研究報告13


Evidence for divergent natural selection of a lake Tanganyika cichlid inferred from repeated radiations in body size

邦題:繰り返し起きた体サイズ多型の適応放散から推測したタンガニイカ湖における発散自然淘汰の証拠

著者:Tetsumi TAKAHASHI*, Kazutoshi WATANABE*, Hiroyuki MUNEHARA, Lukas RUBER and Michio HORI*

*Laboratory of Animal Ecology, Graduate School of Science, Kyoto University, Kitashirakawa-Oiwake, Sakyo, Kyoto 606-8502,Japan, Field Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University, Usujiri 152, Hakodate, Hokkaido 041-1613, Japan, Department of Zoology, The Natural History Museum, Cromwell Road, London SW7 5BD, UK

出典:Molecular Ecology (2009) 18, 3110-3119


要約和文

 発散自然淘汰( divergent natural selection )は、種形成において極めて重要な役割を果たしたと考えられている。しかし、野外から測定可能な例はまだ得られていない。発散自然淘汰の考え得る素因の中で、捕食圧は重要かもしれない。なぜなら捕食者は食物網の何所にでもいるからである。ここで、我々は隠れ家としての石の下や巻貝の空き殻を利用するタンガニイカ湖シクリッド科魚類テルマトクトミス・テンポラリスで発散自然淘汰の証拠を示した。この魚種はいくつもの水域で通常型とドワーフ型の二型が見つかっている。通常型は湖岸の岩場に生息し、一方ドワーフ型は空き殻が高密度で集積している湖底のシェルベットに生息する。遺伝学的解析からドワーフ型は通常型から2つの水域で独立に進化してきたことが示されており、形態解析と生息地構造も体サイズの多型は、それぞれの生息地における利用可能な隠れ家サイズに良く対応していることを示した。これらの結果は、2つの多型が捕食者から逃れる戦略と結びつき、発散自然淘汰を通して繰り返し進化したことを示唆する。



論文解説

 タンガニイカ湖には、この湖にしか生息せず、この湖で適応放散したと考えられる200種近いシクリッド科魚類が分布しています。そのため、タンガニイカ湖は、進化研究に適したフィールドとして、スイスなどヨーロッパの国々や日本の研究チームが毎年調査隊を派遣し、生態学、系統学など様々なアプローチで研究活動を展開しています。本論文はシェルベッドを棲み場としているシクリッド科魚類数種のうちの1種、テルマトクトミス・テンポラリスを材料に、最近話題の発散自然淘汰による同所的種形成(種分化)の証拠を見出した研究報告です。筆頭著者は、北大水産学部出身で現在京都大学研究員の高橋鉄美博士で、共著者の宗原は、遺伝子解析の一部を協力しました。
 この論文の話題となっている発散自然淘汰について少し説明しておきましょう。淡水で生活する淡水型と海に降りる降海型の二型が見られるトゲウオ科のイトヨでは、水系毎にこの二型が進化したという証拠はあげられています。2つ以上の水系で同じ方向に進化することから並行進化と呼ばれることもあります。つまり、異なる水系に分布するよく似た集団よりも、同じ場所に生息するサイズや姿、生活史が異なる集団の方が遺伝的に近いというケースで、行き来できない場所でも、同じような環境条件なら、同じ結果になるということです。一方、自由に行き来できそうな一つの湖のいろんな場所で、同じような進化が起きるということは、考えにくいことでした。
 タンガニイカ湖の多くのシクリッド科魚類は、親から独立してから、それほど大きく住み場を変えません。それは、捕食者が周りにたくさんいるため、大きく移動しようとすると捕食される危険が高くなるからです。そうした環境のタンガニイカ湖で、シェルベッドが様々な種類のシクリッドに格好の隠れ家となり、ドワーフ型の種内多型を進化させる種が出現しました。この論文は、テルマトクトミス・テンポラリスを例に、淘汰圧を捕食圧と想定し体サイズの二型化が進化したという仮説を、形態や遺伝学的解析から検証し、発散自然淘汰を立証した点が認められて、Molecular Ecologyに掲載されました。







図1 テルマトクトミス・テンポラリスと調査地 (a)通常型雄(左)とドワーフ型雄(右)、(b)タンガニイカ湖南岸の
調査地付近の地図、(c)通常型が生息する湖岸の岩場、(d)シェルベッド




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