シリーズ9・食卓を彩る果物たち(1999年)

5.ナシ

 秋の味覚を代表する甘くみずみずしいナシは、バラ科ナシ属(Pyrus)に分類される果樹でリンゴやブドウとともに古くから親しまれています。名前の由来は明確にされていませんが、口に入れると氷のように溶けて後に何も残らないのでナシと呼ばれたという説や、中の部分(ナ)が酸っぱい(ス)ことを表わす「ナス」が転じたという説があります。しかしナシは無しに通じる忌み言葉とされ、果実はアリノミと呼ばれてきました。樹高は15mにも達しますが、栽培するものはずっと低く仕立てられます。枝は黒紫色で時に刺状となり、葉は卵形または卵円形で長さ7〜12?、縁はギザギザしています。葉の開くのと同時に直径3.5?〜4?の白い花が5〜10個散房状に集まって咲き、遠くから見ると雪が降ったように美しく見えます。

 栽培されるナシは大きく3つに分けられます。球形のニホンナシ(P. serotina)、洋梨型のセイヨウナシ(P. communis)、そして日本ではあまり作られていませんがこの二つの中間型を示すチュウゴクナシ(P. ussuriensis)です。ニホンナシは「長十郎」「二十世紀」に代表され、果肉に石細胞が多くシャリシャリとした歯触りから英語で「サンド・ペア(Sand Pear)」と呼ばれ、樹上で完熟させることで最高の風味に達します。これに対して「バートレット」「ラ・フランス」に代表されるセイヨウナシは、甘くねっとりとした舌触りから「バター・ペア(Butter Pear)」と呼ばれます。果実は硬いうちに収穫し7~20日間の追熟(果実を完熟させるために一定温度で保存すること)によって肉質は軟らかくなり、特有の香りを放ち美味しさのピークを迎えます。 ニホンナシの祖先が日本の野生種を改良したものか詳細は不明ですが、奈良時代にはすでに栽培していたといわれ『日本書紀』(720年)に記載があります。多汁質の果実は古くから水菓子として好まれ、盛んに改良が行われて江戸時代末期には150もの品種があったようです。中でも明治時代に偶発実生として発生した「長十郎」と「二十世紀」が特に著名ですが、最近では耐病性を持ち、より甘く多汁で軟らかい「新水」「幸水」「豊水」の三水シリーズが栽培の中心となってきています。

ニホンナシ
Pyrus serotina