いわゆる「野生動物」の研究の多様さや深さで北大は他大学より抜きんでているが、学生がこの広範な分野を俯瞰する機会は意外に少ない。また、北海道は地域社会と野生動物との間の軋轢、いわゆる「野生動物問題」への対処(施策)の先進地だが、その現状を学生が知る機会は実は少ない。本講義では、この二つの問題意識に立ち、「野生動物」と「野生動物問題」について、多様な視点から、かつ実際の対策(政策)を強く意識しながら、「野生動物と人とのかかわり」を学ぶことをめざしている。
内容は、歴史的俯瞰、科学(主に生態学)的基礎、施策過程、各論、の四部構成で、教科書は用いず、ほぼ毎回レジュメと資料を配りながら行った。
登録者数が多め(約100名)で小回りがきかないため、基本的に「講義」形式をとらざるをえない。それゆえ特に以下の点に注意した。
1)評価基準を明確に:近年、学生諸君の「明朗会計」志向が強い。それ自体はよいことなので、コメントペーパーによる出席、数回のミニレポート、最終レポート、の3つのおおよその配点を一講目から予告し、出席回数などが危ない学生には警告も発した。ただし、単位のみが目的の学生ばかりでも面白くないので、「あそび」(面白いミニレポートへの追加配点)を設定し、今どきの学生諸君のそこそこの「やる気」を誘発した。
2)感想・質問を楽しむ: コメントペーパーについては、準備の余裕があるときには、講義内容に対応した小設問を設定するなどし、記入することで講義の筋が整理できる工夫をした(が、大抵はできあいの用紙を慌てて配布・回収して終わった)。コメントには個々に対応できないため、数回分の回答をまとめて配付・解説した。毎回100人近くから集まるコメントの内容は多岐にわたり、目を通すだけでも徹夜ものだが、とにかく面白い。こちらが彼・彼女らの発想や体験を面白がり、その地域的・歴史的・科学的背景を私なりに解説すると、また突っ込んだコメントが返ってくる。大半の人には十分な返答ができず悔やまれるが、どちらが教わっているのかわからないほど、大変楽しませてもらった。
3) 得意なAV素材を選ぶ:受講生の要望で多いのが、’ビデオを見たい’、’パワーポイントのハンズアウトがほしい’、というものである。野生動物を扱う手前AVは使わざるをえず、また社会問題を扱う手前ニュース番組などは問題の整理に大変便利である。しかし行き過ぎると、学生が自分の目や手足(すなわち自分の脳)で情報を収集整理したり、現場で問題に突き当たる機会を奪いかねない。そのため、使う素材(番組)は、単に講義内容に合わせるだけでなく、同じテーマで複数の異なる番組を見せる、自分が制作に関わったものを使う、周辺事情を説明するなどして、複眼的・批判的に見せるよう気をつけた。またパワーポイントを使う際、教員は学会発表風になりがち、学生諸君はハンズアウトで満足しがちなので、途中にビデオを挟んだり、完全な学会発表式とその解説を兼ねた講義式を併用するなどして、提示手法に自覚的になってもらうことも試みた。
4) 特集を組む:同じように扱っているつもりでも、得意不得意はすぐに見抜かれる。そこで開き直り、私自身の主研究対象であり、北海道でよく話題に上るニホンジカだけを材料に、上述の4部の内容を通覧した。この「シカ特集」は好評で、学生の反応も具体的で積極的だった。
5) 現場に行く:本講義は、最終的に野生動物と地域社会との軋轢を軽減するための政策論までの俯瞰を目指している。大学近辺には全国に誇る研究機関がいくつかあり、そこは研究・行政・地域教育など、多面的な情報が集まり政策が生み出される現場である。その緊張感や、自分たちが学ぶ物事がそこにどう関わっているかを実感してほしいので、希望者を対象とした見学会や野外観察会などを企画した(ただし20年度はスケジュール調整に失敗し、数名が調査体験をしただけで終わった)。
学生のコメントで好評だった点は、以下の3点だった。
しかし、これらはとりたてて特別な工夫ではない。実は本講義に対する今回の評価は、せっかく北大に来たのに「期待した野生動物問題にかかわる文理融合型の講義が少ない」ことに対する学生の「評価」(不満の裏返し)ではないか。北大は、土地柄もあって野生動物に関心を持って入学する学生が多い。講義初日の学生諸君の期待と熱気たるや恐ろしいものがある(特に情熱を持って受講した一割近くの「もぐり」諸君が評価を偏らせた可能性はある)。
しかし、このままでは本講は、「少し変わった講義」の一つでしかない。今後は、関係部局や学外機関と連携し、専門教育や進路支援とも結びついて、この高い「需要」に応える体制が求められる。そしてそのためには、助教というポストの扱い方の問題も考えざるをえない。教育予算がつかず、学生・院生の教育に主体的に関われなければ、責任ある受け皿にはなれないからである。