平成22年度 学士学位記授与式 総長告辞

 平成22年度学士学位記授与式を迎えられた卒業生の皆さん、おめでとうございます。これまで皆さんを物心両面から支え、励ましてこられたご家族や関係者の皆様に対して、心よりお礼とお祝いを申し上げます。


北海道大学総長 佐伯 浩

 晴れて本学の学士学位記を授与されて巣立っていかれるのは、12学部合わせて2,573名です。このうち、男性は1,810名、女性745名、留学生18名となっています。留学生の皆さんは言葉、文化、習慣などの壁を克服し、この卒業の日を迎えられました。その努力に対して深く敬意を表します。

 さて、最初に3月11日、午後、東北地方太平洋沖で起きた大地震と津波による、東北関東大震災で犠牲になられた方々に対し、皆さんと共に、心より哀悼の意を表したいと思います。また、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。被災地での災害復旧、並びに、原子力発電所事故への対応に身を犠牲にして努力されている方々、自衛隊員、消防士、電力関係技術者、医療関係者、地方公務員、それにボランティアの方々などに対して敬意と感謝の念を表したいと思います。
 わが国はこれまで関東大震災、伊勢湾台風、阪神・淡路大震災など多くの自然災害に見舞われてきました。また第二次世界大戦直後のわが国の大都市は焦土と化し、広島、長崎は原子爆弾の投下により、甚大な被害を受けました。しかし、国民一人一人の粘り強い努力と、家族や地域の連帯、思いやりによって困難を克服し、発展してきました。
 今、私たちは世代を超えて、大災害に強い町づくりや地域づくりを考える必要があります。更に、エネルギー、環境それに食料などを含めた我々自身の将来の生き方をあらためて考える機会になればと思います。今回の大災害に対して、海外の方々からも、心強い支援、悲しみと祈りのメッセージが寄せられています。図らずも世界は一つという思いを深める機会にもなりました。
 皆さんと同様に、社会に巣立っていくはずだった若い命の無念さに思いを寄せ、一日一日を大切に、明るい未来を切り拓いていってください。

 さて、本学は明治9年、1876年札幌農学校として設立されて以来、135年の歴史を刻んでまいりました。初代教頭のウィリアム・S・クラーク先生以来、本学はその存在意義と教育研究目標の達成、それに優秀な人材の養成に一貫して情熱を傾けてまいりました。
 7年前の法人化に際して、それまで本学で育まれてきた教育や研究に対する考え方を再検討し、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」そして「実学の重視」の四つを本学の教育研究理念として掲げることにし、今日に到っています。
 このような理念のもとで学ばれた皆さんは、高邁な大志と国際的視野を持ち、幅広い教養を通して、自ら考え行動できる能力を養ってきたはずです。
 現在、世界は大きな変化と危機の渦中にあると言えます。その中でも、3つの課題について述べたいと思います。

 1つは、持続可能な社会の構築の必要性を認識し、開発至上主義的なこれまでの社会、経済及び生活様式を変えなければならないということです。
 産業の発展に伴う化石燃料の大量消費や、森林開発と大規模森林火災の増加等が、温室効果ガスの急激な増加を引き起こし、地球の温暖化が進行しつつあることは、皆さんもよくご存知のことでしょう。
 このことは、世界の気候変化を誘発し、気象や海象に確実に影響を与え始めていて、これが、農業等の第一次産業へ影響を与えています。生物多様性を含め、さまざまな面で持続可能性が問われる状況となってきました。この課題はまさに人類にとっての課題であり、解決には長い年月を要することから、我々は低炭素社会構築のスピードを速めねばなりません。我々自身が今までの生活様式を大きく変える必要があります。
 この持続可能な社会の構築を確実なものにする努力は、若い皆さんたちに引き継がれていく大きな課題と言えるでしょう。同時に世界中の国々が協力して取り組むべき課題なのです。

2つ目の課題は、さらなる国際化への対応です。そのためグローバルな視点、多様な角度から物を見る態度を身につけてほしいと思います。
 現在、政治、経済、科学技術あるいはお金や情報等が国境を簡単に越え、グローバル化が進んでいます。最先端の科学技術や情報が、瞬時に世界中に広がります。世界のある地域で起こる事象は、そのままの形で、あるいは形を変えて世界中へ影響を及ぼします。
 皆さん方のほとんどが入学した、2007年に、米国のサブプライムローン問題の顕在化に端を発したリーマンショックにより、世界的な経済危機が起こりました。その影響で、現在の我が国経済も、厳しい状況が続いています。皆さんの就職活動も、大変であったと思います。
 さらに、今年にはいって、チュニジアに始まった民主化運動は、隣国エジプトに強い影響を与え、現在、地中海沿岸の他のアフリカ諸国や、ペルシャ湾岸の石油産出国へもその影響が波及し、世界のエネルギーの安定供給にも大きな影響が出て、価格の高騰も起こっています。
 日本の企業においても、ここ北海道大学においても、多くの外国人が働き、また学んでいます。国境を越えてのモビリティが高まっていて、我が国においても、あらゆる面でグローバル化が確実に進展しています。
 皆さんは、世界中から集まる膨大な情報を取捨選択して上手に使い、適確に判断することが重要です。また、異なった文化や、言語を持つ人々とコミュニケーションを取る必要に迫られることもあります。
 グローバルな視点を持って判断し、行動するためには、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力の向上のために、地道な努力を積み重ねることが重要です。一生学ぶ覚悟が必要なのです。

 3つ目の課題は、我が国の人口問題です。いわゆる少子高齢化が急速に進むことによる、大きな社会問題の発現でありそれは国家的課題であります。皆さんが生まれた1980年代末の、我が国の65歳以上の高齢者は全人口の10%程度でしたが、現在は20%を越え、世界一の高齢者大国となっています。そして、2年後には、おおよそ25%となり、40年後、皆さんが高齢者の年齢に近づく頃には、65歳以上の方が40%を越えると予想されています。
 高齢化のスピードも異例の速さですが、皆さん方は将来、逆ピラミッドに近い型の人口構成の中で生き、生活することになります。人口や人口構成は、社会や経済の基礎をなすものであり、それが通常と大きく異なることは、大変動の時代の到来を予感させます。今までの延長線上での価値判断は、意味のないものとなる可能性があります。皆さん自身が、新たな人口構成に適合した、新しい価値判断基準の創出をせねばなりません。
 また、新たな視点と基準に基づき、社会保障等の課題を解決する能力が問われることになります。この人口問題は、我が国の活力の低下に繋がりかねない課題でもあります。皆さんから、賢明で合理的な解決策が出てくることを期待します。
 今まで述べた3つの課題は、我が国にとっても、また皆さんの将来にとっても重要な課題であります。常にこれらの課題の解決策について、真剣に考え行動につなげていただきたいと思います。

 さて、昨年の暮れ、本学にとって、喜ばしいニュースが届きました。
 本学理学部を卒業され、長年、工学部の教授を務められた、鈴木 章名誉教授が、栄えあるノーベル化学賞を受賞されました。本学の学生、院生、それに若手研究者に大きな夢を与えてくれましたし、私ども教職員一同にとっても大きな慶びでした。
 また、本学で学び、母国に帰国している留学生からも、「北海道大学で学んだことを誇りに思う。」とのメールを多数いただきました。
 鈴木先生は、日本の将来を担う若者に対して、「夢や希望は、人から与えられるのではなく、自分で考えるもの。興味を持った課題にとことん突き進んでほしい。」と述べていらっしゃいます。また、先生の座右の銘は「精進、努力」と聞いております。
 前に述べた、我が国の将来を方向づけるような、3つの大きな課題の解決は、皆さん自身の夢や希望を叶えるためにも、大変重要なのです。
 課題解決に向けて、皆さん方それぞれの考え方に基づいた、粘り強い努力によってのみ解決できることを、鈴木先生は示唆しているのです。

 皆さん、どうか、夢と勇気と高い倫理観を持って歩んで下さい。そして、日本一美しいキャンパスを持つ、北海道大学のこと、皆さんの後輩のことも、時折、思い出してください。
 皆さんの前途に輝かしい未来が拓けていくことを念じ、その未来を皆さん自身の知恵と努力で、切り拓いてくれることを信じています。
 皆さんの母校である北海道大学も、さらなる国際化と新たな課題の克服に果敢に挑戦していくことを約束して、告辞の結びとします。



平成23年3月24日
北海道大学総長  佐 伯  浩