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物質の持つエネルギーをできるだけ効率的に利用する。これは、私たちの生活をより豊かにするために欠かせないテーマです。理学研究院の村越敬さんは、光と物質の相互作用に着目して、光と電子のエネルギーをやりとりする仕組みを研究しています。
そのような大きな問題に立ち向かい、いまだ解明されていない物質の構造やエネルギーの仕組みについて、1ミリメートルの100万分の1という、非常に小さい世界、ナノレベルで物質を研究している村越さんにお話を聞きました。
村越さんは、エネルギーの本質を追究する研究を化学の観点から行っています。「効率的なエネルギー利用を目指してさまざまな研究が行われていますが、本当の意味でエネルギー問題を解決するには、光や物質の中にある電子のエネルギーを自在に制御できるようになる必要があると思います」
そこで、村越さんが行っているのが、光と物質の相互作用を制御して、光と電子のエネルギーを自在にやりとりする仕組みを明らかにする研究です。
物質に光を当てると、物質を構成する分子や原子の中の電子が、その光をエネルギーとして吸収します。しかし、その際に吸収される光のエネルギーは実はほんのわずかで、化学反応や太陽電池では、そのごく一部しか使うことができません。村越さんは、ある金属をナノサイズにすると、光を閉じ込める性質に変化することに着目して、この現象を光エネルギーの有効利用に役立てるための研究を進めています。最近の実験で、物質とそれに結合させる金属を特定の組み合わせにすると、物質が通常とは異なる光の吸収のしかたをすることが分かりました。この発見により、これまで光を吸収できなかった物質に光を吸収させたり、吸収できなかった波長の光を吸収させたりする可能性が開けてきました。
たとえば光をエネルギーとして透明なものに吸収させたり、青い光しか吸収できなかった物質に赤い光を吸収させたりすることができるようになるかもしれません。
「この研究では、従来の常識では考えられない性質を物質が秘めている可能性を明らかにしました。この発見は、物質の組み合わせをナノレベルで制御することにより、初めて可能となりました。近年、ナノレベルでの研究により、物質やエネルギーの本質に迫った研究が行えるようになってきています。ナノレベルの研究は、物質の本質に迫る、非常に大きな可能性を秘めていると思います」
偏光ラマン計測装置を操作する長澤文嘉(ながさわふみか)さん(博士課程2年)。物質に光を当て分子・原子レベルでその反応を測定する。
偏光ラマン計測装置の一部を拡大
大量のエネルギーを消費する現代社会を支えている、重要な金属の一つに白金があります。白金は、たとえば自動車の排気ガスを浄化するための触媒として利用されていますが、希少なうえに高価なため、簡単に使用できない現状があります。
村越さんは、特殊な構造を持つナノカーボンが、白金と同じような働きを持つ可能性があることに着目し、研究を行っています。炭素なら地球上には大量にあります。これが白金と同じ役割を果たすことができれば、白金を使用できないために浪費してしまっているエネルギーを有効に使用できるようになり、環境に優しい社会へと一歩前進することができます。一般に、ナノカーボンを作るには高温や真空の環境が必要なため、大がかりな設備が必要です。しかし、最近、物質を熱したり冷やしたりせず、ビーカーと乾電池程度の道具があれば、室温での化学反応によって、このナノカーボンを作り出せることが分かってきたのです。
「この研究の重要な点は室温で簡単にこの物質を作り出せるというところです」。低コスト、低エネルギーが求められる現代社会では、いくら優れた物質でも、作るための費用やエネルギーが莫大にかかれば、どこでもだれでも使えるというわけにはいかないからです。
今後、さらに研究が進めば高価な白金の代わりに、安価なナノカーボンが産業に応用される日が来ることも、夢ではありません。
村越さんが研究をしていく上で大事にしていることは、「既存の概念に捕らわれない」ことです。もちろん、太陽電池をはじめとしたエネルギー装置について、さらに研究を進めていくことが重要なのは言うまでもありません。しかし、その一方で、物質の持つエネルギーを極限まで有効利用できる新しい現象の発見が、これからの社会には必要だと村越さんは考えています。
村越さんが目指すのは、エネルギーを自由自在に操ることです。こうしたアプローチは、人類が抱えるエネルギー問題の本質的な解決の糸口となる可能性を秘めています。
村越さんが進める「エネルギーの極限利用」
最近耳にする「ナノ」という言葉。10億分の1を表す接頭辞で、1nm(ナノメートル)は10億分の1m(メートル)です。水分子1個の大きさは0.38nmです。地球の直径を1mとすると、1nmはビー玉の大きさ程度になります。
そんな極小世界の研究によって、分子や原子のレベルで物質の性質や働きを新たに発見し、物質を分子レベルで設計できるようになりました。エレクトロニクス分野では、高密度で高性能のナノ素材を用いて装置の軽量化と小型化を図り、まったく新しい原理に基づいた装置を開発するための研究が行われています。また、体内の狙った細胞に薬を届けるナノサイズの装置「ナノマシン」を研究する生体工学など、さまざまな分野でナノレベルの研究がなされています。
ナノ素材の代表格である「ナノカーボン」は、nm単位で分子構造を設計した炭素素材。その一例であるカーボンナノチューブは、炭素が六角形の網目状に結合したシートのような物質、グラフェンが筒状になったものです。柔らかく軽いのに強靭で、電気や熱を伝えやすいこの物質は、今後の技術革新の基盤となる素材として期待されています。




