平成21年度 学士学位記授与式 総長告辞
平成21年度学士学位記授与式を迎えられた卒業生の皆さん、おめでとうございます。また、ご列席の御家族・関係者の皆様方に対しましても、北海道大学の教職員を代表して敬意を表しますとともに、心よりお慶びを申し上げます。
北海道大学総長 佐伯 浩
本日、晴れて本学を巣立っていかれるのは、12学部合わせて2,504名です。このうち女子学生が27%で683名、留学生が15名です。留学生の皆さんにとっては、異国の地での生活は大変であったろうと思いますが、本当によく頑張り、この日を迎えることができましたことを心より嬉しく思います。
皆さんが本学に入学された4年前、あるいは6年前、北海道大学での学生生活に対して抱いていた、夢や希望あるいは期待は、実現できたでしょうか。多くの友人にめぐり会うことができた人、たくさんの本を読んだ人、充実したクラブ活動やボランティア活動などの社会貢献ができた人もいるでしょう。一方、悩んだことや辛いことを体験したり、挫折を味わった人もいたかもしれません。サブプライムローン問題に端を発した、一昨年のリーマンショックによる世界同時不況以後、我が国の経済も先の見えなくなりました。就職状況も極めて悪く、この1年、就職活動に苦労された人もいたことと思います。将来の向かうべき方向が定まらない、悩みや挫折を経験した、充実した学生生活を過ごせた、それぞれが人生です。全てにおいて順風満帆ということはありません。皆さんも御存知のように、本学の教育研究の基本理念は「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」そして「実学の重視」の4つであります。このような理念の下で学ばれた皆さんは、高邁な大志と国際的な視野を持ち、幅広い教養を通して、自ら考え行動できる能力を養ってきたはずであります。その時その時を耐えて努力し、学び続けることで、将来の道筋が見えてくるものですし、若い皆さんは将来を切り拓く力を持っているのです。
さて、卒業後の皆さんは企業に就職する人、国家公務員や地方公務員として働く人、専門的知識と技術を持って医療や物造りの世界へ進まれる人、あるいは大学院に進学される人など、それぞれの分野での活躍が期待されています。また、皆さん一人一人が大きな期待と同時に若干の不安を抱かれていると思います。
私は、皆さんが社会に出るに際してこれから述べます2つのことを是非実行して欲しいと思います。
1つは、「グローバリズムの視点を持って学ぶ」。2つ目は、「高い倫理観を持つ」ということです。
まず、「グローバリズムの視点を持って学ぶ」ことについてお話しします。現在、政治、経済、科学技術あるいはお金や情報等が国境を簡単に越え、グローバル化が進んでいます。特に知識基盤型社会と言われる現代においては、最先端の科学技術や情報が瞬時に世界中に広がります。その膨大な情報を取捨選択して上手に使い、的確に判断することが重要となっています。世界の国々の異なる文化や言語を持つ人々とも、自分の考えをもとにコミュニケーションを取る必要に迫られます。異文化や、彼らの心の内を理解し、同時に、我が国の伝統や文化を積極的に理解していこうとする、「グローバリズムの視点」を持って行動し、判断できる人に成長して欲しいのです。そのために是非とも継続的な努力をして下さい。知識や技術は時代とともに変化し陳腐化していきます。ですから、社会に出ると身につけるべき知識やスキルの量も格段に増えていきます。グローバルな視点を持って判断し、行動するためには、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の向上、読書などによる幅広い知識の継続的な修得等にひたむきな努力を積み重ねることが必要です。一生学ぶ覚悟を持って下さい。
2つ目は、「高い倫理観を持って欲しい」ということです。戦後60年以上経ちました。経済の面からは大戦後の苦しい時代を経て、オイルショックが起こるまでの約20年間、我が国の経済は高度成長しました。その後は、経済的バブル、続いて経済的破綻を経て、経済の低成長を経験してきました。このような経済の大きな変動の中で、我が国は今でも世界第2位の工業生産力を保っています。また、格差が拡がりつつあるとはいうものの生活の豊かさを完全に失ったわけではありません。しかし、近年、国内で起こる社会的事件や経済的事件等をみると、日本の社会的な状況が大きく変わりつつあるのではないかと、将来に対して不安になることがあります。勿論、我が国の財政の厳しい現実、少子高齢化社会の急激な進行、社会保障制度の未成熟さなど、我が国の行く手に明るい未来が待っている状況ではないことは明らかです。一方で日本人が家族や他人を思いやる心を失いつつあるのではないかと心配しています。また、経済的犯罪の増加をみると、自由経済におけるモラルの欠如を痛感します。利益を上げるためには手段を選ばないといった企業倫理のカケラも見ることができない事例が多くなっています。
では、政治の世界はどうでしょう。ここでも政治倫理にかかわる問題が起きており、国民の政治不信を招いています。本来であれば、社会をリードし、国民に対して、身を持って規範を示すべき立場の人々が、私利私欲に走る現象をみる時、私は日本の将来に不安を持たずにはおれません。このような状況に至った原因がいずれにあるかは明確ではありませんが、モラルの欠如や倫理観の欠如が積み重なっていくと、結果的に社会不安を引き起こし、安全・安心な社会の実現も、質の高い生活の維持も不可能となります。少なくとも、本学を卒業される皆さんは、より高い倫理観を持って日本の社会をリードするような人材に成長することを強く望みます。皆さん一人一人の小さな努力の積み重ねが、将来の日本を良い方向に変える、大きなエネルギーを持った潮流を造ると私は確信します。また、同時に、グローバリズムの視点を持って行動するためにも、健全な倫理観を持つことが重要です。
皆さんが、本学で身につけた知識や能力、さらには課外活動やボランティア活動で得た多くの経験、この美しいキャンパスや伸びやかな札幌の街での様々な思い出、そして生涯の友となるような友人、それらは全て人生の宝物であり、心の拠り所となるでしょう。
これから新しくはじまる、永い人生を夢と勇気と崇高な大志を持って歩んで下さい。そして、常に、一歩先に踏み出す勇気を持って下さい。また母校である北海道大学のこと、皆さんの後輩のことも時折思い出して欲しいものです。
最後になりますが、皆さんの前途に輝かしい未来が開けていくことと、その未来を皆さん自身が切り拓いていくことを信じています。皆さんの母校である北海道大学もさらなる国際化と新たな課題に積極的に挑戦していくことを約束して、告辞の結びといたします。
平成22年3月25日
北海道大学総長 佐 伯 浩