平成23年度入学式 総長告辞

 新入生の皆さん、北海道大学へのご入学おめでとうございます。
 北海道大学の全教職員を代表して、皆さんの入学を心より歓迎いたします。
 また、今日まで皆さんの勉学と生活を支え、この入学式にお見えいただいております、新入生のご家族並びに関係者の皆様に対して、心よりお慶びを申し上げます。今後ともお子さん方を温かく見守り、励ましてくださいますようお願い申し上げます。
 今年の本学への入学者は2,606名で、そのうち男子学生1,827名、女子学生779名であります。また留学生13名、帰国子女7名が含まれています。
 北海道内の出身者が1,203名、道外出身者が1,403名となっていて、道外出身者が200名多くなっています。

 さて、ここで3月11日、午後、東北地方太平洋沖で起きた、マグニチュード9.0の大地震と大津波による、東日本大震災で犠牲になられた方々に対し、皆さんと共に、心より哀悼の意を表したいと思います。また、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。 
 誠に残念なことですが、本学経済学部の3年生が1名、行方不明となっています。無事であることを祈っています。
 被災地での災害復旧、並びに、原子力発電所事故への対応に身を犠牲にして努力されている方々、自衛隊員、消防士、電力関係技術者、医療関係者、地方公務員、それにボランティアの方々などに対して敬意と感謝の念を表したいと思います。
また、海外の方々からも、心強い支援、悲しみと祈りのメッセージが寄せられており、図らずも世界は一つという思いを深める機会にもなりました。

 皆さんと同様に、大学へ入学する予定だった若い方々も多数亡くなっておられます。彼等の無念さに思いを寄せ、みなさんそれぞれにできることを考え、行動してください。

 我が国はこれまで関東大震災、伊勢湾台風、阪神・淡路大震災など多くの自然災害に見舞われてきました。また第二次世界大戦直後のわが国の大都市は焦土と化し、広島、長崎は原子爆弾の投下により、甚大な被害を受けました。しかし、国民一人一人の粘り強い努力と、家族や地域の連帯、思いやりによって困難を克服し、発展してきました。
 今、私たちは世代を超えて、大災害に強い町づくりや地域づくりを考える必要があります。更に、エネルギー、環境それに食料などを含めた我々自身の将来の生き方をあらためて考える機会にしたいと思います。

 ここで、北海道大学の概要を簡単に述べたいと思います。本学は、1876年、明治9年、日本で最初に学士の学位を出した札幌農学校に始まりました。その後、東北帝国大学農科大学、北海道帝国大学、北海道大学、そして2004年4月、現在の国立大学法人北海道大学となり、創立以来135年の歴史を積み重ねてきました。
本学は、学士課程12学部、大学院は18の研究科、学院等を有する、我が国の基幹総合大学に成長してきました。
 この間、多くの優れた研究成果を生み出すとともに、社会に貢献する有為な人材を養成してきました。7年前、本学が法人化されるに際し、本学の教育研究の理念として、「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」それに「実学の重視」の4つを掲げました。
 これは、本学創立時の教頭であったウィリアム・S・クラーク博士以来、およそ130年の本学の歴史の中で培ってきた、教育や研究に対する基本姿勢をもとに決定したものであります。本学はこれら4つの理念に基づき、皆さんを、我が国のみならず、これからの世界を、勇気を持ってリードしていくような、国際性豊かで、人格に優れ、「高邁な大志」と「高い倫理観」を持った人材に育てることを意図しています。

 21世紀は知識基盤社会といわれており、各国共に高等教育の重要性を認識しています。北米を中心とする教育圏と共に、この10年かけてEU諸国を中心に新たな教育圏が構築されました。EU諸国の高校生は自国の大学だけではなく、EU域内の大学を自由に選ぶことができますし、国を超えての大学間の移動も可能となりつつあります。
 そのため、大学では、英語での講義の導入が積極的に進められています。
 英語を母国語とする英国やアイルランドには、他国からの学生が集まり始めていて、国境を越えての大学間の競争が激しくなっています。アジアにおいては、日本、中国、それに韓国を含めた東アジア教育圏の構築が急務となっています。本学もアジアのリーディング・ユニバーシティを目指して努力していく所存であります。それが国際的評価を高めることにつながります。 本学では、「国際標準の人材育成システムの構築」と「世界に開かれた大学を目指す」の2つを最重要目標としています。皆さん方は、世界の高等教育の現状をよく認識して、これから述べることを心がけてください。

 第一に、グローバルな視点でものを見、考え、行動するため、英語によるコミュニケーション能力を身につけることです。
 大学の国際化では、まず、「質の保証」の観点から、講義内容の質とレベルの向上が重要となります。学生諸君にとっては、講義の理解を確実にすると同時に、内容に関連した幅広い知識を自らが獲得していく努力と、国際化に備えた異文化理解が必要です。特に理系の大学院では、英語による講義も増えています。本学の卒業生に対して行った大規模なアンケート調査において、「社会人となって、最も反省することは?」との問いに対して、文系・理系にかかわらず、在学中に、英語によるコミュニケーション能力の向上に努力すべきであったと答えています。社会の国際化の進展に対しては、国際化に向けての皆さん自身による努力が必要です。語学習得に近道はありません。「自学自習」による地道な努力を続けてください。
 本学理学部を卒業され、永年、工学部に勤務されていた、鈴木章名誉教授が、昨年暮れ、ノーベル化学賞を授与されました。本学の学生、教職員にとって、本当に嬉しいニュースでした。
 本学の1、2年生を対象に、鈴木先生のノーベル賞記念講演を1月に行った際、学生から「外国へ留学することについてどう思うか。」との質問がありました。それに対して鈴木先生は、「日本のような同質性の高い国では、以心伝心で理解し合えるが、米国のような多民族の国では、討論や議論で自分の意見をしっかり述べ合うことで理解し合えることになる。そのため語学力が極めて重要である。」と答えられました。さらに、「ドイツやフランスその他のヨーロッパの国々に行っても、英語能力があれば、それほど不便ではない。」とも語られ、鈴木先生自身も学生時代にもっと英会話能力を高めておけばよかったとおっしゃっていました。外国語によるコミュニケーション能力の強化は、国際化への第一歩です。
 現在、本学では1,400名を越える留学生が学んでいます。折をみて、留学生諸君と交流し、異文化理解と外国語能力の向上に努力することも良いと思います。本学では、海外の協定大学への短期留学を積極的に支援しています。そのためには、一定レベルの外国語能力が必要です。皆さんもぜひ挑戦し、世界へ向けて羽ばたいて欲しいと思います。それが、我が国の将来にとっても極めて重要なことなのです。

 もう一つお願いがあります。人類共通の課題である地球温暖化問題などに真剣に取り組んでほしいということです。

 皆さんは、「持続可能な開発 Sustainability Development」という言葉をご存知でしょうか?
 現在、人類共通の課題として、地球温暖化問題があります。特に、産業革命以降の化石燃料依存の産業・経済の発展が原因とされています。
 それにより化石燃料の枯渇と、温暖化に伴う気候変動による水や食料の不足など、人類がこれから持続的に生存できるかどうかが大きな課題となっています。
 本学では2005年以降、「持続可能な開発」国際戦略本部を設置し、Sustainabilityに関して、海外大学等との教育研究のネットワーク形成、人材育成を通じた国際協力、国際シンポジウム開催等を実施し、低炭素社会の構築に向けた努力を積極的に行ってきました。
 2008年には、「サステイナビリティ学教育研究センター」を開設し、持続可能な開発に向けての分野横断的な教育プログラムの開発と、大学院共通講義を実施しています。また、同じ2008年、先進8ヶ国首脳会議、いわゆるG8サミットが洞爺湖で開催された折、初めてのG8大学サミットを札幌で開催しました。本学はその実行委員会の中心的役割を果たし、世界の主要大学が、人類のSustainability Developmentに貢献していくことに関した宣言を発表、それ以来、毎年、世界各地でその会議が実施されています。この地球規模の課題は、若い皆さん一人一人が、非常に重要な課題として受け止めるべきであります。皆さんが入学して最初に学ぶ全学教育科目の中にも、数多くの“環境”や“Sustainability”に関連する科目があります。
 さらに本学には、研究林6ヶ所、臨海・臨湖実験所等6ヶ所、牧場、それに水産科学研究院が二隻の船舶を有していて、フィールド環境科学の研究体制も全国一整っており、フィールド体験型の授業科目もあります。大学としても、積極的に人類の持続可能な開発に寄与しているところです。しかし、この人類共通の課題を解決するためには、皆さん一人一人の努力、企業や大学等組織体としての努力、そして、国や自治体の政策に沿った活動が一体となって機能することが欠かせません。さらに、世界の国々が協力してこそ、解決が促進されます。皆さんは、その大きな課題の解決に向けて、一生をかけて努力してください。そしてそのリーダーシップをとれる人になってくれることを願っています。大学も全力を挙げて、低炭素社会の実現と、森の再生に向けて持続的に努力していきます。

 本日、入学した皆さんには、いろいろやりたいことがあると思いますが、今年度から新たに導入された総合入試の利点を活かして、ぜひ他の学部の学生との交流をしてください。先輩・後輩との交流を深められる課外活動も、非常に重要です。皆さん自身がやりたいこと、学生としてやらねばならないことは数多くあります。これは、皆さん自身が、時間をいかにうまく配分するかにかかっています。充実した学生生活が送れることを願っています。
 本学は、創立以来、大学をあげて人材の育成に取り組み、有為な人材を社会に送り出してきました。皆さんが充実した学生生活を送ることができるよう、教育研究環境の整備、学生支援活動のさらなる充実、加えて大学キャンパスの環境整備に向けて力を入れていく所存であります。

 この伝統ある北海道大学に入学された皆さんが、卒業される時、多くのかけがえのない友人に恵まれていること、社会で必要とされる幅広い教養と専門的知識、加えて豊かな発想力と他を思いやる心を持って、未来に挑戦し、活躍されることを祈念申し上げます。

 最後に、あらためて申し上げます。
 我が国の災害史上類を見ない、この度の震災と原子力発電所の事故は、厳しい経済、社会状況にさらなる大きな負荷をかけることになるのはまちがいありません。日本の将来に我々の夢を託せるよう、若い皆さんを含めた全ての国民の力を結集して、この難局克服に向かって努力することを誓い、入学式の告辞を結びます。

平成23年4月8日
北海道大学総長  佐 伯  浩