海岸の明るい岩場や、山地の岩壁などに生えるイワギク(Dendranthema zawadskii)は、マーガレットの花を小さくしたような花を咲かせるキク科キク属の多年草です。草丈は20〜30?と小柄で、大きいものでも50?ほどにしかなりません。葉は広卵形で光沢があり、やや肉質で、長さ1〜4?、手のひら状に深く裂け、その裂片はさらに羽状に裂けています。茎の下につく葉には長い柄がありますが、上部にいくほど柄は短くなり、葉の大きさも小型になります。晩夏から秋にかけて、直径4〜5?、白色から淡紅色の花びらに、中心部の黄色がよく映える可愛らしい花を茎の先端につけます。本園の高山植物園では、例年8月中旬から9月中旬ごろまで、岩組の間に咲く花を見ることができます。
道内では日本海沿岸の岩場に、本州では山地や海岸に近い山間の岩場に生育し、北陸から近畿、四国、九州までの広い範囲にわたり、特に石灰岩地に点々と隔離分布しています。そのほか朝鮮半島、中国、シベリアなどの東アジアからヨーロッパ東部のカルパチア山脈にかけて分布しており、イワギクはキク属の中でも最も広い分布域を持っています。このため各地域によって形態の変化が大きく、茎の高さや枝の分かれ方、葉の切れ込み、花の大きさや色といった点でばらつきがあり、イワギク群の分類は非常に複雑になっています。
イワギクが山地の石灰岩地に隔離分布しているのは、氷河の影響によると考えられています。氷河によって大陸と地続きになっていたころ、北方系の植物は氷河とともにも南下して来ました。しかし氷河期が終わるとともに、追いやられるようにして北に戻り、また一部は南の高山帯に逃げ込んだといわれています。逃げ込んだ高山のうち、石灰岩地は弱アルカリ性の土壌というだけでなく、乾燥しやすいうえに乾燥すると固まる性質を持つことから、植物が侵入、定着するには非常に厳しい環境となっています。しかしイワギクはあえてこのような条件下に生育することで、他の植物の侵入による競争を避けて、生き残る道を選んだのでしょう。このようにして生き延びた植物を、遺存(もしくは残存)植物と呼び、石灰岩地のほか強アルカリ性の蛇紋岩(じゃもんがん)地などで主に見られ、土壌条件の特異性から特殊な植生を作り出しています。
参考:高山植物の生態学(増沢武弘 東京大学出版会 1997)ほか
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