1.授業の目的・内容
本講義は歯学部の3年次の後期から4年次の前期に行われる臨床系の専門科目である。歯並びが悪い状態,あるいは上あご,下あごの歯の咬み合わせが良くない状態のいわゆる不正咬合を,歯を動かすことによって治療するのが歯科矯正治療であるが,その診断,治療に関する知識として,歯科医師として知っておかなければならないものを身につけさせることが本講義の目的である。講義は30回行われるが,その前半の3年次は診断,治療の背景となる基礎的な講義内容であり,4年次に入って実際に患者さんに行う検査,診断,治療の具体的な内容に移行する。
2.授業実施上の取組・工夫
この種類の講義の特殊性として,興味のある無しにかかわらず,将来,国民に対して正しい歯科医療を行わせるために,学生に必要な知識を必ず身につけさせなければならないことがあげられる。従って必修である。一方で,必要な知識を得ようとすれば図書館,生協にいけば教科書が整備されており,必ずしも講義を聴かなくとも自ら勉強できる環境がある。そのような背景を考えると,この種の講義においては,必要な知識に対して間違った理解をしないように,また,整理して知識を得ていく道筋を示すことが重要であるものと考えている。加えて,医療人としてこれらの知識が必要であることを十分に認識し,興味を持って勉強に望めるように動機付けを行うことも,必修授業には欠かせない。このようなことから,講義の中では以下のようなことを心がけている。
・ ロールプレイの導入
最初の講義において,15人前後のグループに分け,パワーポイントで症例を見せた上で,その患者は何を求めて来院したのかを推測させ,まず患者の側に立って医師に対する質問を考えさせる。次に歯科医師側に立って答えを考えさせる。最後に患者,患者の親,歯科医師の役を設定し,全員の前で診療室での会話のロールプレイを各グループに行わせる。この40分程の演習から,学生に知識のなさを実感させると同時に,医療人としての態度も含めて,必要な知識を学ばなければいけないという意欲を持たせて1年間の講義をスタートしている。最初は冒険的な試みであったが,感想を書かせると意外と評判がよく,目的にかなっているものと考えられることから,遊びになってしまわないように注意しながら現在も続けている。時間が許せば最後の講義の時間を使って同じことを行い,講義で得た知識が実際に活用できることを実感させることもある。
・ 多くの症例の提示
講義の形態としてはパワーポイントを多く用いている。ほとんどがパワーポイントを見せながら話をしているといってもいい状態である。基礎的な内容の講義においても,その知識が実際の臨床の現場においてなぜ重要なのかを理解させるために,実際の患者や治療経過を見せて説明するように心がけている。また,基本的な知識を教授することに加えて,関連する最近の研究の情報や,臨床における苦労話,またそれぞれの講義項目における私見を,あくまでも私個人の意見であることを断った上で話すことも,学生の視線を強く感じるときである。
・ 知識の整理
毎回講義の冒頭に,その日のテーマが1年間の講義の中でどこに位置しているかを話すように心がけている。またその日に講義する項目で理解しておくことが必要な用語などを羅列したプリントを配布している。さらに講義を開始する前の5分間程度を使って,出席を確認することも兼ねて,前回の講義での重要な用語などを,小試験の問題という形で提示して回答させているが,学生にとっては重要なポイントを認識できるということと,軽い復習の効果もあると考えている。また30回の講義の半分が過ぎた3年次末に中間試験を行い,講義の前半で得た知識を確実なものにする機会を設けている。