平成20年(2008年) 年頭のご挨拶


北海道大学総長 佐伯 浩

 新年あけましておめでとうございます。平成20年の年頭にあたり、新年のご挨拶を申し上げます。

 平成16年4月に国立大学法人北海道大学が誕生し、4年が過ぎようとしています。運営費交付金の削減に加えて、病院の経営改善係数による負担等大学への財政面の状況は年々厳しくなってきています。国の財政が極めて厳しい状況にあることは理解できるものの、科学技術創造立国を目指し、それを実現することによってのみ、我が国の将来が約束されることを考えるならば、高等教育を含めた人材養成にこそ、政府が“選択と集中”で思い切って財政措置を行うべき時期です。米国はもとより、ヨーロッパ各国に比して高等教育予算が対GDP比で半分となっていることを考えれば、我が国の高等教育関連機関への予算増への配慮が必要だと思います。

 ご存知のように、1999年、ヨーロッパ最古の大学が存在するイタリアのボローニャにEU各国の高等教育担当者が集まり、いわゆるボローニャ宣言を出しました。2010年までに、EU各国の高等教育機関が統一した教育レベルとシステムを有し、強い連携で結ばれることを宣言し、着実に実行され、2年後には宣言が達成されることになっています。EU諸国を中心に大教育圏が形成されつつあります。一方、米国の大学は、世界の大学ランキング上位100校の半分近くを占め、完全に国際化が進められているとともに、大学財政も寄附金を中心に強固であり、一つの教育圏を造っています。ヨーロッパと北米の二つの教育圏は、中国、韓国それにインド等アジアやアフリカ等世界の国々から多くの留学生を受け入れています。そのことが、米国、カナダそれにヨーロッパ諸国の大学の力の強化に大きく寄与していて、大学の教育力、研究推進力の原動力になっているといっても過言ではありません。我が国の大学においても、大学自身が国際化し、日本の学生が諸外国からの留学生と切磋琢磨し、競争的環境と同時に国際感覚を身につけることができることは望ましい環境と言えるでしょう。昨年11月東京で第5回日中学長会議が開催されましたが、その時の話題も最終的には日中の大学で学位についての統一的な基準作りが必要であるという結論になりましたし、両国が世界標準の研究システムを構築する必要性を認識することで一致しました。

 現在、我が国政府の諸会議、例えば教育再生会議、経済財政諮問会議、アジアゲートウェイ戦略会議、イノベーション25戦略会議等々で、将来の大学のあるべき姿について述べられています。

 それらの基本的な考え方は、知識基盤社会である21世紀に、我が国が順調に発展し、国際的競争に打ち勝つための条件として、優れた人材の育成、社会において指導的役割を果たすリーダーとなる人材育成とイノベーションを生み出す世界トップレベルの教育研究拠点としての大学、大学院の創成を挙げており、新時代にふさわしい大学、大学院への改革を求めると同時に、全ての大学にそれを求めるのではなく、大学自身が機能別に分化し、それぞれに特色を出していくべきとしています。当然のことながら、本学は、大学院重点化された大学であり、世界的教育研究拠点を目指した大学を指向すべく今後もさらなる努力を続けていくべきです。

 さて、教育再生会議においては、大学の今すぐ取り組むべき課題として、「大学教育の質の保証」「国際化・多様化を通じ、世界から優秀な学生が集まる大学」「世界トップレベルの教育水準を目指す大学院教育の改革」「時代や社会の要請に応える国立大学の更なる改革」等が挙げられています。これらの課題については、他の政府の諸会議においても同様な提言がなされています。しかし、国内的には18歳人口の減少による大学全入時代となっていること、我が国はもとより、国際的な大学間の競争が激しくなっていること、そして大学の国際化が避けられない現実となっていることを考えると、政府の諸会議が大学に期待する課題や提言は、かなりの部分で我々にとっても解決を急がねばならない重要な課題となっていたものです。「大学教育の質の保証」については、すでに単位の実質化、厳密な成績評価等が全学教育で実施されていますし、工学系の学科のいくつかはJABEE(日本技術者教育認定機構)の認定を受けるなど、大学として鋭意努力しています。

 また、大学の国際化については、これから更なる努力が必要です。寮や奨学金制度の充実によって優秀な留学生を集める努力も必要ですし、留学生の入試制度についても抜本的な改革が必要となります。さらに、入学した後は英語による講義等で単位を充足できるように英語による授業の拡充も必要です。当然、在学中に日本語、日本文化の教育を受けるようなシステム作りも必要で、課題は山積みです。我々は現在の北大に安住することなく、更なる改革に向けての努力が必要です。

 本年度は次期中期目標・中期計画を策定せねばなりませんが、以上述べました大学を取り巻く社会状況と国際的な動きの中で、我々は次の中期目標・中期計画の策定に当たっては、本学の教育研究の理念である「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」とそれに「実学の重視」を国際化の観点から具現した「世界水準の人材育成システムの確立」「世界に開かれた大学の実現」「世界水準の知の創造と活用」とともに、本学の財政基盤をより確実にするために「大学経営の基盤強化」といったことを基本目標とすべきと考えています。

 さらに、今年の7月に北海道洞爺湖で、主要国首脳会議(G8サミット)が開催されますが、この会議では、2009年までの合意を目指して、ポスト京都議定書のあり方についての深い議論が期待されています。本学では昨年の9月から30以上の環境関連分野のシンポジウムやワークショップを継続的に開催していて、「持続可能な社会づくりに向けた研究・教育推進キャンペーン」とも呼ぶべき「Sustainability Research and Education Promotion Marathon」を実施中であります。特にG8サミットの直前にあたる本年6月下旬から7月上旬までの2週間を、この取り組みの強化期間として“Sustainability Weeks 2008−G8サミットラウンド−”と名付け、関連行事を集中して実施し、持続可能な社会の実現を目指して、本学の有する膨大な知見を公開するとともに、研究や教育に携わる世界の人々へ、叡智を結集する機会を提供することになっています。多くの教職員、学生諸君の参加を期待しますとともに、本学の名を世界に知っていただく機会とも考えています。

 また、6月29日から7月1日の3日間、札幌に主要国の学長が集まるG8大学サミット(The G8 University Summit)が開催されます。前述したように、G8サミットでは、地球環境問題についての議論がされることになっていますが、そのような国際的課題の検討には学術分野からの貢献が不可欠であり、先進的な研究型大学が果たすべき役割は極めて大きいと思われます。本会議の趣意書にも述べられているように持続可能な地球の実現のためには既存の専門分野を横断して学術界が個々の学術成果とそれらの知の統合化に向けた努力をする必要があります。そのため、世界の研究型大学が連携して、この問題に挑戦する新たな枠組みを形成することが求められていて、この会議でそれらを議論することになっています。日本を除く他の7ケ国からは各国2大学の学長、それに中国、韓国、インド、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、国連大学それに我が国の主要大学の学長、総勢36大学の学長による会議となる予定です。ホストは本学で、実行委員長は私が務めることになっています。このため、特別チームとしてG8大学サミット及びサステナビリティ・ウィーク準備事務室を昨年暮れに立ち上げ、すでに作業が始まっているところです。関連する部局の先生方と事務の方々には約半年の間、多忙となることが予想されますが、ご協力の程、よろしくお願い致します。

 私は昨年5月の総長就任の挨拶の中で、「21世紀を展望する時、人類が持続的発展を続けるためには、限られた資源を有効に活用するとともに、地球規模の環境の保全と、地球への負荷の軽減が必要であります。・・・高等教育を担う大学の使命は、教育と研究を通じて、真理の探求と知識を創造するとともに、上述した人類共通の課題の解決に向けて努力することと、次の世代を担う優秀な人材を養成することにあります。」と述べています。今年北海道で開催されるG8サミットやG8大学サミットには世界の目と耳が集中することになります。本学が長年にわたって培ってきた、Sustainabilityや地球環境に係わる研究成果を世界の人に知ってもらう良い機会でもありますし、本学学生諸君がそれらの学問領域へ目を開いてもらう良い機会でもあります。準備の期間はそれ程ありませんが、各部局の活発な対応をお願いしたいと思いますし、大学としても積極的にリードしていきたいと考えています。

 さて、今年は、本中期目標中期計画に対する暫定評価を受ける年でもあります。法人化後4年間の評価を受けることになるわけです。各部局、事務局ともに多忙な年になりそうです。評価結果は次期中期目標期間の運営費交付金にも影響を受けることになりますので、遺漏なきよう細心の注意を払っていただきたいと思います。

 以上述べましたように、今年は国際的な行事が多数予定されています。これから更なる国際化を目指そうとしている本学にとっては、その幕開けにふさわしい年になることを期待しています。 教職員の皆様及び学生諸君にとって、今年が良き年になることを祈念申し上げて、私の年頭の挨拶とさせていただきます。


平成20年1月4日
北海道大学総長  佐 伯  浩