理系部局

○ 海洋生態学実習 北方生物圏フィールド科学センター・教授・向井 宏

海洋生態学実習は、理学部生物科学科の臨海実習Vに相当するもので、3年目学生を対象とした選択科目である。本実習はひとむかし前までは必修科目であったが、学生数の倍増に伴い、受け入れる厚岸臨海実験所の宿泊室、船の定員などが足りず、全員を受け入れることができなくなったため選択科目としたものである。もっともクリティカルな船の定員のため、20名を最大限として選択希望者を受け入れているが、毎年のように希望者が20名を超えており、調整により辞退を強制せざるをえない。参加できなかった希望者には、ほぼ同内容の全国の大学生を対象としたオープンコース「公開臨海実習」の希望者が満たない場合には、参加を認めるようにしている。

生態学は他の多くの生物学と違って、自然の中で生活する生物の反応を調べる学問であり、研究は主に野外で行われる。そのため、本実習でも野外に出かけ生きている生物の生活をみることを主眼とした実習を行っている。まず最初に、生物の物理的、化学的な環境を把握するための海洋観測を自分たちでやってみる。5トンくらいの小さな船(実習船みさご丸)に乗って海水を採取したり、水温・塩分を測ったり、六分儀を使って船の位置測定も行う。最初の海洋観測実習で、多くの学生が船酔いに苦しみ、夜中の12時頃まで採集したサンプルの処理に苦しんでいる。野外実習や合宿形式の実習ということで、ピクニック気分で来ている学生が多いが、初日のこの実習で度肝を抜かれることが多いようだ。これは大変なところに来た、と。

二日目からは野外で生物を見ることが中心となる。潮の干いた海岸で潮間帯生物の分散様式を調べて個体間関係を推察すること、無人島の大黒島まで船で渡りヒナを育てているオオセグロカモメのファミリーの行動を観察し、野帳の書き方を学ぶこと、ヤドカリの干渉行動を観察しその要因を追求すること、などがその内容である。

特別の授業の工夫はないけれど、とにかく野外へ学生たちを出すことを心がけている。最初野外に出た学生たちは、何をしていいのか分からずウロウロしているが、やがて野外で生き物をみることの楽しさを見つける。その様は子供のようである。おそらく多くの学生が子供の頃自然の中で遊びをしてこなかったのであろう。ただし、自由に遊ばせる時間は多くない。その中から生物の生活をどのような視点から見、データを集めるかを気づかせる現場での適切な指導が必要で、それがなければすぐ遊びと区別のないものになってしまう危険がある。

ヤドカリの行動観察は実験室内で行うが、材料のヤドカリは自分たちで採集に行くようにさせている。これもこちらで用意した方が時間の効率はいいけれど、野外のどんなところでヤドカリが生活しているかを知ることが行動観察の結果を考察する上でも大変大事である。

実習はすべて二人一組とし、共同行動をとらせるようにしている。レポートも二人で議論して書かせる。二人でやり方を工夫し議論すること、コミュニケーションをとることの重要性を認識させる。

北の海、とくに寒流しか流れていない厚岸の海は独特な生物(例えば、アザラシなど)が棲んでおり、学生たちには貴重な経験となったであろう。しかし、寒いために海の中に入ることはできないので、実習は大潮の干潮時を狙って行わねばならない。そのために、朝6時頃から実習を行わねばならないことも稀ではない。船酔いや朝早くから夜遅くまで共同で行動し同じ釜の飯を食べることによって、札幌キャンパスでは同じ専攻であってもバラバラだった学生たちが、この実習を境に絆を深めているようだ。昔の学生たちが厚岸で同窓会を開くことがあるのはそのせいではなかろうか?できれば大潮干潮時が昼間にくる機会はそれほど多くない。7月―8月が夏期休暇であった頃は大潮時にあわせるためには7月に本実習が行えたが、現在では6月―7月の他の授業が行われている時に行わざるをえない。他の授業が休講になることもあるが、本実習の意義あるところをくんで、他の先生方にはご寛容いただきたい。


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