生体高分子化学は,水産学部の海洋生物資源化学科・マリンバイオテクノロジー系コースと水産海洋科学科の3年生に開講している科目で,タンパク質,核酸,多糖など,生体高分子の構造と機能に関する知識と理論の習得を目的としています。授業では,生体高分子の機能解析法やX線結晶解析法などバイオ研究の最先端技術についても解説し,学部3年生にはやや難しい内容となっていますが,皆さん良く頑張って出席しています。
授業形態は,プリントと板書による説明を中心に適宜パワーポイントを使う,という平凡なものです。心掛けている点を敢えて上げるとすれば,授業準備を十分にするということでしょうか。今回,このような記事を書く機会が与えられましたので,私なりの授業準備の仕方や授業の進め方について以下にご紹介させて頂きます。なお,内容は4つのキーワードに関連付けてまとめてみました。
最初のキーワードは「一期一会」です。授業前に,「学生達とまみえるこの授業は一生に一度限りであるのだから,全身全霊をもってこの授業に取組むべし(大袈裟ですが)」と自分に言い聞かせています。ともすれば,報告書や申請書に忙殺され授業を億劫に感じることも多いのですが,そのような気持ちでは授業に力が入りません。理想的には,学会発表や研究成果報告会と同等の緊張感をもって授業に望むべきと考えています。
2番目は「起承転結」。これは漢詩の一形式ですが,言うまでもなく論理的に議論を展開するための優れた論法でもあります。授業内容ができるだけ起承転結の形で展開するように準備しています。例えば,授業の前日,教える項目を起承転結に沿う形で配置したフローチャートを作成し,このフローチャート上にコメントやメモを書き込み,授業進行表として用意しています。このようにして作った進行表によって授業を進めれば,あまり脱線せずに論理の展開がスムーズにできるのではないかと考えています。
3番目は「百聞は一見に如かず」です。授業では出来るだけ「本物」を見せるようにしています。タンパク質であれば,アルブミンやトリプシンの粉末の入った試薬瓶を見せ,細胞の磨砕装置の説明では研究室で使っているホモジェナイザーを,電気泳動の説明では泳動装置とゲルフィルムを,DNAシーケンサーの説明ではキャピラリーを講義室にもって行き学生達に見せます。また,タンパク質の立体構造のグラフィック表示は,データやソフトウエアの入手方法も含めてノートパソコンを操作しながら紹介します。板書でも,できるだけ多くの図やイメージ・イラストを描き,視覚的にも理解できるよう心がけています。専門知識が,言葉だけでなくイメージとして記憶されることを期待しています。
最後は「余談」です。私自身がそうですが,学生達も余談や逸話が好きなようです。ノーベル賞級の仕事にまつわる物語から,水産学部の先輩たちが残した業績にまつわるエピソード,また私自身の成功談や失敗談(学生は失敗談の方を好みますが)を授業の端々にちりばめます。授業で説明している内容が,人間物語を通じて身近なものに感じられ,さらには自分たちの将来の進路を考える上で参考になってくれればと思います(単なる息抜きでも良いとは思いますが)。
以上,思いつくままに述べましたが,本当のところ,「学生達が良く理解してくれたな」と手応えを感じるような授業は滅多にありません(多分,これからも無いでしょう)。けれど,これからも毎回「一期一会」の気持で準備をして授業に臨みたいと思っています。