シリーズ13・ロックガーデンを彩る高山植物たち(2003年)

1.チングルマ

 白い可憐な花を咲かせ、ときに群生して絨毯(じゅうたん)のように広がるチングルマ(Geum pentapetalum)は、春のロックガーデンを代表する高山植物のひとつです。紅紫色のエゾノツガザクラ(Phyllodoce caerulea)や、淡い黄緑色のアオノツガザクラ(P. aleutica)とともに競い合うようにして咲く姿はとてもはなやかで、見る者の目を楽しませてくれます。

 本州の中部以北から北海道、千島、樺太、カムチャツカ半島にかけて分布しており、亜高山帯や高山帯の湿性地や、「雪田」と呼ばれる雪のたまりやすい凹地に生育し、深い雪に覆われることで冬の低温や強風といった過酷な環境から身を守っています。一方で、その雪が深いほど雪解けが遅くれるという不利もあり、生育可能な期間は雪が消えたわずかな合間に限定されてしまいます。このためチングルマの生長は非常にすみやかで、大雪山のデータ(工藤2000)によれば、消雪からわずか約3週間という早さで開花に至るようです。

 草丈は10?ほどで一見すると草のように見えますが、実はバラ科の小低木で、その証拠に茎の根元は細いながらも木質化しています。直径2〜3?、白い5枚の花びらからなる花は、中心部に雌しべ、雄しべが多数あり、ともに鮮やかな黄色でよく目立つため、遠目から見ると黄色味を帯びた花に見えます。花びらが散って花が終わると、にわかに変化が生じます。糸のように細い花柱(めしべの柱頭と子房の間の部分)が3cmほどに伸長して、赤紫色になり、さらに白毛を生じて、羽毛のように開きます(右図)。この変化した花柱は、タンポポの綿毛と同様に種子を運ぶパラシュートの役目をなし、高山に吹く強い風を利用して少しでも遠くに子孫を残そうとする植物の知恵なのでしょう。

 和名は稚児車(チゴグルマ)が転じたもので、花が稚児のように小さくて愛らしく、 5枚の花弁が車輪状に並ぶこと、花柱の風になびく姿が子供の持つ玩具の風車に似ているといった説など、その由来には諸説あります。本園では高山植物園内の南側に位置する滝の周辺に植栽されており、平年であれば5月中旬から下旬に花を、7月ごろには羽状に変化した花柱の様子を見ることができます。

参考:高山植物の自然史(工藤岳編 北海道大学図書刊行会2000)ほか

チングルマ(Geum pentapetalum

花後の花柱