センター長のあいさつ

 この度の東日本大震災では多くの方々が命を落とされ、さらに家族や友人を失われた方、また家や職場など生活の場が一瞬にして消失した方々がたくさんおられます。被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。この大震災では、東北・関東地方の多くの大学・研究機関が甚大な被害を受け、研究教育活動に大きな支障が出ています。私ども北方生物圏フィールド科学センターも、北海道大学の一員として、できる限りの支援をしていく所存でございます。

 さて、本北海道大学北方生物圏フィールド科学センターは平成13年(2001年)に設立されましたので、本年でセンターはちょうど10年を過ぎたことになります。本センターは6つの領域(生物資源創成、共生生態系保全、持続的生物生産、生物多様性、生態系機能、生物群集生態)から構成される教育研究部、3つのステーション(森林圏、耕地圏、水圏)、技術室と事務部からなり、100名を超える多様な職種の職員で構成され、全面積は約7万ヘクタールという我が国の大学施設として恐らく最大の規模を有しております。ちなみに、この面積は概算すると我が国国土の0.2%を占めることになります。

 本センターは、農学部附属であった農場、牧場、植物園、7つの演習林(天塩、中川、雨龍、札幌、苫小牧、檜山、和歌山)、理学部附属の臨海実験所(厚岸町)、海藻実験施設(室蘭市)、水産学部附属の臨湖実験所(虻田町洞爺湖)、養魚実習施設(七飯町)、水産実験所(南茅部町臼尻)などの15の省令施設と学内施設であった忍路臨海実験所(小樽市)を統合・再編して設立されました。各学部・施設で行われてきた、いわゆる北方圏生態圏でのフィールド科学の研究を、一つの組織としてまとめて総合的に推進していこうと意図したもので、我が国唯一の森、耕地、水圏を包含する研究教育施設といえます。センターが設立された翌年の平成14年3月には、こうした理念を受けて、「フィールド科学の構築をめざして」と題したシンポジウムを開催しております。これは平成13年度北大教育研究基盤校費を受けて、各ステーション・領域の研究者がそれぞれで行ってきた研究教育を踏まえて、今後センターとしてどう展開すべきかを講演したものでした。

 当時、流動教官としてセンターの持続的生物生産領域に在籍されていた波多野隆介教授(現:大学院農学研究院教授)は、このシンポジウムの基調講演の中で北方生物圏の環境の現況と未来を考えるため必要な研究の流れとして、以下の3点を提示しておられます。すなわち;

1)北方生物圏の特徴を精査する

2)環境の現状を長期にわたりモニタリングする

3)持続的利用の為のシナリオを書く

でした。

 10年目の節目を迎えて波多野先生が提示されたこうした課題の進展状況を考えるには、先般開催された中期計画の外部評価委員による評価が参考になるかもしれません。この評価では、北方生物圏の特徴の精査や環境のモニタリングなどの研究には高い評価を受け、教育面でも社会人対象も含めて一定の評価を受けました。これらの研究は、基礎的な部分で「持続的利用の為のシナリオ作成」に寄与するものであり、3)について一定の進捗状況にあることが示唆されるものでありましょう。ただし、具体的なシナリオ作成といった成果が上がっているわけではありません。

 外部評価委員から更に「領域間・ステーション間の有機的な連携を一層強められたい」と指摘を受けました。「持続的利用の為のシナリオ作成」にはセンター設立の理念であった北方生物圏のフィールド科学の連携と総合化が前提でありましょう。次の10年を考えますと、波多野先生が提示された北方圏におけるフィールド科学の構築は少なくとも、上記1)と2)の課題を一層追究しつつ問題点を明らかにし、それを踏まえた有機的な連携の上で3)を実施していくというシナリオになるのでしょうか。例えば、センターが地域社会と結んでいる包括連携などはこうした各ステーション・領域の連携の核になる可能性を秘めています。北方生物圏フィールド科学センターの次の10年間は、こうした面での研究教育が更に活発になることを期待しております。



平成23年4月1日 センター長 近藤 誠司