平成22年(2010年) 年頭のご挨拶

 新年あけましておめでとうございます。平成22年の年頭にあたり、教職員、学部生それに大学院生の皆様方に、新年の御挨拶を申し上げます。本学が法人化され、第1期の中期目標計画期間の6年を、この3月末に終えることになります。法人化を目前に控えた時期に立てた中期目標については、それを各年度計画に落とし込み、年度ごとに達成状況を確認して、目標達成に全力を挙げてまいりました。この間の皆様方の努力に心より感謝を申し上げますとともに、残された3ヶ月を活用してさらに達成度を高めたいと考えているところです。

 国立大学の法人化は、我が国の行財政改革の一環として実施されたため、国からの運営費交付金の毎年1%削減に加えて、大学病院の毎年2%の経営改善係数の導入による負担等、大学の財政面の状況は年々厳しさを増してきました。本学においても、平成21年度の運営費交付金は、平成16年度に較べて約55億円も減少していることでも状況はお判りかと思います。しかしながら、教職員数の削減や定型的な業務の外注化等による人件費の削減、物品の共同購入の拡大と競争入札の導入による物件費の削減、道内国立大学法人連合による資金の共同運用それに大型の競争的研究資金の獲得や民間企業等との共同研究・受託研究等のオーバーヘッドにより、利益余剰金である目的積立金を増やすことができました。これは、全教職員の努力と智恵によるものと、心より感謝申し上げます。

 この積立金は、国からの助成が期待できない、主として学生が利用する全天候型の体育館の新設、学生食堂の増設、主として留学生を対象とした学生寮の新築、診療用設備の更新、動物実験施設の新設、それに省エネ型の変電設備や照明設備の導入に充てられるもので、これらは将来、経費削減効果や次期中期目標達成に貢献できるものと考えています。本学が世界の教育研究の拠点としての存在を確かなものとするためにも財政基盤の強化が必要なことは言うまでもありません。

 さて、我が国高等教育機関の世界先進諸国の中での位置付けをみると、高等教育への公財政支出は、対GDP比で0.5%でOECD各国平均の1.1%に較べ半分であり、先進諸国の中で最低であり、またその伸び率は日本が唯一マイナスです。また、基礎研究費への投資についても、米国はこれから10年間で倍増することになっており、英国はこの13年間で88%の増を示していて、これからも増加傾向です。中国は、この数年、年間16〜25%の増を示しており、他の諸国も減少している国はありません。これに対し、我が国は国の財政赤字のため、ほとんど変化が無いに近い状況でした。政府は科学技術創造立国を標榜しながらも、他の先進諸国等に較べて高等教育機関への資源配分は厳しいものでした。御存知のとおり、昨年夏、政権が交代しました。平成22年度予算については、新政権になって10月15日に概算要求を改めて提出しました。その後、行政刷新会議の下に置かれた事業仕分けワーキンググループで、大学関連では運営費交付金、若手研究者育成や先導的な教育研究等を推進するための各種競争的資金、地域科学技術振興予算など、大学運営の基盤となる経費が事業仕分けの対象となり、大変厳しい結果が示されました。私と致しましても、「知の拠点」である大学の教育研究の体制が崩壊しかねないとの危機感を持ちましたし、先進諸国との差を埋めるのに如何なる方策があるか考えていました。

 このような状況を受けて、11月24日に本学を含めた7国立総合大学及び早稲田大学・慶應義塾大学の9学長による「大学の研究力と学術の未来を憂う」との共同声明の会見を実施、11月26日には国立大学協会による緊急アピール、11月27日には国公私立3団体による要望書の提出、そして12月2日には、道内の7国立大学長による「平成22年度予算編成に関する共同声明」が出され、国公私立の大学が一体となって高等教育及び基礎研究の重要性を訴えてきましたし、同時に国立大学の果たしている役割も充分説明をしてまいりました。そして個々の事業ごとに仕分けをする前に、政府として高等教育の将来の展望を明確にするとともに、基礎研究や研究者育成を含む、科学技術全般に亘っての政策立案の基本方針を明確にすることを先行実施して欲しいことと、この基本方針の策定に際しては、高等教育機関等との対話の実施も要望してまいりました。また、事業仕分けの結果に対するパブリックコメントでは、北海道大学も含めた全国の大学の若手研究者から前述した内容を含んだ意見が多く出されたようで、これも最終判断に大きな影響を与えたかもしれません。

 そして、昨年末の結果では、運営費交付金は昨年度に較べてマイナス110億円で対前年比マイナス0.9%と決まったそうです。また病院に対して第2次補正予算(設備関係)で82億円を前倒し措置済みとの事で、実質的には前年比マイナス0.24%との説明でした。また、来年度以降の運営費交付金の算定ルールは、平成23年度の概算要求までには決定される予定とのことです。またグローバルCOEプログラム等については、若手研究者等の雇用に影響を与えないように、間接経費分を削減するとのことですが、科学研究費補助金については、前年度比1.5%増となり、初めて2,000億円が確保されたようです。全教員が積極的に科学研究費補助金へ応募していただきたいですし、来年3月末をもって定年を迎えられる先生方も年金を受け取ることができる64歳までは再雇用されますので是非応募していただきたいと思います。とにかく、国立大学法人の重要性を認識してもらうことと、その存立の基盤である運営費交付金については、充分な額の措置を期待したいですし、先進諸国の大学と対等な競争環境を造ってもらいたいと思います。

 さて、本年4月からは第2期の中期目標期間に入ることになります。第1期においては国立大学法人としての組織・運営体制を整備し、教育改革や研究戦略、国際連携、施設・環境整備について中期目標をほぼ達成しつつあります。しかし、大学の基本的使命である教育や人材育成については、その公共性と社会的責任を充分認識して、教育成果の国際的適用性を確保するための取り組みの強化が必要です。また同時に、研究戦略や国際連携、施設・環境整備あるいは大学運営に関しても、世界の中の北海道大学という観点から、私どもの活動の推進が望まれます。また、本学は、大学の持つべき多くの機能のうち、歴史的背景、大学の規模、教育研究理念そして我が国の基幹総合大学としての位置付けから、特に@世界的研究・教育拠点 A高度専門職業人養成、それに B地域貢献や産学官連携それに国際交流等の社会貢献、を果たす機能を有する大学として国の内外から高く評価される大学を目指さねばなりません。以上のことから、第2期中期目標・中期計画においては、本学の教育研究理念と本学が果たすべき機能に基づき、本学の全ての活動を包括する基本目標として、1)世界水準の人材育成システムの確立、2)世界に開かれた大学の実現、3)世界水準の知の創造と活用、そして 4)大学経営の基盤強化、の4つを設定しました。

 特に、「世界水準の人材育成システムの確立」については重要で、現在、世界の高等教育界で起こっている高等教育の各種基準の統一化、それに伴う教員・学生の国境を越えたモビリティの向上といった情況を見据えるべきです。今、我々がこの取り組みを躊躇するならば、アジア圏域の優秀な留学生を集めることができなくなるだけでなく、近い将来、我が国の優秀な学生をも集めることが不可能になる恐れがあります。自国の高校生や大学生が外国の大学へ入学するといった情況は、EU諸国ではすでに起こり始めています。この新しい人材養成システムが確立され、さらに奨学金や宿泊施設の充実、加えて教員の国際公募が始まると、本学は「世界へ開かれた大学」の実現の可能性も高まることになります。私どもは、他の大学に先駆けて世界水準の人材養成システムの構築に全力投入する必要があります。また、世界に開かれた大学の実現に当っては、海外の優秀な留学生を学部段階から受け入れる必要がありますし、同時に本学の日本人学生についても積極的に海外の大学で学べるよう支援を行いたいと思っています。さらに、留学生を受け入れた先生方の負担が大きくならないよう、事務組織の改革を行うことが必要であります。「世界水準の知の創造と活用」については、研究主導型の基幹総合大学として、世界水準の研究を推進するため、本学の研究を特徴づける重点領域分野を選定し、大学として積極的に支援したいと思っていますし、新しく改編した創成研究機構を中心に、全学的な新領域・融合領域分野における学際的研究を開拓するとともに、産学連携本部を核として、産学官連携の促進と知の活用を図っていきたいと考えています。

 また、「大学経営の基盤強化」については、トップマネージメントを強化し、内外の諸課題に迅速に対処しうる体制を構築するとともに、我々が目指す世界水準の人材育成システムの確立と開かれた大学の実現にふさわしい事務組織への改組と職員の能力開発に努めます。さらに、総合的な危機管理体制やエコキャンパス化を目指した、施設マネージメント体制の確立や広報・情報戦略についても一層の強化に努めます。

 以上、本年4月からの次期中期目標・計画策定の基本的考え方を示しましたが、この目標・計画の実現のためには、北海道大学の全ての教職員・学生が本学のさらなる発展のため、心を一つにして事に当る必要があります。年頭に当たり、あらためて、今年が皆様にとって良き年になることを御祈念申し上げますとともに、本学が世界の北海道大学になる記念すべき年になることを願って、私の年頭の挨拶とさせていただきます。


平成22年1月4日
北海道大学総長  佐 伯  浩