平成19年度 学士学位記授与式 総長告辞


北海道大学総長 佐伯 浩
 本日、ここに平成19年度学士学位記授与式を挙行するに当たり、北海道大学を代表しまして、卒業生の皆様ならびにご列席のご家族・関係者の皆様に対して、心よりお祝い申し上げます。晴れて本学を巣立っていかれるのは2,654名で、この中には女性が757名、留学生32名が含まれています。
 ご存知のように、本学は明治9年、札幌農学校として設立され、東北帝国大学農科大学、北海道帝国大学、北海道大学、そして平成16年4月には、国立大学法人北海道大学となり、創立以来132年の歴史を刻んでまいりました。時を経、時代が大きく変化しても北海道大学の存在意義と教育研究目標それに有意な人材の育成にかける情熱と意欲は、初代教頭のウィリアム・S・クラーク先生以後いささかの変化もありません。
 4年前、本学は国立大学法人に変わる時、それまで130年の間に培われ、育まれてきた本学の教育研究の基本的な考え方を4つの基本理念として「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」そして「実学の重視」を掲げました。このような理念の下で学ばれた皆さんは、高邁な大志と、国際的な視野を持ち、幅広い教養を通して自ら考え行動できる能力を養ってきたはずであります。また、人類の生存すら危うくする、地球規模の環境問題やエネルギー問題それに食糧問題等、我々の前に立ちはだかる大きな課題の解決にも果敢に取り組む勇気と基本的な能力を培ってきたはずであります。先に述べました4つの本学の基本理念のもとに育てられた皆様の社会での活躍を期待いたします。 さて、皆さん方は企業に就職し、産業界や経済界に進まれる方、専門的知識と技術を持って医療の世界や物造りの世界へ進まれる方、あるいは大学院に進学される方など、これからそれぞれの分野での活躍が期待されていますし、皆様方それぞれが大きな期待と若干の不安を抱かれていると思います。

 私は、皆様方が社会に出るに際してこれから述べます三つのことを是非実行していただきたいと思います。
 一つは、常に学ぶ、継続的に学ぶと言うことです。今、政治、経済、科学技術等が国境を越えグローバル化が進展しています。その中で、21世紀は知識基盤型社会といわれ、最先端の科学技術や情報が国境を越え、瞬時に世界中に広まっていきます。その情報によって、人や物やお金が移動することになります。膨大な情報をいかに上手に使い、的確に判断するかが非常に重要になっています。本学での教育も現在のそのような状況に対応できる形となっています。しかしながら、社会に出て、職業人になると、その知識や技術は時代とともに変化し、その変化の速度は年々早くなっていきますし、身に付けるべき知識の量も格段に増えていきます。また、終身雇用も大きく揺らいできています。職業生活に必要な高度な知識や技術は、常に自らが更新していく努力が必要ですし、一方で知識や技術を自らの手で磨き上げていくことも必要です。多くの国家資格等が有効期間を定めたり、途中で研修を受けることを義務付けしたりしているのもこのためです。卒業後も常に学ぶ努力をしていただきたいと思います。

 二つ目は、高い倫理観を持って欲しいということです。第二次世界大戦が終わって60年以上が経ちました。経済の面からは大戦後の苦しい時代を経て、昭和30年代から約20年間経済は高度成長しました。Japan as No.1といわれた時代を過ぎると、その後は経済的バブル、続いて経済的破綻、その後の経済の低成長を経験してきました。このような経済の大きな変動の中で、今でも世界第2位の工業生産力を維持しつづけていますし、格差が拡がりつつあるとは言うものの、我々の生活の豊かさが失われたわけではありません。しかしながら、近年、国内で起こる社会的事件や経済的事件を見ると、日本の社会的な情況が大きく変わりつつあるのではないかと、不安になることがあります。乳幼児に対する痛ましい事件等をみると、日本人が家族や他人を思いやる心を失いつつあるのではないかと心配になります。食品加工・流通における不正や建物の耐震強度不足問題をみると、自由経済におけるモラルの欠如を痛感しますし、利益を上げるためには手段を選ばないといった企業倫理のカケラすら見ることのできない事例が多くあります。また政治の世界においても政治倫理にかかわる問題があり、国民から政治不信を招いています。社会を先導し、本来は国民の規範を、身を持って示す立場の人々が、私利私欲に走る現象をみる時、我々は、日本の将来に不安を持たずにはおれません。これらの問題の原因がいずれにあるかは判りかねますが、モラルの欠如や倫理観の欠如が積み重なっていくと、結果的には社会不安を引き起こし、安全・安心な社会の実現も、質の高い生活の維持も不可能となりますので、少なくとも本学を卒業される皆様方は、より高い倫理観を持って日本社会を先導するような人材に成長して欲しいものです。皆さん一人一人の小さな努力の積み重ねが将来の日本を良い方向に変える大きなエネルギーを持った潮流を造ると私は確信いたしております。これが二つ目のお願いです。

 三つ目のお願いは、サステナブルな社会構築への貢献であります。地球という一つの世界に現在60億人以上の人口を抱えていて、毎年増え続けています。その中で、気候・気象、地理的・地勢的条件、水資源やエネルギー資源といった各種資源条件が異なる多くの国が存在していますし、様々な生活環境があります。また、今述べた条件は同じでも政治的、経済的、文化的あるいは宗教的条件でも生活状況は異なっています。このように多様な場で生活している人類にとって、持続的な発展を可能にするためには、大きな課題があります。それが地球規模環境問題の解決であります。特に、近代化への過程には石炭や石油それに天然ガスに代表される化石燃料への依存が継続的に増大し、その結果、膨大な量の炭酸ガスを大気に放出してきた結果、大気の気温が上昇してきています。地球規模の気象の変化は、地球規模の環境の変化を引き起こし、その兆候は海水温の上昇、北海道では流氷の減少などとして、いろいろな地域で明らかにされています。地球から逃れることができない我々人類の生存にもかかわる大きな問題ですし、多様な文化、多様な動植物の維持も困難となります。
 このサステナブルな社会を構築するためには、一人一人の我々人間の努力、地域の人々が協力しておこなう活動、企業の努力、自治体や国がより組織的に行う政策や活動とともに、世界各国が共通の目的を持って、共同で取り組むことによってのみ、解決が可能であります。特に先進国でもある我が国の責任は極めて大きいと思います。皆さんは、卒業後、それぞれの立場で、この大きな課題解決に努力していただきたいと思います。今年は北海道の洞爺湖でG8サミットが開かれ、炭酸ガス削減対策について議論されます。また、本学がホスト校となり、世界37の大学の学長が札幌に集まり、G8大学サミットが開かれ、この課題について議論することになっています。本学においても、6月から7月にかけて、約30近い環境や持続可能な社会の実現に向けての国際シンポジウムや市民向けの公開講座を予定していますし、本学の大学院共通講義の中にも組み込んでいるところです。本学も、皆様とともに積極的に持続可能な社会構築を目指して活動していきたいと思います。これが三つ目のお願いであります。

 本日卒業式を迎えられた皆さんは、本学で身に付けた知識や能力、さらには課外活動で得た経験、さまざまな思い出、そして生涯を友とするような友人、それらは全て人生の宝物であります。これからの新しい人生を、夢と勇気と大志を持って歩んで欲しいと思いますし、また、母校である北海道大学のこと、皆さんの後輩のことも時折思い出していただきたいものです。
 最後になりますが、皆様の前途に輝かしい未来が開けていくことと、その未来を皆さん自身が切り開いてくれることを信じています。皆様の母校である北海道大学もさらなる国際化と新たな課題に積極的に挑戦していくことを約束して、告辞の結びとします


平成20年3月25日
北海道大学総長  佐 伯  浩