理学部生物学科の3年目学生には臨海実習としてI−IVの臨海実習が用意されている。このうちII及びIV(海藻学実習)は海藻類を材料とした実習である。北海道大学における宮部金吾,山田幸男からはじまる海藻研究の歴史は古く,またその学問水準もトップクラスである。生物学を学ぶ上でまずフィールドにおいて生き物をそのままの状態で観察することは基本中の基本である。また,明治以降,近代科学を目指した日本における生物学の進展を見た時,それぞれの大学の臨海実験所が果たしてきた役割ははかり知れない。そういったことからも大学における臨海教育は大きな意味を持っている。
海藻学実習は北方生物圏フィールド科学センター室蘭臨海実験所での3泊4日の泊まり込みの実習である。その直前まで海藻分類学を主体とする臨海実習IIがあるため,本実験所が主体となる海藻学実習では海藻類の細胞観察,発生学を中心に実習を行っている。幸い実習時期は長年多くの研究者から発生実験に使われてきた褐藻ヒバマタの成熟時期にあたるため,ヒバマタを主たる材料として実習を進めている。まずフィールドでの材料採集から始まり,卵と精子の受精,核融合,核分裂,形態変化について顕微鏡観察を行う。この時,単なる観察だけではなく,種々の蛍光色素による核染色,蛍光抗体法による微小管染色を行い,その原理を説明するとともに,学生達が日頃教科書から学んで来た動物あるいは陸上植物の細胞骨格系と海洋において適応し進化してきた海藻類のそれらがどの様に異なるのかを比較し理解してもらう。さらに実験には種々の阻害剤処理,光照射方向の変化などの実験を組み込んでいる。実習参加者は通常15名以下としているので,4つの班に分けて実験を進めていけるようにしている。透過型電子顕微鏡観察も組み込み,それぞれの班が順番に光学・蛍光・電子顕微鏡観察が行え,実際にサンプルの写真を撮影してもらうようにして,実験の空き時間をなるべくもうけないように工夫している。また,試料作製も学生達が行っても常にうまく観察できる材料と時期を選び,細胞の持つ美しさを体験し達成感が感じられるように工夫している。学生達は電子顕微鏡に触れるのは初めての場合が多く,ミトコンドリアや葉緑体はおろか核もどれかが解らない状態である。そこで,できるだけ美しく固定したサンプルを観察させ,写真撮影と印画紙焼付けを体験させ,その写真から読み取れる情報を対話によって理解してもらうように努力している。各班にはコンピュータを用意し,最終日に行う結果報告のためのプレゼンテーションの準備をさせる。そして,実験結果を持ち寄って実習における一つ一つの問題提起から導き出される解釈を皆の前で発表するように指導している。3年目の生物学科の学生達にとっては自分達の実験に使う材料を直接フィールドから採集してくること,今までの授業で習った基礎知識をもとに種々の実験結果からその解釈を作り上げプレゼンテーションを用意することはとても新鮮に写るようである。このことは実習後の感想やアンケート結果にもはっきり示されている。
最後に,今回の授業が参加学生達から高い評価を得た大きな理由の一つは実習期間中に学生達が快適に過ごすことができたこと,そして実習期間中の美味しい食事のためであると考えている。都会の札幌キャンパスから遠く離れた地方施設で行う臨海実習は学生にとっては同じ釜の飯を食っての実習であるので,大学時代の大きな思いでの一つとなるが,それを受け入れる側の目に見えない労力は大きい。臨海実験所の教員のみならず,非常勤職員,大学院生諸君が実習の手伝いだけではなく,学生のための食事の世話等をよく面倒を見てくれた賜物であり,それなしに現場教育が成り立たないのは確かだと思っている。