特集 アジアに広がり花開く北大のフィールド科学

海鳥をプラットフォームとして海洋生態系変動を探る

水産科学研究科 助教授


綿貫 豊
Watanuki Yutaka

       海氷と南極海生態系
 海水はマイナス2度で氷る。そのため、冬に極夜となる南極大陸の周辺の海は冷され続け、海氷に被われる。海氷の分布は気温と密接に関係し、白夜となって気温が上昇する夏に海氷は後退する。南極海の海氷面積が近年減り続けていることが、衛星画像や海氷の縁で行われる捕鯨位置の長期データの解析によって判明した。地球温暖化傾向がその原因だろうと考えられている。この海氷の後退が南極海生態系を大きく変え、海鳥やクジラの生活にも大きな影響を与えることがわかってきた。

       海氷とオキアミ資源
 地球上でもっとも生物量の大きい種は、ナンキョクオキアミであり、10〜20億トンにも達する。我が国は年間6〜7万トンを漁獲しており、ソーセージやカマボコの原料に利用している。年間400万トン程度は漁獲できるだろうとされ、世界的にも重要なタンパク資源として注目される。ナンキョクオキアミの餌は、植物プランクトンの1種であるケイソウ類、とくに海氷の下面やその周辺を生活の場とするケイソウ類(アイスアルジ)である。海氷面積の減少によって、アイスアルジの分布域が減少し、ナンキョクオキアミの再生産量が減ると考えられている。

       高次捕食者への影響
 クジラやペンギンなどの餌のほとんどはナンキョクオキアミである。そのため、海氷の減少がアデリーペンギンの生活にどう影響するのか、といった研究が続けられている(写真)。南極半島周辺では、海氷の減少がケイソウ類の現存量ひいてはオキアミ資源の減少をもたらし、アデリーペンギンの繁殖成績や個体数が減少している。一方、相対的に海氷の多いロス海や昭和基地のあるリュツオホルム湾では、海氷が減ることによってアデリーペンギンが採食しやすくなり、今のところ個体数が増えている。ただし、これらの地域でもさらに海氷分布が減少すると餌であるオキアミ資源に負の効果をもたらすと考えられる。

       海中での海鳥の行動を記録する
 われわれは、海氷やオキアミ資源の変動がどのような仕組みでペンギンの繁殖に作用するのか、ペンギンの餌や海中での採食行動を分析することで明らかにしている。今まで海中を自由に動き回る海鳥の行動研究は困難であったが、海鳥の背中にデータロガーを装着して、野外における行動や経験水温などを詳細に記録することが可能となった(参照)。海鳥は3次元的に広く海洋を利用するため、海洋環境変動のよいモニターとなる。ここ10年、われわれはこの先端技術を使って海鳥自身を観測プラットフォームとすることで、観測困難な海氷下などの環境情報や餌生物の分布を探るというアイデアを発展させてきた。さらに、海洋生物群集変動とのかかわりを、21世紀COEプログラム「新・自然史科学創成」(岡田リーダー)の枠内で明らかにしようと考えている。

       海鳥をモニターして海洋生態系変動を予測する
 人間とクジラ・海鳥類がオキアミ資源をとりあっていることに配慮しながら、オキアミの漁業管理が行われている。ここで紹介した最近の研究は、地球温暖化による海氷の減少も考慮すべきことを示している。衛星画像は、海氷分布や植物プランクトンの量や最近は質の変動まで教えてくれるが、これだけで高次捕食者を含めた生態系変動をとらえるのは難しい。海氷域に調査船を送るのは莫大な予算を必要とする。一方、海鳥の餌や海中の行動をモニターするのは極めて容易である。海氷やオキアミ資源の変動が海鳥の繁殖成績を決めるメカニズムによって解れば、例えばペンギンを長期的にモニターすることによって海洋生態系の変動を予測できるだろう。


広報誌のページへ

北海道大学のホームページへ

目次に戻る