4.理系部局

○農場実習II  北方生物圏フィールド科学センター・教授・由田 宏一

農学部の学生に農場が責任をもって行う実習に農場実習Iと農場実習IIとがある。実習Iが複数学科の多数の学生に作物,家畜,製造,機械など農業生産現場を幅広く体験させる内容をもつのに対し,実習IIは生物資源科学科の主に植物を扱う分野の3年生(30人弱)が選択で履修する作物栽培専門実習である。要は自分の手で作物を育て,収穫し,食べるのである。簡単なようだが,実は決してそうではない。作物を成功裏に育て上げるためには,さまざまな分野の知識を必要とし,これらを関連づけて体系化し,実際に応用しなければならない。実社会に出ればこうした能力が即求められるはずである。

授業は個人毎に1作物を選び,栽培計画を立てるところから始まる(畑の面積は一人約12m2)。学生のほとんどが小学校で朝顔を育てた程度の経験しかもたないため,例えばトマトを栽培するにしても,品種の選択はもとより植え方や肥料の与え方など最初は見当もつかない。一般論は役に立たず,ことはきわめて具体性を要する。そこで,数種作物について北海道の標準栽培法を記した独自のテキスト(技術職員が作成する)を用意し,また種子カタログや各種参考書を備えて立案を助ける。また,8〜9人程度の班を編成し,作物が偏らないようにすると同時に共同作業を促す。学生は懸命に調べ,討論し,アドバイスを受け,班としての栽培計画を立てる。3回の授業日をあて,収穫へ向かって次第にイメージアップしていくこの過程を私は最も重視しており,最終的に,作物名,品種名,播種法,栽植密度,施肥量,病虫害対策,作業日程等を書いた栽培計画表を各自提出させる。

5月初めに堆肥散布,酸度矯正,整地,区画,播種(苗)床作りなど畑の準備を始める。大型の機械力を必要とする反転耕起を除き,作業のすべてを学生が行う。続いて種を播き(苗を植え付け),作業計画に基づいて栽培管理するのだが,天気は気まぐれに変わり,病気,害虫,雑草に悩まされ,思うように育ってくれない。必死に観察し原因を探って対策を施す。毎日のように畑に来る学生もいる。中には工夫のあまり返って逆効果になることもあるが,それもまた経験のひとつである。こうして,作物の生育が環境に支配されるだけでなく人が介助してこそ全うすることを実地に学ぶ。汗して収穫物を手にしたときの笑顔。それを見る側の顔も自然にほころぶ。

収穫が前学期内に終わらないことが多い。幸い,この授業は夏休み開始直後に行う5日間の夏期実習(余市果樹園での1泊研修,農家見学,トラクタ運転実習など)とセットになっているのである程度カバーできるが,終了時期にはいつも悩まされる。雨天時の対応も考えておかなければならず,時にはビデオ(食料品の安全問題など)を見せることもある。期間中,種子,肥料,農薬,雑草,農機具などに関する講義を適宜行うが,農場の技術職員にも意識的に担当してもらっている。また,農場の教員はもとより,農学部の作物生理学や植物病理学の教員にも依頼して,畑で生育診断を行う。このように,学生がさまざまな分野の専門家と直接話を交わすことができるのも本授業の特徴である。

出席率は常に95%以上である。この授業が学生の評価を得たとすれば,計画を立てて作物を育て,収穫し,そして味わう喜びを自らの努力で得た,その達成感に基づくであろう。教える側はそれを支援したにすぎない。ただ,この実習で行う内容は,規模の違いこそあれ実際の作物生産過程と基本的に同じであり,農業や食料をめぐるさまざまな問題を自らの体験を通して身近に考える格好の場を提供しているという,自負と満足感はある。


top先頭へ戻る