特集 アジアに広がり花開く北大のフィールド科学

森林による二酸化炭素の吸収量を測る

農学研究科 助教授


平野 高司
Hirano Takashi

       わからないことが多い
 産業革命以降、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果気体の大気中濃度は上昇を続け、その結果として、人類は温暖化という深刻な地球環境問題に直面することになりました。CO2濃度の上昇は、化石燃料の使用や森林伐採などにともなって排出されたCO2によるもので、排出量の5割程度が大気中に留まり、残りが森林を中心とした陸上生態系と海洋に吸収されると考えられています。しかし、森林による大気CO2の吸収・固定に関しては不明な点が多く、地球上の森林が吸収するCO2量や、将来におけるCO2吸収量の変化を正確に見積もるには、様々な森林における炭素蓄積量および炭素(CO2)吸収量に関する精度の高いデータの蓄積が必要であり、また蓄積量や吸収量を変化させる要因について正しく理解しなければなりません。そのため、1990年代の後半以降、世界各地の森林で微気象学を応用した方法によるCO2吸収量の長期連続観測(モニタリング)が行われるようになりました。

       ダイナミックな変化を測る
 森林によるCO2吸収量を測るには、前述した微気象学的方法と生態学的な方法が利用できます。生態学的方法は、ある時間間隔(通常は1年以上)で単位面積の土地に生存する植物の量(現存量)を測定し、その増加(成長量)と期間中に枯死した植物の量からCO2の吸収量を求める方法です。現存量は、刈り取って直接量る、あるいは幹の円周長や樹高から推定することができます。一方、微気象学的方法は、風速と大気CO2密度の変化を森林上で連続測定し、単位面積の水平面を通って単位時間に鉛直方向に運ばれるCO2量(CO2フラックスとよびます)を求める方法です。それぞれ一長一短がありますが、微気象学的方法では、風上側数百m程度のCO2吸収量の平均値が30分〜1時間間隔で得られ、光や温度の変化に対するCO2吸収量のダイナミックな応答をみることができます。なお、森林は植物と土壌で構成される生態系で、植物は昼間、光合成を行ってCO2を吸収しますが、夜間は呼吸によってCO2を放出します。一方、土壌は微生物や植物根の呼吸によって1日中CO2を放出します。そのため、微気象学的方法で測定した夜間のCO2フラックスは森林全体の呼吸量、昼間のCO2フラックスは森林の光合成量から呼吸量を引いた正味のCO2吸収量となります。夜間のCO2フラックスと温度の関係を求め、その関係を適用して昼間の呼吸量を推定し、その量を昼間のCO2フラックスから引くことで光合成量を推定することができます。

       インドネシアの熱帯泥炭林
 現在、私たちは北海道のカラマツ林、インドネシアの熱帯泥炭林(写真)、およびシベリアのカラマツ林で、タワーを用いて微気象学的方法によりCO2フラックスを連続観測し、人間による、あるいは自然の環境変動が森林のCO2吸収量に与える影響を明らかにしたいと考えています。北海道では間伐などの森林管理、インドネシアではエルニーニョ現象にともなう気候変化や泥炭火災、またシベリアでは森林伐採や森林火災、が主な対象です。ここでは、例として熱帯泥炭林における2001年12月〜2002年12月の観測結果をに示します。2002年にはエルニーニョ現象が起きたため、乾季の降水量が減少し、雨季の始まりが遅れました。その結果、農地の除草などのための野焼きや失火が拡大し、この地域では8月中旬〜10月下旬に大規模な火災が発生しました。火災が始まるまでは、この森林の光合成量と呼吸量は同程度(右図)で、正味のCO2吸収量はほぼゼロ(左図)でした。ところが火災が始まると、大量の煙によって太陽光が遮られたため光合成量が大きく減少し、CO2吸収量が負、すなわちCO2の放出源に変わりました。幸いにしてこの森林は燃えませんでしたが、燃えてしまえば、当然燃焼にともなって大量のCO2を放出することになります。このように、大規模火災が発生すると、たとえ燃えなくても、このような森林はCO2の放出源になることがわかりました。インドネシアでは、今年から火災後の泥炭地でのCO2フラックスや、泥炭土壌からのCO2放出量の連続観測も行います。データから何が出てくるか、楽しみです。


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