シリーズ5・日本古来のハーブたち(1995年)

1.ワサビ

 日本(北海道から九州)に自生して、昔から香辛料として用いられてきた植物の代表で、刺身や寿司に欠かせないものといえば、もちろんワサビです。あの独特の鼻にツーンとくる辛みと香りは、日本人にとってはお馴染みなのですが、利用するのはどうも日本と中国だけのようです。ワサビ(Wasabia japonica)は深山の澄んだ渓流にはえる多年草で、長い柄のある丸いハート型の葉を根本から出します。花は4〜5月ごろに咲き、十字形をした花が集まって咲き、花びらは白〜淡黄白色をしています。地下茎は太い円柱状で、節がつまって葉の落ちた痕があります。この地下茎をおろして、私たちはおろしワサビとして利用します。

 ワサビの地下茎と葉には特有の辛みがありますが、これは細胞中に含まれる配糖体シニグリンが、共存する酵素ミロシンによって加水分解され、アリル芥子(からし)油のほか2、3の物質に分かれることによるのです。従ってワサビはおろし方(つまり細胞を破壊して加水分解反応を起こさせる)によって辛みに強弱があるといわれており、地下茎上部の葉のついている方から細かいおろし金ですばやくおろすことが辛味を出す秘訣だといわれています。根ワサビは高価ですが、3〜5月ごろ店頭で見かける葉ワサビや花ワサビは手ごろな値段です。これらもワサビ特有の辛みと香りをもっていますから、旬を楽しむことができます。

 現在ワサビは長野、静岡、東京、山口、島根などで栽培されていますが、栽培の歴史は以外に新しく、江戸時代からではないかと考えられています。ワサビの栽培には、豊富な清流を利用する渓流式、地沢(ちさわ)式、畳石(たたみいし)式と、伏流水を利用する平地式とがあるそうです。どの方式でも、水温が高くならない様にすることが大事で、真夏の直射日光を避けるための工夫もされています。これらの栽培管理法は、ワサビの生育を良好にするために、栽培環境を自生している環境に近づけることから工夫されたのでしょう。一方、明治の初めにアメリカから入ってきた北ヨーロッパ原産のワサビダイコン;セイヨウワサビ(Armoracia rusticana)、英名ホースラデイッシュ(horseradish)は、粉ワサビの原料や料理のスパイスとして栽培されていますが、近年野性化しており、この根を手軽にワサビの代用とすることもあります。

ワサビ
(Wasabia japonica)