この講義は、現在の企業会計が中心テーマでしたが、(1)企業が作成・公表する会計情報が、企業自身の行動や経済・社会にどのように影響し、どのような役割を果たしているのかを理解してもらうことと、(2)企業活動、社会・経済への関心を引き出し、今後の専門的な学習への導入となることを目的としていました。
「会計」では、まず取引の仕訳や財務諸表の作成方法が学習のはじまりとなるのですが、この講義では履修者はそのような知識を全く持っていないという前提で、会計情報をキーワードにして、社会的な問題となった企業行動や経済政策について具体的な事例を取り上げて解説しました。
これらの事例には、そごうの破綻と連結会計、経済政策と有価証券の時価評価の凍結、りそな銀行の破綻と税効果会計、ライブドアとフジテレビのニッポン放送株争奪、丸井今井の店舗閉鎖と減損会計などがあります。講義では、事例の背景と意味について解説した上で、企業行動や経済政策などについて考える課題を出しています。
履修者は簿記や会計の知識がないという前提でしたので、はじめに2回ほど、用語、財務諸表の構造など講義の中での理解を助ける基本的な事項を解説しています。
講義では、取り上げた事例ごとに新聞の記事(複数紙、解説、社説も含)をまとめたプリントを配布しています。プリントは、事例での展開や全体的枠組みがわかるように編集していますが、縮小してもA3用紙で3、4枚程度にはなりました。新聞を使ったのは、身近なメディアでもこのようなことがわかることを示し、種々の意見や見解(時の経過や各紙によって論調も変わりうる点も含めて)をじっくり検討してもらうためです。
講義中にはこのプリントをもとに板書で解説し、全文を読むのは宿題となります。だいたいひとつの事例で2回は必要になりますので、2回目には前回の確認から入ることになります。課題では、プリントと各自が探した補足的な資料から、問題点と重要事項を読み取り、その上で自分の考えをまとめます。この課題は大小合わせて全体で4回ありました。
この講義は、全学部の1,2年が対象でした。経済学部の学生が6割を占めていましたが、理系学部の学生も1/4ほど履修していました。理系学部の学生にも関心を持ってもらえるかが不安でしたが、出席、成績でも学部による差は特に見られませんでした。
また、取り上げた事例には、かなり専門的な内容もありました。簿記検定1級(これは結構難しいレベルです)の勉強での理解に役立ったという学生もいました。できるだけ丁寧に説明したつもりですが、全学教育は初めてでもあり、授業の難度が適切かと心配でした。しかし、多くの学生がこちらの期待したところをかなり的確に理解しており、強い関心と興味を示してくれてこの点は杞憂に終わりました。
アンケートでは、これを機に新聞の購読を始めた、新聞を読む習慣が付いたという学生が数人いました。少しでも社会、経済に対する関心を持つきっかけになったのであればうれしいかぎりです。なお、この講義では、学生も聞いたことのある企業や人を含む事例を取り上げるようにつとめましたが、5年前くらいはこちらにとってはつい最近と思っていても、学生にははるか昔という感覚で新鮮味に欠けるようです。事例選択に当たっては鮮度の判断が必要と感じています。