のための扶養力を調べる仕事がありました。これに大気など地球環境の変化がどのように影響を及ぼすかという視点で進めたのがIGBPです。しかし長期にデータをモニターし、それを公開して世界の共有財産までもっていこうとなると、実際にやっているところが少ない。机上の話になってしまうのです。
  そこで苫小牧研究林を中心に、生物生産量、物質の循環といったものを、個葉のレベルから実際に森林空間にアクセスして調べています。さらに昨年度、生物多様性の研究が新しく動き始め、生物間の相互作用が将来どのように変わっていくかという視点からも仕事を進めるべく、温帯林では世界初のキャノピー・クレーン(図4)などを駆使して生物相や物理相を調査しています。
  もう一つは、実際に苫小牧研究林全体を調べることで、これはNet Biome Productivity(純生態系生産量)と呼んでいますが、LUCCの土地利用などと関わって生物量がどう変動していくかまで調べることが可能になりました。たくさんの学生が実際にこの現地で活動し、世界的な活躍をする研究者になっているのは大きな成果です。
  現在はさらに、大崎先生も参加されて先ほどの土地利用問題に新しいプロジェクトが動くとのことですが、それに役立つところでは、たとえば実験林全体を実験室につくりかえて直接炭酸ガスを付加するフェース(FACE:開放系CO2増加実験)と呼ばれる実験を始めたり、世界一の規模を誇る北大の研究林を全部使って地球環境問題に貢献できる数値データを出し、それを世界の共有財産にすべく、いまウェブ上で公開するシステムを北大の技官の方々が中心になってつくっています。これらの成果を雑誌「北方森林保全技術」としても出しています。
大 崎 福田先生はアラスカも含めた北方圏の国際共同研究を展開されていますね。
福 田

先ほどのIGBPには大きく二つのやり方があり、一つはいま言ったIGBPの国際的な研究協力機関とタイアップするやり方と、もう一つは二国間で仕事をするやり方で、いまこの二本立てで展開しています。ロシアの国の事情を考えると、国際的な場にはなかなか入りにくいので、ロシア科学アカデミーとの相互協定をつくって二国間レベルの研究をしています。
  もう一つ北方圏の国際共同研究のたいへん大きな枠組としてできたのが、アラスカ大学の国際北極圏センター(IARC)です。これは、橋本・クリントン会談のコモンアジェンダのなかで、国際的な温暖化現象には北極圏での解明がたいへん重要であるとして、日本とアメリカの共同出資でつくった研究システムです。たいへん立派な建物で、そこを中心に日本とアメリカが北極圏における様々な研究を推進していこうというものです。
  このように、現在は個別的に枠組を活かしながら、あるいは国際的な傘の下のIGBPなどを使いながら研究を展開しており、そのなかで北大は北極圏の研究の中心的役割を担っていて、全国の大学がそれに集まってくる形をとりつつあります。いわば北大が研究の中心になっているということですね。

福田 北大は北極圏の研究の中心的役割を担っています

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