平成19年(2007年) 年頭のご挨拶

北海道大学総長 中村 睦男

 新年おめでとうございます。

 北海道大学の教育研究および管理運営に尽力されている教職員の皆さま、本学で学ぶ学生の皆さま、世界各地から本学を訪れ、研究・勉学に励んでいる外国人研究者および留学生の皆さま、そして日ごろ本学の様々な活動に多くのご支援をくださっている各方面の皆さまとともに、この新しい年を迎えられたことは誠に嬉しい限りであります。

 年頭にあたり、今本学が取り組みつつある課題と、これから取り組む必要のある課題について述べたいと思います。

 本学は、「学院・研究院」構想に沿って大学院組織を再編してきております。昨年4月には「理学院・理学研究院」、「農学院・農学研究院」、「生命科学院・先端生命科学研究院」および「薬学研究院」を発足させ、さらに今年4月より言語文化部と国際広報メディア研究科を再編して「国際広報メディア・観光学院」・「メディア・コミュニケーション研究院」を設置するとともに、教育学研究科を「教育学院・教育学研究院」に改組することにしています。また、言語文化部を廃止し、全学教育における外国語教育を実施するための組織として「外国語教育センター」を設置し、「メディア・コミュニケーション研究院」の教員は原則として全員がセンター教員を兼務することによって、全学教育における外国語教育の責任体制を明確にすることにしています。それ以前に改組されたものを含めると、本学には従来の研究科に替わる教育研究組織として、7つの学院と8つの研究院が設置され、大学院での教育と研究を担っていることになります。新たに募集されるグローバルCOEにおいても、大学は大学院での教育と研究の刷新を求められています。学問的な要請と社会的な要請に応えるために、さらなる大学院組織の見直しと再編を進めることは、今後とも最優先の課題と考えています。
 「国際広報メディア・観光学院」に新設される「観光創造専攻」は、観光学に関わる大学院として国立大学では最初のものであります。「観光創造専攻」は、観光に携わる高度専門職業人の養成を求める社会的ニーズと「これからの観光学」を創りだそうという学問的な要請が巧く合致し、核となる優れた研究者を外部から招聘するとともに、学内にあっては言語文化部と国際広報メディア研究科の全面的な協力によって設けられるものであります。新しい学問としての観光学は、文化や伝統の再発見による価値創造、環境と持続可能性の重視、さらにメディア・コミュニケーションの重要性をふまえて構築することを目指しております。幸い「観光創造専攻」は文部科学省より早期認可を受け、入学試験の広報活動を開始していますが、前評判も高く、多くの受験者が集まることが予想されています。昨年来、石森秀三教授を迎えて研究活動を開始している「観光学高等研究センター」とともに、大学院「観光創造専攻」が、新しい学問である観光学のセンター・オブ・エクセレンスになりますことを強く期待しております。また、大学院「観光創造専攻」の設置に当たり、寄附講座を開設してくださるJR東日本およびJR北海道のご協力に深く感謝の意を表します。

 本学の中期計画は「アイヌ民族をはじめとする北方諸民族に関する研究教育を総合的に推進する体制の構築を図る」ことを明記しており、今年4月より「アイヌ・先住民研究センター」を設置するために具体的作業を設置準備委員会で進めております。北海道大学は、1937年に設置された北方文化研究室の流れをくむ文学研究科の北方文化論講座を持つだけではなく、先住少数民族に関する歴史・人類学領域の研究、法的権利等の法学・政治学領域の研究、自然との共生などに関する環境学領域の研究などに豊富な学問的蓄積を有し、特に、アイヌ語研究、北方文化研究では我が国でも先駆的な業績を持っております。「先住民族と大学」と題する国際シンポジウムを一昨年、昨年と12月に開催しています。「アイヌ・先住民研究センター」は、北海道に立地する基幹総合大学である北海道大学に相応しい総合的・学際的なアイヌ・先住民に関する研究と教育を行う場になることを確信しております。

 観光学とアイヌ・先住民研究という新しい教育・研究領域で、本学は新しい挑戦を行うことになります。また、本学にはそれ以外の領域でも、これから花開こうとする新しい学問の芽が数多く育っています。そうした挑戦をこれからも本学は継続していかなければなりません。

 21世紀COEプログラムを継承する「グローバルCOEプログラム」が今年スタートします。本学では、「グローバルCOEプログラム検討会」を設けており、12月には第一回の会議を開いて、全学的に取り組んでいくことを確認いたしました。「グローバルCOEプログラム」については、21世紀プログラムで実績を有するものを核として再編するものに、新規のプログラムを加えて学内的な審査を経て申請します。本学は、多くの21世紀COEプログラムを獲得し、その成果は北大の学問と教育の改善に大きく寄与しております。新しいグローバルCOEプログラムでは、これまでよりさらに厳しい競争に挑まなければなりません。大学としても万全な体制で準備を進めますが、教職員の皆さまにはいっそうのチャレンジ精神でプログラム提案の作成をお願いする次第です。

 平成18年度に公募された科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション拠点形成」事業では全国で9件が採択されましたが、そのなかには本学から申請された「未来創薬・医療イノベーション拠点形成」が入ることができました。この事業は、発足したばかりの先端生命科学研究院と、長い歴史を有する医学研究科・医学部という二つの部局が、それぞれの組織の長である五十嵐靖之先端生命科学研究院長と本間研一医学研究科長の強いリーダーシップのもとで、共同研究を組織したところに特徴があります。また、産学連携で実績のある日立製作所と塩野義製薬が共同研究に協働機関として参加していることもこの事業の特徴です。このプロジェクトの実施期間は、10年ですが、3年後に絞込みがあります。生命科学の先端的な共同研究によって、「未来創薬・医療イノベーション拠点」を本学に形成するよう関係者が尽力していることに強い期待を持っております。また、北キャンパスに共同研究施設を建設することに関して、塩野義製薬と北海道大学が昨年10月に基本合意書を締結しましたことは、先端融合領域イノベーション拠点形成にいっそうの弾みをつけるものであります。タンパク質、脂質、糖鎖工学を中心とした次世代ポストゲノム研究において世界をリードする本学と、タンパク質修飾技術を用いた次世代創薬の基盤技術の開発を大きなテーマとしている塩野義製薬の双方の英知を結集して、共同研究が加速するものと考えます。

 科学技術振興調整費の平成18年度の新規事業である「女性研究者支援モデルプラン」に対して、本学が申請した「輝け、女性研究者! 活かす・育てる・支えるプラン in 北大」が採択され、本年度を含む3年の間、この事業が実施されます。この事業は、農学研究院教授の有賀早苗副理事が中心になって実施しており、女性研究者の比率を2020年に20%にすることを目標にしています。具体的な取組としては、女性研究者支援室を新設して女性研究者に対する各種の支援活動を行うと同時に、ポジティブ・アクションとして、女性教員を採用した部局には、翌年より3年間にわたって追加の人件費を付与することが特色になっております。本学の女性研究者支援プランは、北大方式として全国的にも注目されていますので、男女共同参画社会の実現という大きな目標のもとで、各部局のご協力をお願いいたします。

 大学病院につきましては、経営改善係数や診療報酬点数のマイナス改定の影響により、宮坂和男病院長はじめ関係者の経営努力にもかかわらず、ここ数年は厳しい経営状況に置かれることが予測されています。しかし、大学病院は、国民の健康や生命に直結し、地域に貢献する最大の存在ですので、全学的な財政支援が必要であると考えます。

 北海道大学の活動を内外に広く知っていただくための広報活動にも力を入れてきました。本学初の全学的海外拠点として、昨年4月に北京大学に隣接した場所に北京オフィスを開設し、5月に開所式を多くの関係者の列席のもとで盛大に行いました。北京オフィスは、中国諸大学との留学生交流、研究者交流の促進のための情報の提供と収集、北大中国同窓会活動の支援などを目的としています。中国からは最も多くの留学生を迎えていますが、さらに多くの優秀な留学生を本学に迎えることは、本学の国際交流にとっても大きな意味を持っております。北京オフィス所長には、中国法の専門家で中国との交流に豊富な実績を持っております法学研究科の鈴木賢教授にお願いしていますが、各部局でも北京オフィスを大学院の入学試験の面接などで大いに活用していただきたいものと考えております。

 国内では、今年3月下旬より、東京オフィスをJR東京駅に直結した「サピアタワー」ビルに移転します。東京オフィスは、他大学のオフィスとも隣接し、広いスペース(約185平方メートル)を持ち、交通の便も良くなりますので、首都圏における本学の人的交流や広報活動の拠点になるものと考えています。とりわけ、入試広報については、受験生向けのDVDを作成するなど、全国から優秀な学生を集める努力をしています。

 北海道大学は創基130年を期して、「北大フロンティア基金」を設置するため、昨年10月より募金を開始しています。すでに教職員の皆さんには、募金依頼が届いていることと思います。今回の基金には、寄附者の意思により具体的な使途を特定した「特定資金」という枠を設けていることと、使途を特定しない「一般資金」があります。「一般資金」に関しては、学生、留学生への支援を優先的に考えています。学業成績優秀者を対象にする新渡戸賞、研究者を目指す優秀な博士課程の女子学生を対象にする「大塚賞」などの奨学金制度を充実させることが必要ですし、さらに将来的には、大学院学生への大学独自の奨学金が世界水準の人材を育成するために不可欠であります。また、学業優秀で日本文化等に大きな関心を持つ私費外国人留学生のための「総長奨励金」も北海道大学に留学生を惹きつける魅力あるものとするためには、もっと支給者数を増やさなければなりません。募金はまだ緒についたばかりです。「北大フロンティア基金」を成功させるために、今後教職員や同窓生のご協力、ご支援をお願いすることも多いと思います。

 平成19年度予算について、一言申し上げます。心配されていた授業料標準額の値上げについては、幸い現在の中期目標計画期間中は改定が行われないことになりました。国立大学協会も、10月18日付けで文部科学大臣宛に、教育の機会均等の確保等を理由に、授業料標準額の増額に反対する緊急要請を行っていたところでした。また、本学の施設整備につきましては、環境資源バイオサイエンス研究棟改修施設整備事業(PFI事業)、人獣共通感染症リサーチセンターが平成19年度当初予算に入ったほか、平成18年度補正予算として、工学系の共用実験研究棟の改修等、文系四学部ゾーン(文学部)の改修、医学系の生命医科学ゾーンの改修、低温研研究棟改修、さらに電子科学研究所の改築が認められ、老朽化した施設の更新が大きな規模で進められます。厳しい予算の制約の下でこれらの予算獲得に当たられた教職員の皆さまのご尽力に感謝申し上げます。

 中期計画は本年度で前半の3年間は終わりますが、計画に基づく業績の評価がこれからの大きな課題になります。評価につきましては、「中期期間における教育研究の状況の評価」、いわゆる暫定評価が平成20年に行われますので、平成19年度早々には報告書の作成にかからなければなりません。また、大学情報データーベースが3月から運用が可能になります。暫定評価は部局における自己評価をベースにして行われますので、遠からず各部局において準備を進めるよう依頼することになります。

 今年5月からは、新しい佐伯浩総長のもとで北海道大学の運営はなされることになります。北海道大学は、その基本理念と長期計画に沿って、国民から負託された「知の創造」、「知の伝達」および「知の活用」という任務を、新総長の新しいリーダーシップのもとで遂行していくことになりますので、その前途を祝したいと思います。

 新しい年が希望と活力に満ちた年になりますことを心から祈念して年頭の挨拶とします。


平成19年1月4日
北海道大学総長 中 村 睦 男