本授業の内容は,自由民主主義思想を中心に,歴史上および現代の政治理論の基本的議論を紹介することを中心とするものである。具体的には,近代社会の特徴,近代の主たる政治思想の潮流,自由民主主義の思想の意義,現代の諸問題と論争について基本的な知識の習得をめざすとともに,これらの議論を行うために必要な政治学上の基本概念及び理論を習得することをめざしている。その内容としては,はじめに古代,中世と比較した際の近代の社会・政治の特徴を説明したうえで,近代の諸思想(保守主義,共和主義,絶対主義)と対比しつつ,自由民主主義の特徴を明らかにする。またこれらの思想が初期近代から,現代に至るまでの変容の過程を概観する。さらに,現代の諸問題をめぐって存在する論争を,(1)経済制度および(2)共同体・公共性をめぐる問題に分類整理する。(1)に関しては,市場と国家の役割を論じる際に必要な諸観点について解説する。(2)に関しては,国家の中立性,多文化主義,ナショナリズム,政治参加をめぐる基本的論点を概観するものである。成績評価は定期試験によって行っている。
上述のような授業の性格上,法学部内はもちろん,他学部からの聴講者が相当数存在するのが,本授業の大きな特徴である。このように,受講者の性格が多様であることにくわえ,政治学に関する抽象的概念の学習が大きな比重を占めることから,その場で直ちに理解することを困難に感じる聴講者も少なくないと考えている。また,この科目においては,スタンダードな教科書が存在せず,特定のテキストに依拠することができないという事情もある。こうした点に鑑みて,受講者の理解が容易になるようにつとめている。
最大の特徴は,板書の多用であり,理解が不十分な者でも後で授業内容を再現できるように,重要なポイントをすべて書き出すようにしている。また多くの学術用語を覚えさせる上でも,板書の内容をノートにとることが一定の効果を持つと認識している。また過去においてレジュメを使用したこともあったが,集中力の維持や,学習効果において十分の成果を上げることができなかったため,現行のやり方に戻した経緯がある。この授業法については,受講者からは,「ノートの量がおおくて手が疲れる」などの声も聞こえない訳ではないが,上のような事情を講義の初回に説明して,大方の理解が得られていると考える。
試験の方法に関しては,ノート持ち込み不可の通常の筆記試験を課しているが,問題配布前に,15分間だけ,当日配布する用紙に,メモを取る時間を取りこの間に,ノートにあらかじめ準備したメモを転写してもらうことにしている。この主旨は,「ど忘れ」を防ぎ,勉強の成果を発揮してもらうことにあるが,試験の勉強をしながら,講義のポイントをまとめ直すことで,学習の成果が定着することを期待している。受講者の声をきいても,おおむね評価されていると考えている。
今後の課題としては,適切な水準の模索があげられる。本授業のような性格を持つ授業においては,内容を単純化してゆけば,学生にとって「わかりやすい」授業になることは確かであり,実際,上のような事情から,本講義は,難解・複雑な議論をあえて割愛している箇所もある。しかしこのような単純化を行いすぎると,学問本来の本質である真理の追究が持つ興奮と厳しさにふれさせることが困難になり,学生に対する長期的な教育効果を低下させることが懸念される。実際,より高度な内容を求める声もある。この授業が「わかりやすい」と評価されたことも手放しで喜ぶのも不適切であると考えている。こうした事情を念頭に,講義内容の質の向上を目指してゆきたいと考えている。